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第二章 二幕

 水守宿より夜通し三日。


 女の案内で辿り着いたのは城だった。

 城下町では様々な噂が飛び交っていた。


「……聞いたか?」

「何を?」

「姫のことだ。」

 酒屋の店主と客は声を潜める。


「あの爺さんが殿を……」

「おいやめろ。ここで話すことじゃない。」

 傘屋と小物屋が立ち話をしている。


「何でも屋が来るらしいぞ。」

「何でも屋?」

「……人斬りもやるって話だ。」

 浪人と岡っ引きは眉を顰める。


 そして、茶屋。 

「その刀を抜けば――」

 大柄な男は身振りを真似る。

「よせ。」

 切れ長の痩せ男は、低く遮った。

「春が終わるぞ。」



 

 毅然と歩く女に従って城門へと進む。


 警備の兵は女を見て腰を抜かす。

「ど、どうぞお入りください。」


 すると家臣が足早に迎えに現れた。




 その姿を、天守からそっと、杖の老人が見下ろしていた。




 ——その頃、山賊の根城。


 頭領の男は机に脚を投げ出し、不機嫌な表情を隠そうともしない。


 瓢箪を口に運び、喉を鳴らすと、部下に向けて瓢箪を投げつける。

「あんな小せえ城のひとつやふたつ落とすのに、何年かかってやがる!」


「へえ、お頭……間もなく烏鳴から援軍が来てくださいやすんで。」

 別の部下が、新しい瓢箪を頭領に届けながら口を開く。


「援軍……?おお、そうか。ついに湧水の旦那が凄腕を見繕ってくださったのか。」

 頭領は機嫌よく長煙管を手に取ると、焚き火から燃え差しをつまみ上げる。


 深々と煙をため込み、勢いよく吐き出す。

「いいか、お前ら。何としてでも手に入れろ。」


 そして瓢箪を煽る。

「ぶはっ……。神だか仏だか知らねえが、あれだけあれば他はどうとでもなるわ。」




 ——城では。


 当てがわれた部屋で、玄之丞は寝転がり、煙管をふかす。


 硝之介は窓際に立ち、月明かりを眺めている。


 銀二は算盤を片手に帳面に筆を走らせる。


「失礼いたします」

 程なくして、従者が襖越しに声を掛ける。


「姫の支度が調いました故、御同行願います。」



 

 上段の間には、依頼に来た女——姫が座していた。

 拝謁する家臣達を尻目に、三人は促されるまま下段の間に座る。


(……どこの馬の骨ともわからぬ、不敬な奴らめ。)

 玄之丞が、ゆっくりと視線を向ける。

(……!)


「此度はわらわの……いえ、この節は私の依頼に応えお越し頂き、誠にありがとうございます。」

 姫は頭を下げる。


 家臣たちから小さく動揺が漏れる。


 銀二は少し改まり、姫を見詰める。

「恐れながら姫君殿。この依頼……貴女の個人的な依頼でいいんだね?」


「左様に御座います。」

 姫は俯き加減に答えた。


 硝之介が静かに口を開く。

「供も付けずに三日三晩……。」


 銀二も頷く。


 玄之丞は静かに姫を見詰める。

「ああ。」


 静寂。


 姫はゆっくりと顔を上げ、微笑んだ。

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