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付喪神のいる食卓 ~気弱な僕が"真の主"になるまでの物語~  作者: 守雨
第五章 朧(おぼろ)と暮らす日々

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39 道の駅で

 じいちゃんの家まで車を運転して以来、ドライブが楽しくてはまっている。

 運転も楽しいし道の駅で買い物するのも楽しい。道の駅は新鮮な野菜のイメージだったけど、その土地で育てた牛豚鶏の肉も売っている。試食してみたらこれがとても美味しい。


「自分一人だと道の駅まで行こうって気にならなかったけど、三人で食べるとなると道の駅に行く楽しみがあるよ」

「春人さんが楽しそうだから、おぼろもご機嫌です」


 千歳はおぼろを抱いて助手席に座っていて、おぼろは頻繁に首を伸ばして僕の近くでパクパクと食べている。僕の心からこぼれ出ているのは楽しい気持ちに違いない。


「雨月、おぼろは大きくなるの?」

「一年や二年では変わらないと思うが、俺も詳しくはない。朧を最後に見たのは戦国の世で、俺が見たおぼろは真っ黒だった」

「黒い気持ちを食べ続けたんですねえ。オラ、おぼろに黒くなってほしくねえです」

「そうだね。楽しい、嬉しいって気持ちを食べてほしいよね」

「はい!」


 今日は道の駅「実りの郷」が目的地だ。

 名物の納豆、干し芋、各種野菜に肉類。地産のジャガイモを使ったコロッケや唐揚げ、メンチカツバーガーにレンコンチップスを飾ったソフトクリームと、食べたいものがたくさん売られている。

 土曜日だから混雑していて、僕たちは適当に距離を取った状態で建物の中を移動した。それでも雨月は僕の斜め後ろを歩いているし、千歳はおぼろを肩に乗せて雨月の後ろ辺りを歩いている。


 雨月たちが「マンダリンカフェで稼いだ金の使い道がない」と言うから、ここで食べたいものを買って食べるといいよと提案した。雨月は地鶏の串焼きと豚味噌おにぎりを買った。千歳は牛串、豚串、干し芋の袋を抱えて満足げだ。

 三人と一匹で食べ歩きと買い物を楽しみ、最後に外のパラソルつきのベンチでソフトクリームを食べた。周囲のベンチは家族連れが多く、僕たちの隣も若夫婦とよちよち歩きの男の子がいた。


 男の子は両親が座っているベンチの周囲を歩いていたが、おぼろが「ぷごっ」と鳴いた瞬間にこっちを見た。そしておぼろを見ながら近寄ってくる。


おぼろが見えるのかな?」

「そのようだな」

「兄貴、おぼろをどうすればいいですか」

おぼろは害をなさない。そのままにしておけ」


 僕たち三人が見守る中、幼児はよちよちよおぼつかない足取りで近づき、いきなり千歳の膝の上に立っていたおぼろの足を撫でた。

 おぼろは「ぷぎっ! ぷごっ!」と鳴いて、幼児に向かって身を乗り出し、パクリパクリと幼児からこぼれ落ちた気持ちを食べた。


「あら、すみません。マー君、こっちにいらっしゃい」

「や!」


 男の子は首を振ってはっきりと拒否を示している。その間もおぼろの足を撫でていて、僕たち三人は動けないでいた。この若夫婦にイマジナリーペットの話をするのは悪手な気がして、僕は曖昧に笑っていたと思う。

 母親が立ち上がって嫌がる幼児を抱え上げ、「すみませんでした」と言って自分たちのベンチに戻った。そこからの幼児の鳴き声のすさまじさったら。

 ひきつけを起こすんじゃないかと思うぐらいそっくり返って泣き、その間もおぼろを指さして「く! く!」と訴える。「く!」はたぶん、「行く!」だと思う。


「そろそろ車に戻ろうか」

「そうだな」


 僕と雨月に続いて千歳もおぼろを脇に抱えて立ち上がった。するとおぼろが暴れて千歳の腕から抜け出し、幼児に駆け寄った。内心慌てながら見ていると、おぼろは幼児の腿に頭を何度もこすりつけて「ぷぎぷぎ」と声を出しながら目を細くしている。幼児を気に入ったのか?

 幼児はピタリと泣き止み、小さくふっくらした手で、おぼろを撫でている。おぼろはまたパクパクと幼児の周囲でこぼれ落ちた気持ちを食べている。


「マー君は何を撫でてるのかしら。まるで猫でもいるみたい」


 マー君の母親はそう言って笑い、父親もニコニコしている。僕たち三人は全員その風景を微笑ましく眺めながらそのままベンチを離れた。おぼろは幼児から離れて僕たちの方に走ってくる。さりげなく千歳がおぼろを抱き上げ、僕たちは駐車場へ向かった。


「あの子、付喪神使いなのかな」

「いや、違うな。幼い子供はたまに妖が見える。そっちだな」

「へえ、そんなこともあるんだ?」

「ああ。かんの虫がいると言われるような、よく泣く赤子の場合、見えていることがある。そのうち見えなくなって、疳の虫がおさまったという形になるものだ」

「ふうん」


 千歳はおぼろを膝に乗せて背中を撫でていたが、顔を近づけておぼろの匂いを嗅いだ。


「あの子に撫でられた場所が、小さい子供の匂いです。よかったな、おぼろ。お前もあの子がいい匂いだと思ったか?」

「ぷぎ」


 たくさんの食材を買い込んで、車に乗り込み、「さあ、帰ろう」と出発した。

 レンタカーを返してサインをしてから車の傷がないかチェックしてもらっていたら、若い男性が入ってきた。予約していたらしく、「お待ちしておりました」と従業員さんが対応している。


 その男性の背中に、黒い妖がびっしり貼りついている。ああ、嫌だなあと思って見ていたら、千歳の腕からおぼろが首を伸ばしてパクリと何かを食べた。すると一瞬だけ、おぼろの体毛が真っ黒になり、千歳が慌てて男性と距離を取った。


 僕たちは返却手続きを終えて外に出た。あの男性に関して僕たちにできることはない。そう自分に言い聞かせて、僕たちはマンションへ帰ろうとしたのだけど、雨月の顔が険しい。

 

 

5月16日(土)のできごと。

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