第三章 二幕
翌日。未明。
銀二は頭を抑えながら起き上がると、周りを見渡す。
片づけられた客間。
膝の上にはまつり。
銀二は微笑むと、その頬に手の甲を添える。
そっとまつりを抱き抱え、奥の寝室へ運ぶ。
見渡し……そして呟く。
「玄之丞……?」
銀二はゆっくりと客間、炊事場へと進み、そのまま裏の庭まで出る。
あたりを見渡し、一息付くと、ふと月を見上げた。
「……そっか……そうだったね。」
銀二は頷き、炊事場へ戻る。丸薬を口に入れると、水で飲み込んだ。
——玄之丞は月明かりの下、赤銅の煙管を取り出す。
そこは、城の輪郭がはっきりと望め、水守宿を一望できる。
そこには、数多の墓標が並ぶ。
そこでは、いかなる修羅も翼を畳む。
煙を吹き出すと上品で、どこか甘い香りが立ち込める。
供えてある盃に酒を注ぐと、静かに、自分の盃にも酒を注ぐ。
胸元に持ち上げ、瞳を閉じる。
そして、そっと煽る。
瞳を閉じたまま、腰掛ける。
再び酒で満たし、手に持った徳利を、そっと備えた。
——日が差し、烏鳴。
ゆっくりと町を眺めながら、玄之丞は歩く。
向かいから娘が歩いてくる。
手には柄杓と桶を持ち、パタパタと足取り軽く。
娘の眼が一瞬、玄之丞を見る。
玄之丞はまっすぐ歩きながら、煙管を取り出す。
二人はすれ違う。
数歩進み、娘は振り返り、深々と頭を下げた。
梅屋の暖簾を潜ると、銀二が朝餉の準備をしていた。
玄之丞が周りを見回すと、銀二は口に人差し指を当てる。
「……昨日、準備におもてなしにって張り切ってたから。」
玄之丞は小さく口元を緩める。
「……ああ。」
そして腰に下げた大小を抜き、打粉を打つ。
「それと玄之丞、高瀬の商人から前金と依頼の文が届いてたから。」
銀二は思い出したように口を開いた。
「渾身の達筆で不要って書いて送り返しといたよ。」
銀二は悪戯に笑う。
玄之丞も頷く。
やがて、匂いに釣られて鬼の子が目を覚ます。
——時は下り、迎え火の香りが漂う烏鳴。
酒場、夕烏。
大柄な役人は暖簾を潜り、長板の隅に腰を掛ける。
「いらっしゃい……あら熊五の旦那も。」
女将は付け台に肴を置く。
「うむ、熱く点けてくれ。」
熊五郎の口元を見て、女将は微笑む。
「あら、いい事あったんですね旦那。」
熊五郎は並べられた徳利を眺めると呟いた。
「八塩折之酒……か。あいつも粋な事を……。」




