最高の夜
そう、あれは私の誕生日の日。何十回目かのデートの日。
私たちは少し遠くの、港にある遊園地で一日を過ごした。
ジェットコースターに乗って、ゲームセンターでプリクラを撮り、VRを体験して、クレープを食べた。
いつもはクールな京もこの日ははしゃいでいた。
歳上だけど、そのはしゃぎようが可愛くて私は一日に何度も惚れ直した。
私たちは自然な流れで手を繋いだ。勿論恋人繋ぎで。私の手が京の大きくて綺麗な手に包まれていた。
夜、大きな観覧車に乗った。
底と周りがガラス張りになっていて、京はそれにも大はしゃぎだった。
綺麗な街を一望できて、京はあそこにあの建物がある、とか、あそこに行ったことがあるんだ、とか引っ切り無しに喋っていた。
観覧車が頂上に近づくと、はしゃいでいた京が一瞬真面目な顔になって、「いい?」と訊いた。
なんのことかは分かっていた。
「いいよ」
私はふっと微笑んで答えて、そっと目を閉じた。
京は恐る恐る、まるで割れ物を触るみたいに大切に、丁寧に、優しく、私の後頭部に手をまわしてキスをした。
誰かとキスをするのは初めてだった。
喜翔ともしたことがない。いいや、今は喜翔のことなんて忘れていたかった。
私は京を抱きしめた。京も私を抱きしめた。私たちは愛し合っている。
同じ気持ちでいることが幸せで堪らない。
京は喜翔とは違う。心から大事にしてくれている。
心に深い傷を負った私のことを怖がらせないように、傷つけないように、怖いものから守ってくれる。
私たちは一緒に夕飯を食べた。
私はオムライスを、京はハンバーグを食べた。
お互いのものをお互いの口に一口運びあった。
「幸せ」
「僕も」
気持ちを確認するようにそう言い合った。
食事を終え、私たちは夜の街を一緒に歩いた。
夜景が綺麗だった。一つ一つの灯りが星のようで、まるで夜空を歩いているような気持ちだった。
京は珍しく鼻歌を歌っていた。私は風になびく自分の長い髪を触りながらその鼻歌を聞いていた。
片方の手を繋ぎ合って夜景の綺麗な街を一緒に歩いた。
しばらく歩いた時だった。
「僕、東雲と一緒に行きたいところがあるんだ」
京は言った。
「でも、怖いなら行かなくていい。今日は家まで送ってもいい。
お兄さんのことがチラつくならーー」
「京」
私は今日の唇に指を当てた。
「私は京とならどこにだって行ける」
そう言うと、京は安心したように笑った。
「良かった」と。その声は心なしか震えていた。
ホテルに着くと、京がチェックインをした。予約していたようだった。
「行こう」
チェックインを終えた京は私と手を繋いでエレベーターに乗って、十七階のボタンを押した。
「怖くない?」
京はしつこいくらい何度も私にそう訊いた。
「怖くないよ」
私は答える。
部屋に着くとお姫様抱っこをされてそのままベッドに降ろされた。
ベッド脇に座る私と、その前に跪く京がキスをする。
京は私の靴をゆっくりと脱がせて、足の甲にキスを落とした。
物語の王子様みたい、そう思った。
唇を離して、京は私の頰を人差し指で撫でた。
「怖いなら言ってくれ。何もしないから。抱きしめて眠れたら僕はそれで満足だ。
愛しているからこそ、東雲の気持ちを大事にしたい。長い付き合いにしたいんだ。
死ぬまで一緒にいたい。だから僕は焦らない。焦って怖い思いをさせたくない」
京は今までで一番真剣な目をしていた。私は本心を語った。
「本当は、ちょっとだけ怖い。でも京なら全部を許したい。愛しているからこそ、私は京を信じている」
「優しくする」
京はゆっくりと私の着ているワンピースを脱がせた。それから自分が来ていたシャツも脱ぐ。
裸の京は意外にも筋肉隆々だった。
「鍛えてるの?」
私は筋肉の輪郭を指でなぞった。
「また東雲が二階から降ってきてもちゃんと受け止められるようにね。
まあ、もうそんなことにはさせないけど」
京は私の手の甲にキスをした。
「一緒に住まないか」
「まだ高校生だよ、私。そういうのはまだ早いよ。きっとお父さんもお母さんも許してくれない」
「僕が説得する。家も東雲の実家の近くに構える。
東雲のご両親がいつでも東雲の顔を見れるようにする。
でもお兄さんには会わせない。オートロックの家にするから。
勿論、全部東雲が良ければ、だけど」
「うん、うん。ありがとう。私もそうしたい」
一人の人間の優しさと愛に触れて、心の一番奥深くがじんわりと温かくなる。
大事にされている。自分のことを考えてくれている。大切に扱われている。愛されている。
満たされている。最高の夜だった。




