第二章 冒頭
青葉は揺れ、小川は穏やかに山間を下る。
鳥たちのさえずりを引き裂くように……賊徒は野を駆ける。
足軽が負傷者を引きずっている。
「畜生、あいつら……!」
「こんなのいつまで続くんだよ!」
疲弊した足軽は、それでも、手に武器を取り合い立ち向かう。
「姫を守れ!」
「殿の恩義に報いるんだ!」
物頭が声を張り上げる。
「……進みが速すぎる……弓兵を……。」
精悍な城代は天守を仰ぎ見る。
——天守閣。
侍女に襷を掛けさせながら、姫は城下を睨みつける。
「妾が行って……少しでも士気を上げねば……。」
鉢巻を力強く巻く、そのすぐ傍らには杖をついた好々爺。
「しかし、あの時の殿は勇猛でしたな……ほっほ。脱兎の如く駆け出す鹿に向け矢を番え……。」
老人は顎を擦りながら口籠る。
「ふむ、しかしまだ弓の話には早い……あれもまだ——動かさん方がええじゃろ。」
老人は従者に微笑みを向ける。
「芝、妾は父上の残したこの城を守らねばならぬのだ!」
「ほっほ、それは勇ましい。」
杖の老人——平子芝は黒柿色の羅宇煙管を取り出すと、火を付け、煙を吐き出す。
「勇ましいと言えば……先日、北の国で城下街を忍びが……。」
「芝っつあん!」
姫は芝を睨みつける。
「敵がそこまで来ているのです!」
「ほっほ……それは恐ろしい。こんな時……例えば全員が忍びならば、水の上でも走って逃げられましょうな。」
従者たちが怪訝な眼を向ける。
「いやなに、年寄りの戯言じゃよ……。」
そして階下に向かうという従者を呼びつけて話し続ける。
「ほっほ。戯言ついでじゃが、下に行ったら左手の櫓……少し下げさせておきなされ。」
従者は不可思議な表情を返す。
「いやいや、年寄りの戯言ですじゃ。城代にそれとなく……のう。」
芝は微笑む。
——二の丸。
「……何?芝殿が?……相分かった。」
従者から芝の言伝を聞いた城代はすぐさま準備を整えていた弓兵を制し、櫓へ下がるよう指示を出す。
「何故です、戦場にも出ずにそんな突飛な老公の言を受けるのですか?」
弓兵が進言する。
「黙れ。……あの方は……。」
「伝令、奇襲に御座います!」
息を切らし、斥候が駆けつける。
「おそらくはこちらが敵の本隊……堀の前の敵勢は囮に御座います!」




