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付喪神のいる食卓 ~気弱な僕が"真の主"になるまでの物語~  作者: 守雨
<7> 付喪神使いも、いろいろ

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60/62

60 スーパー銭湯へ

 雨月の気持ちが、少しはわかった気がする。

 血の契りで強制的に主従関係を結ばされたとしても、雨月はその時々の主を大切に思ってきたんだ。

 だから「嘘をつかれているんじゃないか」と思っても、主(あるじ)の言葉を信じたいと思う。

 僕に対して少し怒りをぶつけたのも、「もっと俺の主らしくあってほしい」ってことなんだろうな。

 そんなことを考えながら書類をチェックして、来庁者さんに返す。


 昼休憩になってスマホを確認したら、着信とショートメッセージが残っていた。どちらも青島さんからだ。

『青島です。昨日はありがとうございました。また雨月さんにお会いしたいです。ご連絡をお待ちしています』

 そう言われても、もう雨月は青島さんに会いたくないだろう。だから断りの返事を送った。

『昨日は突然帰ってしまい、失礼しました。雨月は忙しいので無理だそうです。申し訳ありません』

 これで納得してもらうしかないなあ。


 仕事帰り、年金課の先輩の言葉につられて僕たちはスーパー銭湯に向かった。


「都(みやこ)の湯がリニューアルオープンしたよ。さっそく行ってきたけど、ジェットバスの勢いが強くて最高だった」

「そうなんですか。僕も行こうかなあ」

「行っておいでよ。日替わりのお湯もよかった。僕のときはワイン風呂だった」


 仕事を終えてから雨月たちと合流すると、雨月は顔を合わせるなり「このまま風呂に行くのか?」と言う。先輩とのやり取りを聞いていたのだ。


「僕はお風呂の後には清潔な服を着たいんだよ。だから明日にしようか」

「下着の替えくらい買えばいいだろう。俺が買ってやろうか?」

「いや、それはいい。そうだね、下着とシャツを買うよ。ん? でも雨月たちはどうするの? 脱衣所で服を脱げるの? 服も自分の一部なんだよね?」

「春人は心配性だな。大丈夫だ。風呂に行こう」


 着替えを買ってスーパー銭湯を目指しながら、着替える瞬間をどうするんだろうと心配になる。

 雨月と千草が部屋で服を脱ぎ着するとき、一瞬で服が消えるし一瞬で服を着た状態になる。銭湯の脱衣場でそれをするわけにいかないだろうに。


 けれど心配には及ばなかった。二人は脱衣所でごく自然に服を脱いでカゴに入れ、ロッカーに入れて扉を閉める瞬間にカゴから服が消えた。僕がじっと見ていても見間違いかと思うほど一瞬のことだった。周囲の人たちはロッカーの扉と雨月たちの体に遮られて、服が消えるところは見えなかったと思う。


 レンタルのタオルを手に浴室へ入ると、爽やかな香りがした。今日は薬草風呂だ。薬草風呂が大好きな僕は、この香りだけで心が浮き立つ。

 朧(おぼろ)は当然のように僕たちと一緒に入ってきて、「ぷごっ! ぷごっ!」と鼻息荒くタイルの床を歩き回っている。


 久々に入った大きな浴槽は気持ちがよかった。雨月と千歳は背の高さとくっきり浮き上がっている筋肉で、周囲の人に注目されている。石鹸で体を洗っている千歳に、隣のおじさんが話しかけている。


「兄ちゃん、いい体してるねえ。格闘家かなにかかい?」

「いえ、オラは……木こりです」

「ああ、林業の人かい。あれは体が資本だもんなあ」

「はい」


 その後も千歳だけが話しかけられている。雨月だって絵に描いたみたいな素晴らしい肉体なのに、遠巻きにチラチラ見られているだけで誰も話しかけてこない。その人たちの気持ちはわかる。雨月には近づきがたい雰囲気があるんだよね。僕だって雨月のことを知らなければ、絶対に話しかけないだろう。無表情だし、お湯に浸かっているときは目を閉じている。俺に話しかけるなオーラがバリバリだ。


「春人さん、電気風呂が気持ちよかったです」

「電気風呂は苦手なんだよ」

「オラは気に入りました」

 

 すると雨月が目を開けて、「よかったのか。俺は電気風呂を知らない。試してみよう」と言って電気風呂のコーナーへ移動した。

 斧も刀も電気が通るもんなあと見ていたら、雨月がうっとりした顔をしている。電気風呂を気に入ったらしい。

 お風呂を楽しんだ後はサウナへと移動した。低温サウナと高温サウナがある。どっちにする? と思いながら雨月を見たら「高温にしよう」と言って入っていく。


「ではオラも高温で」


 千歳と朧(おぼろ)が入っていくから、僕も続いた。堂々たる体格の二人が入ると、サウナにいた人たちが全員、雨月たちをチラリと見た。笑いそうになったのが朧(おぼろ)だ。

 朧(おぼろ)は「ぷぎぃっ! ぷぎぃっ!」と興奮した感じに鳴きながら、ハイテンションでサウナの中を走り回っている。走りつつ他の人たちの気持ちを拾い食いして、満足げだ。その上、いろんな人の脚にぶつかったり、膝の上を走り回ったりしているんだけど、誰も気づかない。

 他の人たちがどんどん入れ替わる中、雨月と千歳は動かない。この暑さが平気らしく、汗もかいていない。


「僕は先に出るよ。もう無理」

「そうか。では俺も出よう」

「オラも出ます」


 汗を流したあとは併設の食事処へ。僕は冷やし中華、雨月は天ざる蕎麦、千歳はカツ丼。料理を食べながら千歳に話しかけた。


「三人で来るとスーパー銭湯がいつもより楽しいよ」

「一人で来ていたんですか?」

「一人だと年に数回来るくらいかな。僕は自分の部屋が一番好きなんだ。仕事が終わったら早く帰ってのんびりしたい派」

「オラはスーパー銭湯を知りませんでした。こんな楽しみもこの世にあったんですねえ」

「大きな風呂はせいせいするな。春人、ここへまた来よう」

「いいよ」


 今までの僕は、週五で働いて土日は部屋でのんびりして、たまに友人と居酒屋で話をするという繰り返しだった。だけど雨月たちと暮らすようになってからは、友人と全然会っていない。雨月と千歳を同席させた場合、どういう関係か説明するのが面倒で誘われても断っていた。

 久しぶりに、僕の方から彼らに連絡を取ってみようかな。雨月たちは百メートルくらいなら離れていられるわけだし。


「離れていたら何かあっても駆け付けるのに手間取る。俺を同席させても問題ないだろう」

「雨月のことをなんて説明すればいいのかわかんないよ」

「親戚と言えばいい。俺たちに気を使うな」

「オラのことも親戚でお願いします」


 親戚か……。美形の大男が二人とも親戚と言って、大学時代の友人は怪しまずに受け入れてくれるかな。


「適当に話を合わせることくらい、できるぞ」

「オラは兄貴に話を合わせますんで」

「そう? でも、友人たちがいるときに妖が僕に近寄ってきたらどうするの?」

「刀が見えなければいいのだろう? 上手くごまかす。心配するな」

「そんなことができるんだね。わかった。じゃあ、君たちを連れて会ってみるよ」


 僕はその場で、大学時代の友人たちにメッセージを送った。すぐに既読がついて、返事も書き込まれた。

 

『やっと会えるのか。誘っても断られてばかりだから心配していたんだぞ』

『会おうよ。今度の土曜日でどう?』

『俺も行ける。春人に会えるのは久しぶりだから楽しみ』

 

 こうして僕は今度の土曜日に、雨月と千歳を連れて大学時代の友人たちと会うことになった。雨月と暮らすようになってからは初めてだ。


 

6月29日(月)のできごと。

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