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銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
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タウキナ奪還 【オシナー】【ケヒス・クワバトラ】

これまでのあらすじ。

クーデターを敢行したケヒス姫様。オシナー君はその手から辛くも抜けきり、ケヒス姫様を討つ事を決める。

それと時を同じくしてケヒス姫様に同調する周辺国がタウキナに侵攻。初戦では惨敗を喫するも、タウキナ師団は軍事顧問としてオシナーを迎え入れ、ベスウス騎士団と共同して南タウキナに屯するクーデター派騎士団との決戦を迎える!

「撃て!!」



 命令一下。轟音が晴天に響く。砲口から生まれた熱の固まりが砲兵陣地に積もった霜を溶かし、足場がたちまち悪くなる。

 それでも砲兵達は踏ん張って砲弾と装薬を再装填し、再び撃つ。

 その砲兵陣地の近くに設置された司令部は砲声が響く毎に小刻みに揺れた。



「初戦で出遅れこそありましたが、問題なさそうですね」

「戦はこれからです」



 このタウキナ・ベスウス連合軍司令部に響く咀嚼音を除けば緊張で胃を捕まれたような錯覚に陥りそうになる。

 てか、さっきからシブウス様は食べ過ぎだろ。すでに五百グラムはありそうなステーキを二枚食べて、今は三枚目に挑戦中とか。それに作戦発起時刻は六時ちょうどからだったはずだが、ちょっと元気すぎないだろうか、この王子。なんだかこちらの胃が重くなってくる。



「オシナー。もぐ、で、なんだ。先ほどから我を盗み見よって。これはやらぬぞ、もぐ」

「い、いえ。失礼致しました」



 司令部に充満する肉の香りに数人の幕僚は外に出て行ってしまった。空腹が限界を迎えようとしているのか、それとも脂っこい匂いに当てられたか。

 俺も外に出ようかな。



「まぁ、これだけうるさいと食欲も失せるな」



 シブウス様、それは渾身のギャグなのだろうか。

 答えに窮してアウレーネ様を伺うと彼女も「どうしましょう」と顔が強ばっていた。下手な対応をして不敬罪とかで再び処刑台にあがりたくないぞ。

 は、早く。シューアハ様、早く戻ってきてください。準備法撃を終わらせて早く!



「ち、ちょっと外の様子を見てきます」

「わ、私も――」

「今更慌ててもどうしようもあるまい。すでに作戦は下達されておるのだ。

 不足の事態が起これば伝令が来るし、通信陣も近くにあるのだ。何を慌てる。特にアウレーネ。貴様は元とは言え王族なのだ。そう頻繁に動いては士気にかかわると言う物だ」



 貴方の扱いにです、と心の中で返しつつ「お、俺は軍事顧問として作戦指導を――」と自分でも論が通っているのか分からない言葉をつぶやきつつ司令部を出たが、アウレーネ様は適当な理由はおろか、そもそも指名が入ってしまったため、すがるような目で司令部を出る俺を見てきた。いやー、力になれませんって。

 逃げるように司令部を出ると待っていたとばかにヘルスト様が手をこすり会わせながら近づいてきた。



「会議はどうだい?」

「シブウス様の食事にあてられて逃げて来た所です」



 ヘルスト様の頭上に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだ。まぁ、あの司令部の事を素直に話しても時間の無駄だろうし、代わりに戦況について聞くと彼女は肩をすくめた。



「そんなに動いていないよ。今は射程で勝るこちらが一方的にボコスカやってる感じ。もうすぐしたら自分が空から援護」



 ヘルスト様の任務は空からの爆撃による歩兵支援だ。

 そのため準備砲撃の最中はこうして待機状態となる。



「このたびはわざわざ、すいません」

「何、オシナーの頼みだからね。家の方も気になるけど、兄上や父上が西方を守ってくれているはずだからそんなに心配はしていないさ」



 エルファイエルと対峙しているノルトランド家の事が心配のはずなのに、ヘルスト様は気負い無くそう言ってくれた。



「ありがとうございます」

「だから、別に良いって。こっちは必要な時に飛んで必要な支援をするだけさ。

 それがオシナーの役に立つのなら、こっちも嬉しい」



 思えばヘルスト様によく支えてもらってきた。

 西方戦役の時もわざわざ志願して西方に残ってくれた。

 王都で士官教育に当たった時もヘルスト様が周囲の貴族をとりまとめてくれた。



「ヘルスト様、ありがとうございます」

「なんだよ、急に。は、恥ずかしいな」



 寒風のせいか、頬の赤いヘルスト様は飛行帽を目深にかぶってうつむいた。



「……それより、礼を言わなければならないのは、自分のほうだよ」

「はい? 俺、何かしました?」

「したさ。前世の記憶を使って、色々」



 そりゃ、色々とやった。手銃を作り、連帯を作り、東方諸族の解放もした。数々の事をして、数々の結果を生んできた。

 その結果の一つが、今の叛乱鎮圧なのかもしれない。



「自分は、怖かった。図上演習を考案した後、色々と悩んだんだ。もし、自分がこれをやらなければ、誰かの手柄になっていたんじゃないかって」



 誰かの手柄を奪ったのでは無いか。

 それは俺も思っていた。俺がいなければ他の誰かが作ったであろう火器を作った事に罪悪感に似た物を感じていた。



「でも。オシナーは強いんだね」

「別にそんな……。ただ、最初は親方のこさえた借金を返そうとしただけなんです。それが東方の解放に繋がって、火器を生んだ者としてその責任が取りたくて――」

「そう、思えるのが強いんじゃないかい?」



 飛行帽に隠れたヘルスト様の瞳が俺を見つめているような気がした。



「自分にはそれが無かった。だから図上演習の事で何か、言われるのが好きじゃなかったんだ」

「でも、今こうして戦争をしているのは俺が火器を生んだからです。それで、ケヒス姫様を止められなかったからです」



 俺はあの人の復讐を止められなかった。だから、止めに行こう。それが、俺の取るべき責任だから。



「昨日より良い顔をしてるね、オシナー」

「そうですか? ま、それもヘルスト様のおかげですよ。ありがとうございます」



 「そそ、そうかな」と言いつつヘルスト様はタンニンの方に足を向けた。



「ヘルスト様!」

「な、なんだい!?」

「ご武運を!」



 それに親指を立てて返辞が帰ってきた。





「そうか、負けたか」



 王立議会の摂政の席に腰掛けて報告を聞く。もっとも玉座に座りたい所だが、まだ現王の葬式もしてないのに即位する事は出来ない。



「シブウス様率いるタウキナ・ベスウス連合軍は南タウキナに集結した連合騎士団を破り、そのまま南タウキナを解放、一部はアマルス公国に進入しいているとか。

 また、クレム公国はベスウス騎士団の侵略を受け、降伏。騎士団主力は現在南下中との事」



 商会の連絡員の報告に鷹揚に頷くと議会から「忌々しい」と言う声があがった。



「なに、戦はこれからよ。フン、まさに建国記の再来だ。我らは王族も貴族も平民もが一致団結し、亜人の脅威に対抗するのだ。さすれば道も開ける」



 すでに王宮で余が策謀を張り巡らして現王を暗殺した事を知らぬ者はいない。

 だが、余を断罪する現王派は王宮にはいない。皆、物理的に居なくなったからな。

 それに保身に走る腑抜け共もおり、苦労はしなかった。

 なによりも怒りに震える民の先導を勤めた余を無碍に扱う事を王宮は恐れたのだ。



「王領の再編はどうか?」

「王領の代官の多くは殿下に帰順の意をしてしております。また、殿下に呼応する民も多く、代官も手が着けられない地域もあるとか」



 王都での一件以来、王領各地では野火のような早さで反亜人運動が巻き起こっていた。

 その怒りはすさまじく、街から代官を叩き出して自治をしく者も居るという。

 それほど民の怒りは高まっていた。その背景あってこそ、余がこうして王宮を支配下に置く事が出来たと言う物だ。



「殿下! お願いの議がございます。募兵所を増やして頂けませんか? 連日、若者が訪れ、減る事がございません」

「なるほど。良きにはかれ。兵はいくら居ても足りぬからな」



 特にこうして負けたのなら、その戦力を補う必要がある。

 練度ではどうしてもタウキナや東方には勝てない。なら数で押しつぶすのみ。



「よし、では皆の者。まずは連隊の兵力を集める事に注しさせよ。各工房には大金を巻いて小銃と大砲を作らせるのだ。公国同士の戦――前座が終わったにすぎない。次から真打登場と相成る」



 物理的な距離もさることながらタウキナもベスウスも戦力の再編で時間が稼げるだろう。。

 その時間が稼いだ騎士団には感謝してもしきれないが、それだけでは時間が足りない。

 黄金の時間はまだまだ必要だ。



「皆はケプカルトの愛国者であると信ずる者だから、あえて言おう。

 我らは民のために亜人の脅威を廃しなければならない。

 だが、敵は強大だ。二つの大公国――それも火器のタウキナと魔法のベスウスの後押しを受けた強大な戦力だ。その侵攻をはねのけるには多くの犠牲が居るだろう。多くの者が死ぬだろう」



 議会の何人かは「我らが亜人に負けるものか」と勇ましい事を言うが、また何人かはしきりに頷いている。

 いくら多くの戦力をかき集めようとも不安はある。それに戦力を集めただけではただの烏合の衆。それを指揮し、調練しなければ意味が無い。

 それを成すための時間が必要であり、こちらに十二分な時間があるかと問われればそれに否と答えなくてはならない。



「故に、我らは我らの肉を切ってでも勝利しなければならない。負ければまた奪われるのだ。

 我らの職を、我らの生活を、我らの安住を奪われるのだ。

 故に負ける訳にはいかない。負けないために余は妥協しない。負けぬために、我らは小を犠牲にして大を救わねばならない。そうであろう?」



 議会を一睨みすれば誰もがゴクリと唾を飲み込んでいる。

 父上も、こうして議会に渇を入れていたのだるか。



「敵の侵攻が予想される村を焼く」

「――焦土作戦ですか」



 議会のざわめきは思ったより小さかった。誰もが「仕方がない」と思っている。まぁ、自分の土地では無いからな。



「各公国は兵を下げながら敵に打撃を与えよ。その間に村を焼く」



 西方を経験した騎士達は焦土作戦の威力を知っている。それこそ身を持って知っているのだ。

 故に甘美な焦土作戦の効果の前に反論など少数派でしかない。



「各騎士団に通達させよ。敵をバルジラードまで引き寄せるため、敵の侵攻が察知された街道沿い村を焼け、とな」

「しかし、議会が承認しても各公国は従うでしょうか?」

「……確かに領民を焼くのは忍びない」



 言葉から力を抜き、うなだれるように席に深々と腰掛けた。議会を一別すれば新し大臣達が固唾をのんで言葉を待っている。

 その怯えた様な瞳がなんとも余の嗜虐心をくすぐる。なんと心地の良いものか。だが、それを顔に表してはならない。今は沈痛を胸に秘めた顔をしなければならないのだ。



「大事に育てた麦に火をかける。井戸に毒を入れる。家畜を殺す。胸が張り裂けそうだ。

 だが、余はそれを命じなくてはならない。何故か?

 余がケプカルトの王だからである。

 余は王国の民を守る義務がある。それ故に余は残酷となろう。冷血姫の名を甘んじて受けよう。

 それがケプカルト三千年の歴史のためとあらば、余はケプカルトの未来のためにその罵声を甘んじて受けよう。

 村を焼け出され、奪われる悲しみの前に絶望が降り懸かるだろう。だが、ケプカルト王国民のために戦う余を神が見捨てようか!?

 否である。

 今は苦しくてもこの一戦は未来のケプカルトを築くための礎となるのだ。

 いずれ、焦土作戦の参加したが故に安住を得られたのだと思える日が来よう。その日のために、その未来のために、余は各公国に伏して願うものだ。頼む」



 まぁ、ここで頭を下げた所で焦土作戦を実行しない連中はいるだろう。その保険も打ってある。

 秘密裏にクワヴァラードを脱出したディルレバンカー支隊の連中がそろそろ活動を始める手筈になっている。

 それにしても議場は余の演説に「未来のために」「明日のケプカルトのために」とささやきあっている。

 効果は上場か。

 それに神の名を使ったせいか、教会から派遣された枢機卿が、関心したように頷いている。

 ここで点数を稼いでおかなければ即位が出来ないからな。


 くそ、忌々しい教会め。思い出しただけで腹が煮えくり返る。

 なにがまだ現王陛下は生死不明であるから即位を認めるわけにはいかないだと!?

 あれだけ探して見つからないのだ。どうせ東方の土になったに違いない。

 それにタウキナ・ベスウス連合軍と戦う上で万全を喫しなければいけないのだ。王として余が即位すれば勅が出せる。さすれば大儀を失った大公国共は瓦解するはずなのだ。

 議会からも、そして王国軍としても教会に圧力をかけていると言うに……。

 あと一歩なのだ。あと一歩で父上の玉座を取り戻せるのに――。



「所で軍務卿。トリシューラの調子はどうか?」



 前任の軍務卿はゲオルグティーレ家出身のため、民と共に王宮を占領した時に処刑して今は城下に首をさらしているため、その後任を反亜人派の貴族に任している。



「ハッ! 報告致します。万全に整備しており、殿下の命が下り次第、即座に攻撃できます」



 この巨砲は決戦の際に切り札となる。もっとも、これの戦術価値を知っているオシナーなら早々にこれを破壊する作戦を立てるだろう。

 あぁ、オシナーめ。あのコロシアムで死んでいてくれれば余が即位を焦る必要もなかっただろうに。

 あやつならベスウスとタウキナの連合軍をまとめ、的確な戦争指導をするはずだ。

 なんと言っても奴は火器を生み、余より先に火器を用いた戦術を理解していた。

 今更、何者かとは問わない。

 だが、奴こそ余の脅威であるに違いない。逆に言えば奴さえ殺せれば――。



「殿下? どうされました?」



 連絡員の一言で顔をあげると心配そうな視線が突き刺さっている事に気がついた。

 「心配いらぬ」と片手をあげて応じ、朗らかに笑う。



「やはり、焦土作戦を余は良く思わぬ」

「殿下のご心痛、我らには察し余る限りではございますが、これ以外の良策は無いものと存じ上げます」

「憎き亜人を討つため止むおえません」

「本作戦について決をとりましょう! 我ら議会は本作戦を認め、それを熱望するものです。

 そのため本作戦は我らの願い。殿下が心を痛められる事もありますまい。全ては民の代弁者たる議会の願いにございます」



 く、フハハ。チョロいな。

 討つように響く言葉に口元が緩みそうだった。

 まぁ、どこがとは言わぬ緩い連中を集めて大臣に任命したからな。ここに居る連中は勝ち馬に乗れさえすれば良いのだ。

 さすれば余についてくる。

 余はそれらの民を牽引すれば良い。議会など傀儡だ。

 民の不満を集め、それを一挙に放出させてやれば蒙昧な民達は余に従う。

 さぁ、決戦までどれほど民の不満を集められるかが勝負だ。

 覚悟しろオシナー。余は待っておるぞ。く、フハハ。


こちらは久しぶりの更新となります。

同時連載中の戦後のファンタジーもよろしくお願い致します。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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