↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
122/126

王都攻略 【オシナー】【ケヒス・クワバトラ】

 趨勢は喫した。

 クーデター軍に参加していた多くの貴族が夜明けと共に現王陛下の天幕を訪れて頭を垂れた。事実上の降伏だ。

 もちろん帰順を示さない貴族達や傭兵も居たには居たのだが、そう言う連中は勝機を見いだせないと悟ったのか、戦場から姿を消していた。もちろんケヒス姫様の将旗も敵陣から消えていた。



「朕に背いた罪は重い」



 現王陛下の天幕。重々しい声と侮蔑の混じった視線を向けられたクーデター軍貴族達は身を堅くしていた。

 俺はその様子を天幕のはじっこで眺めていたが、現王様の怒りももっともだ。

 確かに陛下の執政に不満を持つ事はあろう。だがこのケプカルトとは現王陛下を頂点とする連合王国である。

 陛下への忠あってこそ所領が宛がわれているのだ。それなのに彼らは陛下に剣を振り上げた。罰せられるのは当然だろう。



「兄上がご存命であれば略式処刑を執り行っていただろうが、、朕は兄上と違って寛大である。故におまえ達の処罰は保留する。おい」



 陛下の合図と共にその後ろに控えていた宰相閣下が一歩前に出る。



「では皆様方。もちろん王家への反乱は死罪に当たるということはご存じでしょう。はい」



 宰相閣下の笑みに影が差す。

 早々に降伏してきた貴族としては自分の命を差し出す代わりに家族や一族にも下るであろう沙汰を少しでも軽い物にしようとここに居るはずだが、閣下の笑みのせいで誰もが極刑を覚悟したような表情になっている。



「ですが、陛下の御心により処罰は保留となります。はい。

 まずは王国を脅かす毒麦をつみ取る事こそ陛下の望み。いち早く賊軍を討伐し、国家に安泰がもたらされる事こそ最重要なのです。はい。

 ですでので、皆様方にも陛下の陣に加わってもらいます。その上でご立派なお働きをなされるのなら、処分の方も幾ばくかの情けを加えても良いと思っております」



 この案について俺は反対だった。

 クーデター軍に加わったと言うことは情勢が覆ればまた寝返るかもしれないからだ。

 その上、補給を終えたタウキナ第二師団とクレム公国での戦を終えた後続のベスウス騎士団との合流の目処がついたと朝一で報告が入っていた。

 それだけで総兵力二万の大軍に膨れ上がるのだからわざわざ裏切り者を天幕に加える必要は無い、そう思っていたのだ。


 だが、陛下と宰相閣下はケプカルト中の戦力をかき集めてケプカルト最大の都市バルジラード攻略を悲願としているようだった。

 そのため裏切り者でも戦力として加える。それが陛下の決めた決断だ。



「それでは皆様のご武運をお祈り申し上げます。はい」



 その言葉を最後に早朝の降伏式は解散となった。

 後に残ったのはタウキナやベスウスの指揮官格や重鎮のみ。

 その中でアウレーネ様がおずおずと陛下の前に進み出た。



「父上――いえ、陛下。発言をお許しください」

「良きに計らえ」

「はい。あの、バルジラード攻略についてですが、本気なのでしょうか?」

「無論だ」

「ですが、攻略となれば王都の平民街等にも寛大な被害が出るはず! 国の安定とは即ち民あっての事ではありませんか。その民を戦火に巻き込み――。いえ、綺麗言は言いません。

 ただ、あの広大な都市を攻略するにはケプカルト中の戦力を集めても難しいと思います」



 一つの都市を攻略するには守備側の十倍の兵力を用意しないといけない。

 確かにクーデター軍の足並みは乱れ、その数を減じていると言っても王都に暮らす民が小銃を握ればたちまち莫大な戦力を得る事になる。

 とくに反亜人の旗の下に集まった民衆がケヒス姫様の呼び声で王宮に殺到した事を考えると厄介この上ない。



「そのために壁役を集めたのだ」



 広大な王都を制圧するために元クーデター軍の騎士団を使用する。彼らに損害の吸収をしてもらえればこちらの本隊は確かに被害を抑えられるだろう。

 確かに理に叶った戦術だ。



「奴らがどうなろうが、厄介な反乱分子である事に違いはない。

 今までと同じだ。余計な力があるのなら削ぎ落とさなければならん。それでも無謀な作戦に従う姿を示すのであれば、朕は奴らの進退を考えても良いと思っておる」



 つまりケヒス姫様にした事と同じ事をするのだ。

 絶望的な戦場に投じ、ありもしない希望をちらつかせてゆっくりと消耗させる……。

 だがそれはまたケヒス姫様と同じ者を生むだけでは無いのか?



「陛下。俺も、やはり王都攻略は反対です。泥沼の戦になる事は目に見えています。いたずらに戦力を消耗していてはエルファイエルに付け入る隙を与える事になりかねません」

「………………」



 現王陛下が考え込むように顎に手を運ぶ。もう一押し必要か。



「それに、王都にはトリシューラが居ます。ケプカルト一の巨砲がもたらす損害は計りしれません。最悪、こちらの敗北もありえます」



 三胴船のトリシューラは俺が実証実験船として近衛連隊創設と共に手がけた物だ。

 射程、威力共にこれに勝る砲はこの世に存在しないだろう。その上、あの船には風の魔法に秀でた魔法使いを一人は乗船させているので迅速な陣地転換が行える。もっとも巨砲を船上に据えただけあって命中率は陸上砲のそれを大きく下回る。

 それでもあれだけの巨砲だ。心理的プレッシャーをかけるには直撃しなくても十分と言える。



「確かにあの怪物は厄介だな」

「トリシューラの排除が無ければバルジラード攻略に責任をもてません。

 それよりも再度の会戦における決戦を目指すか、降伏条件を緩和して開城交渉で決着を目指すべきです」



 顎に手を当てていた現王陛下はちらりと宰相に視線を向けると「トリシューラの無力化は可能か?」と問われた。



「今の所、王都の現状がつかめていませんのでなんとも。はい。

 ですが、船員の選定に関しましては自信があります故、陛下のお呼びかけがあれば旗色を変える可能性があります。ですが、もし船員が変わっていなければと言う前提がありますが」



 その破壊力から試作兵器とは言え、船員の人選には宰相閣下と深く話し合った。

 その結果の人選なので宰相閣下の言う可能性もある。



「最悪、撃沈してしまってもかまわぬ。その際の手段はあるのか?」

「強いて言うならベスウスの法撃が頼りとしか。はい」

「左様か。だが王は玉座に座らなければならん。その玉座はバルジラードしか無いのだ。この意味が分かるか?

 朕はバルジラードを解放無くして反乱軍の鎮圧はあり得ぬと思っておる。

 だが、うぬらの言ももっともだ。まずはトリシューラの無力化に全力をあげるように。それを成し次第に王都攻略に取りかかる」

「御意に!」



 最終的に俺とアウレーネ様の意見は通らなかった。

 だが、俺の唱えた会戦での勝利や開城交渉においてバルジラードを奪還する事は不可能だと感じている自分が居た。

 何故なら――。



「ケヒスなら、朕に決戦は挑んで来ぬだろう。あれは兄上譲りの戦の才があるからな」



 そう呟かれた現王陛下の言葉に、俺は小さくうなずいた。



   ◇ ◇ ◇



 余の敗北は風の如く王領中に吹き荒れた。

 日増しに陣を離れる貴族や傭兵達。

 中には再度の決戦を挑むべきと言う者も居たが、現有の戦力での勝利などあり得ない。

 ただでさえ数が減じているのだ。補給の早い連隊制を取り入れているタウキナの事を考えるとすでに損害を補填して追撃の姿勢を取ってくる事だろう。

 対してこちらの補給は無いに等しい。

 民を徴兵しても調練する時間が無い。手にする銃も火薬も不十分。そして現王に鞍替えする貴族共。


 余は失敗したのだ。


 父上の悲願も、散っていった騎士達の無念も全て無為なものにしてしまった。

 逃げ帰るようにバルジラードに戻っても、待っていたのは押さえきれない群衆と何も決められない議会だった。



「徹底抗戦以外に何があると言うのだ!

 我らは亜人に生活を奪われたのだぞ。その不平を無くすための戦ならば、義はこちらにある! 陛下も我らの話を聞いてくだされば――」

「これだから政治を知らない平民は! 良いか!? 陛下にとって我らは逆臣以外の何者でも無いんだぞ!!

 ここは終戦工作を押し進めて――」

「この軟弱者!!」

「何を!?」



 いがみ合う議会では結論は出ないばかりか、各自の思惑で結成された派閥や己の保身によって混迷し、すでにその存在意義を失いつつあった。

 余の制動も効かず、中には余を売る算段をする者もある。もちろんそのような不届き者を生かしておく訳にはいかず、粛清の命を下すも議会は余の手を放れて暴走する始末。すでに余に実権と言うのもは消え失せていた。

 そんな無意味な議会の摂政席に腰をおろして永遠と繰り返す愚問の応酬を眺めるだけが、余の仕事になりつつあった。



「伝令! 至急の案件でございます!!」

「……なんだ?」



 突如の乱入者に一時の静けさが議会に訪れる。

 蒼白の乱入者は汚れた鎧のまま膝をつくと「トリシューラが、離反しました」と呟いた。



「真の情報か!?」

「いや、嘘に決まっておろう!! トリシューラは拿捕して騎士団の指揮下に入ったはず! 確かにそうですよね、殿下!!」



 小さく頷くと騎士は顔を曇らせた。



「確かに船長を解任し、我らの手の者を乗り込ませてはいたのですが、船内で反乱が起きた模様で、先ほど許可無く出港して行きました。その上、我らの手の者の死体が港に揚げられて――」



 すでに余の耳は聞くことを拒否していた。

 頼みの巨砲も、余の実権も失せた。

 ゆっくり議会を見渡せば意味もないいがみ合いが再開する所で、伝令の騎士もどうしたら良いかと不安を露わにする始末。

 余はこの場を収拾する事はできない。する力もない。父上のように皆を統制する事も出来ない。

 身につけた鎧がいつに増して重い。



「……そうか、余は王の器では無かったのか」



 もし、余に王の器があればこのような無用な行いを消し去り、民を率いていたであろう。

 それなのにこの醜態はなんなのだろうか。

 無益に時間を浪費する議会を止める事もできず、民を率いる事も出来ない。

 余に出来た事と言えば戦をする以外に何もない。

 父上のように戦をし、父上のように民を統べたかった。

 だが、それが出来ていない現実がそこにある。あぁ、なんて無能なんだわたくしは――。



「――だからそれは……。で、殿下? どちらに行かれるのか?」

「皆に、後で話がある。今は、どう話すか迷っておる。故に、議会はしばし休息とする」



 すでに答えなど決まっている。

 それなのに、余はその答えが怖い。怖くて仕方ない。

 どんな戦場においても震える事の無かった体が震えている。

 心は張り裂けそうに泣き叫んでいる。

 ふと、王宮の廊下にはめられた姿見の鏡が目に入った。


 ひどい顔だ。父上からいただいた金の髪もくすみ、弱々しい赤い瞳が見返してくる。どうして良いか分からず途方に暮れている娘がそこにいる。



「落日は止められぬ、か……」



 そっと鏡にふれると、鏡の向こうの娘が一筋の涙を流す所だった。



   ◇ ◇ ◇



 時は移ろい、晩春。

 各地で中立を保っていた公国が現王陛下の旗の下に集まり、クーデター派公国も戦局の悪化からこちらに寝返りしてきていた。

 その上、現王陛下が宰相閣下を直接特使に選んでエルファイエルと講和が結ばれる事になったおかげでノルトランドからも兵が加わり、こちらは大所帯と相成った。(ちなみに講話の条件として西方辺境領の割譲も許すらしい)



「総兵力、およそ十五万……」



 王都バルジラードが見下ろせる峠に立っていると、初めて王都に足を運んだあの日を思い出す。

 あの時、ケヒス姫様はこの峠で休息を取り、俺に言った。


『あの城塞を落とすのにどれだけの兵力が居ると思う?』



「ケヒス姫様。十五万の大軍ですよ」



 思わず一人ごちた言葉を噛みしめる。あの時と違う事と言えば広大な湖に浮かんだ三胴の帆船が舳先を王都に向けている事だ。

 帆船はゆっくりと風魔法を使って船体の位置を修正しながら王都をにらんでいる。



「オシナー殿! こんな所に居られたのですか!」



 アウレーネ様の声に振り返る。晴天の下に青い軍服と赤い軍袴が栄えているな。



「探しましたよ。まもなく攻撃開始です」

「えぇ。分かっています」

「あの……東方に帰られるって、本当ですか? 今、陣を離れると言うことの意味を存じているのですか?」



 この攻略戦はこの内乱を収束させる大戦となる。これに参加しないと言うことは自らの手柄を放棄する事に等しい。

 だが――。



「えぇ。俺は東方に帰って決着をつけます」

「ですがお姉さまは王都に――」

「いや、あの人ならきっと東方に帰るでしょう」



 だって、あの人が己の騎士団を見捨てる訳が無いんだ。

 どうにかしてあの人は王都を脱出して包囲下のクワヴァラードに戻るはずだ。



「この重包囲を突破出来るとは思いませんが……」

「いえ、あの人ならやりかねません。もし、俺の当てが外れたなら、笑ってください」



 俺は、帰らねばならない。全ての発端であるあのケヒス姫様の父の名を残した都に。



「あの、オシナー殿。この戦が終わり、平和が訪れたら、どうかタウキナに来てください。

 軍事顧問としてではなく、一人の人として。それならタウキナに来ていただけますか?」

「そうですね。なんやかんや、タウキナで観光って言うのはした事がありませんでしたね。

 親方や、ユッタ達を連れて行こうと思います」



 アウレーネ様は「一人でも構いませんよ」と頬を赤くしながら、そして妙に体をしなを作りながら呟かれた。

 それが色っぽくて、なんとなく黙っていると妙な沈黙が訪れた。

 気恥ずかしさから何も言えないで居ると「オシナー!」と今度はヘルスト様がかけてきた。



「東方に戻るんだって!? そんな急に――。いや、なんか、お邪魔でした?」



 「そそそんな事ありません!!」とアウレーネ様の強制否定。ま、まぁ良いタイミングだったかな?



「黙って行こうとしてすいません。ただ、作戦の都合上、お忙しいと思って……」

「別に構わないさ」

「それにしてもヘルスト様にもお世話になりましたね」

「だから、構わないって。自分とオシナーの仲だろ」



 メガネをくいっと持ち上げて気持ち良い答えを出してくれるこの人には感謝してもしきれない。



「ドラゴンで送りたい所だけど、予想通り作戦の都合で無理だな」

「いえ、そんなご迷惑をかける訳には行きませんよ」

「そういうのは止めな。自分は、オシナーと飛ぶのが好きなんだ」



 春風に似た爽やかな笑み。この世界でただ一人の同郷の人。

 俺は、この人を知っている。それこそ前世で。



「そう言えば、話は変わりますが、『タンニン』って確かヘブライ語で海龍の事ですよね。どうしてその名を?」

「ん? あぁ、それは、その……。昔の相棒だったからさ」



 この人はあのヘリに乗っていた中尉が俺だと知っているのだろうか?

 ここで言ってしまおうかと思ったが、なんとなく黙っている事にした。

 今は、それで良い気がする。俺はアウレーネ様に聞こえないように彼女に耳打ちする。



「今度、お酒の席でも呼んでください。俺が呼ぶのは不敬でしょう? もし、呼んでいただけたら前世の話をしましょう」

「――? そうかい? まぁ良いけど。オシナーはあんまり前世の話をしないから、てっきりイヤな物かと思っていたけど?」

「確かに、イヤな思いもあります。でも、あの頃の思いがあったからこそ、今の俺があると思うんです」



 ヘルスト様は「ふーん」と納得していないような表情だったが、それでも「わかった」と了承してくれた。



「それじゃ、今度ノルトランドに招待しよう。もちろん、空を飛んで迎えに行くよ」

「ぜひ」



 俺たちは別れを惜しみつつ、分かれた。

 馬車に乗り込むなり大きな砲声が響いた。

 別れを惜しむように響く砲声を聞きながら、俺は次の戦場に向かった。

 ちなみに王都攻略はトリシューラの砲撃を受けたその日のうちに終了した。

 最後まで徹底抗戦を叫ぶ声も三〇センチの巨砲の前に潰えたのだ。

 元々、王都ではだいぶ終戦工作が進んでいたようで、即日の開城が行われて王宮を奪還したと言う。

 そして、ケヒス姫様は王都から姿を消したと言う知らせも届いた。

 最終決戦は、やはり東方のようだ。


また場面転換が激しいです。なんか駆け足気味(汗


それと所用で本日と明日は自動投稿(12時ちょうど)となります。あしからず。

また、感想返信が滞ると思います。ご了承ください。



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。