第四話、真実。
完結編です。
「ここだよ」
「はい」
喫茶店に着きました。白い壁が際立つお洒落な喫茶店と申しましょうか。
まぁ、どこでもいいんです。神谷君と一緒ならそこがコンビニでも文句ありません。
「ただいま〜、母さん」
「あら、慶介、彼女?」
「うん、沢渡沙耶さんだよ、あ、こちら母だよ、沙耶ちゃん」
「は、はじめまして、さ、沢辺沢です……」
「よろしくね〜」
喫茶店に入るなり、神谷君の母と自己紹介、ていうか、なぜに!?
聞いてなかった……まさか喫茶店してるなんて。思わず口がもつれて偽名を使ってしまったよ。お辞儀を丁寧にすると、神谷君の母上は私たちを席に誘導してくれた。
窓際の席でございます。大変眺めがよろしくて、ホホホ。
想定外の展開に私は頭が空転してしまっていた。
「ショ、ショートケーキなど」
「俺チョコとクルミのケーキお願い」
「お飲み物は?」
「俺ホットコーヒー、沙耶ちゃんは?」
「ホ、ホットミルクティーで」
注文聞きにきた神谷君の母上が私に優しく微笑んだ。
何を口走ったか分からないけど、こういうときは大抵望みの物が口から漏れる。
どんなに頭が白く塗りつぶされようと、私の食欲という本能は正しく働くようになっていた。
しかし、どうしよう、落ち着かないよ……神谷君だけならともかく、母上までいるなんて。
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「沙耶ちゃん、早いな〜食べるの」
はぅあ! 緊張と焦りから、素の速さでケーキを口の中へ掻き込んでいた。
もう皿の上には何も乗っていない。神谷君の皿に視線を投げかけると、まだ半分ほど残っている。なんという、マナーの無さ。こんなことになるはずじゃ……
この緊張し〜の性格なんとかしないと、破滅の一途を辿っていくに違いない。
そうだ、せっかくこの喫茶店に誘ってもらって楽しい時間を過ごすよう仕向けてくれたんだから、なんか話さないとね。食べてばっかりでずっと無言だったに違いないから。
「神谷君のケーキおいしそうだね」
ああ、何言ってるんだろ私。
「ん? これちょっと食べてみたいの?」
「うん」
確かに美味しそうでした。欲望が口を支配してるとしか思えない。
「おいしい!」
本当に美味しいね、チョコクリームがまったりとして、味わい深くって……って違う!
もう破滅だ、家に帰りたい。神谷君の眼にどれだけずーずーしー女として映ってるんだろう。死にたくなる。
「だろう! 美味しいだろ! このケーキ母の自慢なんだよ。やっぱりな〜、うんうん」
神谷君は何故か上機嫌だった。
「さて、でようか」
「はい」
「ありがとうございました〜また来てね、沙耶ちゃん〜」
最後は下の名前で呼んでもらって、笑顔で見送られる。神谷君も楽しそう。
ま、良い方に転んだということですか。
「沙耶ちゃんがあのケーキ美味しいって言ってるの教えたら、母さん喜んでたよ」
実際美味しかったので、あぁなんか、これでいいんだろうか。たぶん良いのでしょう……
神谷君と途中で別れた。笑顔でまた明日な〜って言われた。
取りあえず、嫌われてはいないようです。最初のデートで心象悪くして、次から冷ややかな関係になるって事は良くある事だと思う。
それを考えると最初のデートはうまくいったようだ。あまり記憶に残っていませんけど。
まぁ、夕食食べに行こう。
「お母さん、今日の夕食何〜?」
「カレーライスよ、食べれそう? ケーキ食べてきたんでしょ」
「大丈夫よ」
「そうみたいね」
この力、特に母程の力をもつことって、人生楽しいんだろうか?
こんなに筒抜けだと、大変だろうとは思う。良いことばかりが起きるわけじゃない。
千変万化、多種多様な出来事が重なり合って人生は構築される。そんな事を人より先に知り、過去に起こったことも掘り返し見てしまう。
母は想像を絶する世界に身を投じているんだ。私はせいぜい30分前後の未来過去を知ることができる。これくらいが私の許容する限界かと思う。
その夜未来からの手紙を受け取る。
私はそれを見た後、すぐに風呂場から飛び出ると、タオルを巻いて自室に駆け込んだ。
そして、私服に着替えて、髪が乾かない内に家を飛び出した。
「どうしたの?」
「なんか事故らしい」
息を切りながら到着すると、辺りは騒がしく人が行き交っていた。
野次馬や近所の人たちが立ち止まり、哀れむような目で誰かを眺めていた。
私はその姿を分け入ってみる事をしなかった。
イメージで既に見てしまっていたから。
私は神谷君を祥子ちゃんから身代わりとなって奪い取った。
しかし、人の運命を身代わりとして受け継ぐという事は、代わりにその人の運命を自分が受け持つという事である。
それは楽しい事もあるだろうし、悲しい事もあるだろう。その全てを享受する事を覚悟して、身代わりになる事を選ぶ。実際、私はこの重々しい真実を分かっていたのだろうか?
今、その答えは浮ばない。
赤い光が騒がしいサイレンの音と共に周りに投げかけられる。
少なくとも、こんなイメージを目にするために、身代わりを選んだわけじゃなかったはずだった……
END




