表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付喪神のいる食卓 ~気弱な僕が"真の主"になるまでの物語~  作者: 守雨
第三章 付喪神使いたち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/47

22 透子さんへの疑問

 僕は透子さんへの疑問がある。

 御物部さんの家は兄弟そろって付喪神使いだった。お兄さんが亡くなってからは、透子さんが遺された付喪神たちを管理している。

 透子さんの精気をあやかしが吸いにきたとき、僕たちを頼る前に、なんで蔵の中の付喪神の中から戦闘系の付喪神を選んでしもべにしなかったんだろう。


 それに、透子さんが天寿を全うしたら、椿さんと葵さん、蔵の中の付喪神たちはどうなるんだろう。

 そもそも透子さんに子や孫はいるのか。そしてその中に付喪神使いはいるんだろうか。


「あの蔵には刀や槍、弓は無かった。御物部家の跡継ぎ問題は御物部家がどうにかすることで春人が心配することではない」


 そこで雨月が言葉を切って僕を見る。ハッとした。僕の言葉はブーメランとなって返ってくる。僕は結婚する予定も親になる予定もない。よその家の心配をできる立場じゃなかったわ。


「俺たちのことなら心配無用だ。いいか春人、付喪神使いがしもべのために人生をどうこうしようと考えるのは本末転倒だ。俺と千歳はお前の命がある限りお前に仕える。だからお前は先のことなど気にせず、人生を全力で生きればそれでいい」

「全力で生きる……」

「そうだ。今を全力で生きて幸せであればいい。主の幸せがしもべの幸せだ」


 それはわかるけど、僕だって雨月たちにも幸せであってほしい。

 だから先のことを考えるんだけどな。

 でも、僕と雨月では生きる時間が全然違うから、僕の死んだ後のことまで考えるのは無意味だと言っているんだろうか。


「違う。俺は平安末期に生み出され、鎌倉時代に付喪神となった。長い時を経て、令和の今もこうしてこの世にいる。それがどういうことかわかるか?」

「僕の一生が、雨月にとっては一瞬だってこと?」

「そうではない。俺が何人の主の最期を見てきたと思っている。俺の悲しみをお前はわかっていない。俺の喜びはお前が幸せに生きることだ」

「オラも同じです! オラは春人さんが笑っているお顔を見ていると、この辺りがこう、あったかくなるんです!」


 千歳が胸の辺りに大きな手を当てている。千歳はとても優しい目で僕を見ている。


「春人、お前の人生はまだまだこれからだ。全力で生きて人生を楽しめ」

「そうですよ、春人さん」


 僕は今まで、「無難に、波風を立てず、目立たず」をモットーとして生きてきた。期待されず非難もされないのが僕の望む生き方だった。でも、それで幸せだったかと言われたら自信がない。


「僕が幸せだったら、雨月と千歳は幸せだってことだね?」

「そうだ」

「そうですとも!」


 そうか。それでいいのか。結婚する気がないことで雨月たちの将来に申し訳なさを感じる必要はなかったのか。それでも思うところはあるけれど、今はいったん考えるのをやめよう。

 

「それでいい。今を楽しめ。それが俺たちの願いで喜びだ」

「うん、わかった。雨月たちの気持ちは理解したよ。さあ、夕飯にしよう。今夜は鍋焼きうどんだ。今夜は少し肌寒いから、熱々のうどんで温まろう」


 我が家に大きな土鍋がないから、仕事帰りに買ってきた。一人暮らしの頃は麺つゆを薄めるだけだったけど、最近は出汁パックを煮だして出汁を取っている。香りがよくて気に入っている。

 出汁を取り、冷凍のうどんを入れて煮込んでいる間に海老天を揚げる。一人につき海老天二本。ついでに冷蔵庫で萎れかけていた春菊も天ぷらにした。

 土鍋の中にかまぼこ、長ネギ、シイタケを加えてから卵を三個落とした。ほぼ同時に天ぷらも揚げ終わった。


「さあ、鍋焼きうどんができたよ。食べよう」

「いい香りだな」

「うんまそうです」


 土鍋からそれぞれがうどんを小鉢に取り分けて、「いただきます」と声を揃える。

 テーブルの上でもまだぐつぐつ音を立てている、土鍋の中の鍋焼きうどんが美味しい。

 千歳がマンダリンカフェでの時給が上がったと報告して、麦茶で乾杯して、また食べた。僕は天ぷらの衣がつゆを吸って柔らかくなっているのが好きだ。天ぷらのおかげでつゆがこってりしてくるのも好ましい。そして剥がれかけた天ぷらの衣とうどんを一緒に食べるのが大好きだ。


「半熟の卵はこれだけでご馳走だと、幸之助と朔は食べるたびに言っていた」

「じいちゃんたちは卵が好きだったんだもんね。これ、半熟具合がちょうどよくできた」

「オラ、春菊の天ぷらが大好きになりました」


 鍋焼きうどんを食べているだけなのに、こんなに楽しい。

 食卓の向こうに付喪神がいる。少し前の僕に言っても信じなかっただろうが、この景色が僕の心を明るくしてくれる。

 そんな幸せ満タン、みたいなときにスマホが振動した。画面を見て思わず顔をしかめてしまった。榊原さんからだ。もう八時になるのに、まさか地域安全課の仕事じゃないよね? そう思いつつ電話に出た。


『よかった。出てくれた』

「そりゃ先輩からの電話ですから出ますよ」

『今日の帰りに近所の家に寄ったら、君たちの話が出てびっくりしました。御物部透子さんを妖から救った人たちって、統神君と雨月さんのことでしょう? 気弱そうな若い男性ととんでもなく美しい男と、陽気な若いハンサムさんだと聞いて『その気弱そうな人って、統神春人さんじゃないですか?』と聞いたら透子さんが驚いていました』


 絶句してしまった。御物部透子さんと榊原清隆さんが知り合い? 妖や付喪神のことまで榊原さんに話してるの?


『もしもし? 聞いていますか? そうじゃないかと思ってたけど、統神君はやはり付喪神使いだったんですねえ』

「ええと、プライベートなことなので、その話はちょっと」

『そんな冷たいことを言わないでくださいよ。私は統神君にぜひ聞いてほしい話があるんです』


 雨月が僕の顔を覗き込んだ。雨月がスマホを指さしている。「ちょっと待ってください」と言ってからマイク部分を手で覆った。


「榊原をここに来させればいい。その方が早い。あいつは満足するまで諦めないたちの人間だ」

「そうかもねえ。わかった、呼ぶよ」


 スマホを覆っていた手を離した。


「もしもし、失礼しました。僕の部屋で榊原さんのお話を聞きます」

「いいんですか? ありがたい。すぐに向かいます」

「もう近くに来ているんじゃないんですか?」

『統神君は私のことを何だと思っているのかなあ。私は善良な公務員なんですから、そんなストーカーみたいなことをするわけがないでしょう』


 榊原さんはすぐうちに向かうと言う。

 雨月と千歳はどうすればいいのか。雨月は「俺たちが同席したほうがいい」と言う。


「どうせ俺と千歳のことを探りたいのだろう。俺には榊原が付喪神を信じたがっているように見える」


 信じたがっている? 妖怪の話が好きだから? 落ち着かない気分でいたらチャイムが鳴った。

 

「こんばんは。お邪魔します。嬉しいなあ、やっと統神君と腹を割って話ができます」

 

 榊原さんは笑顔で言い、部屋の中で立っている雨月と千歳を見ても驚かなかった。それどころか、「その若い男性が、あの斧なんですか?」と満足そうに言った。

 

 

4月27日(月)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ