第三話、緊張するねい!
――放課後
私たちは学校から二人で帰る事になる。
「沢渡……でいいかな? さんつけたほうがいいだろうか?」
「沙耶でいいです……」
「えーと……じゃあ……沙耶ちゃん」
降って湧いたというか、押しかけたといった方がいいのだろうか。とにかく、私はもう神谷君の彼女……? ちょっとずーずーしーかな。
とにかく付き合う事になったわけで、まず初めにお互いの呼び名を決めているんだけど。
苗字で呼ばれるのはなんか嫌だし、呼び捨ては構わないんだけど、そうなると、神谷君が呼びづらいようで、中間の沙耶ちゃんで治まりがついたようです。それでも神谷君は頬を指で摩りながら、少し苦笑しております。私はまだ――苗字君付けでいきます。
まだ彼を砕けた呼び方するのは、恐れ多いというか、恥ずかしい……
神谷君の横で今、ガッチンガッチンになって、ぎこちない二足歩行をしているような女の子なので。
「……… ………」
何をしゃべっていいんでしょうか? 取りあえず、何にも浮かばないんです。
「沙耶ちゃん、何で俺なんかと?」
「えーっと、色々です……」
何でと言われると色々あるんですが、やはりあの時の事がきっかけでしょうか。
一つあげるなら、優しさ。神谷君のよく分からない優しさに私は惹かれた。いや、ベタ恋なんです。
そう……あの時から――――
〜〜
昼休み、私は真由美と学校のパン売り場へ足を運んだ。
供給に対する需要の圧倒的多さに、パン売り場は一つとくれば、そこは戦場と化します。
「真由美〜、パン買えたか〜?」
「うん、焼きソバパン、ウィンナーパン、カレーパン」
「おめー買いすぎなんだよ!」
真由美はとっても手際よく迅速にパンを購入していきました。たぶん、普段から特売ものや、バーゲンの品を買いあさる彼女からすれば、それは造作も無いことのようです。
しかし――私は普段は手作りの弁当を持ってくる地味な娘でして、この日は朝から頭痛が起きてしまい、仕方なく弁当製造を断念。まだ少し頭の端が痛む中、このうざったい戦場へやってきたんです。
この喧騒というか雑踏は私には荷が重過ぎました。だけど、なんとか1000円札を強引におばちゃんにねじ込み、代わりにお釣りとヤキソバパンを確保したんです。
ここまでは良かった……とても順調だった。だけど――この戦場から離れてから、財布につり銭をしまうべきだったんです。
だけど、時既に遅し、お金を財布に入れる際、ヤキソバパンが……、私の小脇に抱えたヤキソバパンが……するっと抜け落ち、死地へと転がり込んでいったんです。
思わず私は悲鳴を上げました。
「ヤキソバパンがーーー!」
そう私のヤキソバパンは人々の足に踏みしだかれ、あっという間に、粉々にされていました。
絹を裂くような悲鳴は周りの喧騒を一時的に沈静させました。一斉に私の方を一瞥した後、足元を見てあちゃ〜って顔をした皆様。しかし、また何事も無かったように、彼らはパンをどんどん懐に抱いていきます。そして、やっと私が潰れたヤキソバパンに見切りをつけて、列に並んだ頃には――
「本日売り切れ〜ごめんね〜、また今度よろしくね〜」
一斉にため息が辺りから漏れました。同じようにパンを得ることが出来なかった不幸な人々が、蜘蛛の子散らしたように猫背で帰っていきます。
私の横にいる真由美が、パンを頬張りながら、慰め顔で私の肩を叩くんです。
思わず――
「ヤキソバパン一個よこせー」
っと大きな声で真由美に怒鳴ってしまいました。しかし、彼女の今かじっているヤキソバパンが最後のようで、それももう残すところ3分の1というところでしょうか?
私のてんぱった鬼の形相を見て、怯えた顔でその食べかけのパンを千切って私に渡そうとするんですが……無言で首を振りました。涎ついてたんで……
それになんだか、怒鳴って悪かったという後味の悪さもあり、取り合えず、真由美に謝ろうとしたんです。
だけどそんな時、私の背中から怪訝な声が聞こえてきたんです。
「そこの子! 女の子なんだから、パンの一つや二つでハシタナイ声出すもんじゃないよ、これ上げるから」
と、大きな声を私に浴びせてきたのが、同じクラスの神谷君だったんです。
彼は怒声を浴びせた割りには、穏やかな顔つきで口をもぐもぐ動かしながら、様々なパン合計8個を両手に抱えていました。
そして何食わぬ顔で、はいっと言ってその中から、ヤキソバパンを私に手渡してきました。
私の手の平に転がり込んだヤキソバパン。温かい……それにとっても良い匂いが――私の鼻を擽りました。そのぬくもりが匂いが……手の平と嗅覚を通じて、私に安らぎをもたらしました。しばらく恍惚として、悦に浸ってしまいました。
だけど――直ぐにお礼を言わないと、と我に返り、振り向くと彼はいませんでした。
でもこの時、ジーンとパン以外の温もりが私を包んでいたんです。この時から彼の事を意識しはじめたんだと思います。
勉強は良くできるらしいし、スポーツも中の上くらいだと聞きました。(情報提供者 真由美) だけど、そんな上辺なんかどうでも良かった。彼の行動の節々に見え隠れする優しさ、そして、真剣さ、これは平凡な日常を通して十分伝わってきました。しかも、二枚目。
だんだん彼に本気で恋心を抱くようになり、
ついに――このような晴れ舞台に立っている訳です。
「あのさ、近くにケーキがうまい喫茶店あるんだよ、行ってみる?」
「はい……」
私は静かな声で彼に言いました。間違っても大声なんか発していません。
繁華街を並んで歩く。まさにカップル……彼は背が高いんです。私はというと161CM、体重?、 肩までのストレートな黒髪。丸顔。バストそれなり、ウェストきゅっとしまってて――とか私は別にいいんでした。とにかく、そんな私と身長差があるわけだし、歩幅も違う訳です。
だけど、私に気を遣って、足並みを揃えてくれています。離れすぎず、くっつきすぎないくらいの距離を保ちながら……
「沙耶ちゃんは、何か部活やってんの?」
「帰宅部です」
「おぉ、同じだね、ハハハ」
帰宅部も一緒だ〜って地味なカップルです。だけど、気にしません。部活なんて、高校になってからやるようなもんじゃないと思うからです。中学校までで十分です。
ああそれと、今心の声はこんなに畏まっているけど、これは神谷君が隣にいるからです。てか、めっちゃ緊張してます!




