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銃火のオシナー  作者: べりや
終章 東方大演習
117/126

焦土作戦 【オシナー】【ケヒス・クワバトラ】

前回までのあらすじ。



南タウキナを占領していたクーデター派騎士団の撃退に成功したオシナー達。

彼らはクーデターの首謀者ケヒス・クワバトラを討ち取るべく南下を開始。しかし彼らを待っていたのは……。


一方、王都ではケヒスが軍を再編し、王都近郊での決戦に備えていた。しかしそれに対して議会は……。

 長い隊列の果てに黒煙が見えた。

 黙々と上るその煙を見ているとセッコウに出ていた騎兵が青い顔をして戻ってきた。



「報告します。煙の元はやはりオリダ村でした。撤退するアマルス騎士団によって家に火をつけられ、井戸には死体を投げ込まれているそうです」



 青い顔は恐怖にひきつっているのでは無く、怒りに打ちふるえているようだった。

 そんな騎士に「報告ご苦労」と事務的に返して俺は司令部馬車に戻る。そこにはタウキナ大公アウレーネ・タウキナ様やベスウス大公のシューアハ・ベスウス様、そしてケプカルト王国第二王子シブウス・ゲオルグティーレ様が暗い顔をして俺の報告を待っている。正直、報告したくない。



「火元はオリダ村のようです。先ほど収容した生存者の話と斥候の話を合わせて考えるにアルマス騎士団がこの街道を使って撤退してさほど時間が立っていないと考えられます」

「焦土作戦、ですか……。お姉さまらしい作戦ですね」

「暢気な事を言っている場合か! これまでどれほどの村が焼けたと思っておるのだ。このままアマルス騎士団を野放しにすればアマルス公国は滅ぶぞ」



 シブウス様の激昂ももっともだった。

 タウキナ南部から敗走したクーデター派騎士団は撤退の道すがら、村と言う村に火をかけ、ご丁寧に井戸に死体や糞尿を放り込んで行っている。


 そのせいで王領を目指すタウキナ師団にはすでに疲労の色が浮かんできていた。

 だが、それでも軍として形を保っていられるのは皮肉にも焦土作戦を行うクーデター派騎士団に怒りの炎をたぎらせているからだった。

 タウキナ師団の多くは農村出身の次男や三男であり、焼け出される村に自分達の村を重ねているのだろう。そのせいで凶暴的に士気は高い(これまでもアマルス騎士団残党と小規模な戦闘が発生しているが、捕虜無しの報告に背筋が震える思いだ)。



「しかしアマルス騎士団に手を焼くのもわかりますが、対策の立てようがありませんな」



 シューアハ様が言いたいのは師団規模で行軍する俺たちはどうしても機動力で敵の騎兵集団に遅れをとってしまう事だった。

 そのため騎兵を先行させる等の対策を講じたのだが、本隊に騎兵が居ないと見るや、敵の騎兵がこちらを直接襲ってきた事があった。



「やはり敵の動きがただの撤退とは思えません。これは明確な遅滞戦術でしょう」

「それが分かった所で詮無き事だ。シューアハ。ベスウスから騎士団を増派するよう勅を出せ。我の名を使うのだ。もうクレム公国の掃討も終わるだろう。後は傭兵に任せるのだ」

「東方からも戦力を回せれば良いのですが……」



 依然、クワヴァラードで頑強な抵抗を見せる東方辺境騎士団に煮え湯をのまされているスピノラさんは頑なに「そっちに送る戦力があるならとっとと攻城に使ってまさぁ」と言う趣旨の手紙を送ってきていた。せめて攻城では使わない騎兵戦力の一部――特にケンタウロス騎兵の中隊を派遣して欲しいのだが……。

 くそ、今になってコレットの憎々しい顔が思い浮かぶ。彼女は確か東方第一連隊所属のはずだから今もクワヴァラードに居るのだろうか……。



「あの、オシナー様? 心ここにあらずと言った表情をされておりますよ」

「え? あぁ。これは失礼」



 何にせよ、こちらは圧倒的に機動力が足りない。

 馬の早さもそんなに変わらない現状、敵に先手を打つのは不可能だ。

 ならば――。



「温存していたドラゴンを使いましょう。空から敵を索敵して擲弾や降下龍兵を使って敵を殲滅するしかありません」

「ドラゴンは我が軍の切り札ぞ。このような掃討戦で仕えぬ」



 空からの絶対的な支援は今後の作戦で欠かせることが出来ない戦力だ。

 もし、ヘルスト様とタンニンに万が一の事があれば戦略レベルでの作戦変更もありうる。



「しかし、このままではケヒスの思う壷です。それに、敵も自国を焼くような事までして勝利を目指しています。ここで出し惜しみをしていては勝てないかもしれません」



 瞑目したシブウス様から返答が無いまま、時が過ぎていく。チラリとアウレーネ様を見れば彼女も焦りを含んだ表情でこちらを見ていた。

 互いに交差した視線が、気まずさで離れていく(場違いにもほどがある)時、シブウス様が「昼にする」と宣言した。

 まぁ、ここで煮詰まっていても仕方ないし、兵達の事を考えればそろそろ昼食にすべき頃合いだった。



「では各部隊に歩哨を立たせ――」



 アウレーネ様の声を聞きながら、南の空を見た。あの空の下にケヒス姫様がいる。

 早く会わねばならない。そして、あの人を止めねばならない。早く、早く――。





 王都バルジラードの空気も日増しにピリピリとした殺気が濃くなっていく。

 ふと、そんな事を思った。



「殿下?」

「ん? いや、何でもない。それよりも出立を急がせろ。各工房には銃弾の生産を――」



 と、急遽定めた元近衛騎士団から選び抜いた幕僚を従えて議会に向かっていた所、なにやら喧噪が聞こえてきた。



「何事か?」

「確認してまいります」



 風になびくマントを見送りながら歩を進めると、突然眼前に一人の騎士が現れた。鎧の刻印からしてアマルス騎士団の物だろう。



「殿下! 恐れながら申し上げます!」

「控えろアマルス殿! 無礼であるぞ」

「されど! されど!!」

「アマルス。悪いが余も忙しい。用向きは後ほど聞こう」



 だがアルマスは引き下がる事無く、余に向かって増悪の瞳を光らせるばかりだ。

 


「されど殿下! 我が、我が諸領で何が起きているかご存じか! 確かに我らは恥ずかしながら現王派に破れは致しました」

「そうだな。クレムもベスウスに負けて国を追われたな」

「殿下は我らに『攻めるだけが戦では無い』と言われましたな。それで我らはいずれ殿下が我らの諸領を奪還して下さる事を信じて国から騎士団主力を引き上げました(・・・・・・・)



 その通りだ。騎士団の明確な弱点を上げるとすればその補充能力の低さにある。選ばれた血と鍛錬にこそよって得られた技量は一夕一朝では作りえない。

 それに対して連隊と言う物は民草を徴兵し、短い訓練で一程度の戦力を集める事ができる。

 故に余は実力のある騎士団を温存するために敗戦後のタウキナから早々に撤退するよう命令を下した。



「ですが、騎士団と入れ違いに入ったあの傭兵共はなんでしょうか!? 撤退を支援すると言う向きで鎧を貸与致しましたが、奴らがしている事は野盗にも劣る蛮行しかしていないではありませんか!!」

「知らぬか? 焦土作戦と言うものだ。エルファイエルの連中が好んで使っていたろう。

 それにこの作戦はすでに議会の承認を得ている。すでに諸侯には伝えたはずだ。

 敵軍の進軍路にある村は全て焼けと」

「それは受け入れられないと申し立てたではありませんか!! それも各領主、皆が! それなのに殿下は――」



 下らぬ。こんな事で余の貴重な時間を奪うと言うのか。まったく下らぬ。



「殿下! 民あっての国ではありませんか! それなのに民を虐げるならば我らに大義などありません! 早急に傭兵を連れ戻し、然るべき処罰を与えるべきです!!」

「……だがそれには奴らに勝てぬだろ?」



 余の言葉にしばし黙したアルマスだったが、すぐに烈火のごとく口を開く。

 どうして分からぬのだ? 村を焼く事は敵の補給線を寸断する意味合いもあるが、それをアルマス騎士団の者が行う事で多くの者に我らの鉄の意志を見せつけ、士気を崩す事に繋がると言う事がなぜ分からぬのだ?

 この一戦に負ければ全て終わると言うのに、どうして勝利のための犠牲を黙認出来ぬというのだ?

 分からぬ。まことに分からぬ。



「……わかった。貴様の言葉ももっともだ。どうも余は大切な事を見落としていた。この議会にて焦土作戦の中止を提議しよう」

「おぉ! さすが殿下! わかって頂けたのですね!!」

「うむ。貴様の言葉に目が覚めた。そろそろ時間だ。下がれ」



 「御意」と頭を下げて出ていくアマルスの背中を見送りつつ、近くの騎士に耳打ちした。



「奴は我らの王国(りそう)に異を唱える亜人主義者のようだ。殺せ」

「御意」



 このまま焦土作戦を行って敵を弱らせる以外に勝機は無い。

 歩兵や砲兵の数で言えば奴らと同数規模を揃えられるだろう。

 だが、その技量や法兵を考慮した場合、勝ち目は遠のいてしまう。

 これを互角以上にするにはこちらの練度を上げるのももっともだが、敵を弱らせる必要もある。



「ディルレバンカーの傭兵団は中々使えて良いな。

 あの支隊長に連絡を入れろ。村を焼くだけで無く、戦線後方に浸透して敵の補給基地を攻撃せよ、とな」

「御意」



 ディルレバンカーの部隊は現王を襲撃した後、多くはクワヴァラードに戻ったが、残りはこうしてクーデター派の貴族の下に向かわせ、こうして後方攪乱に使っている。

 あの部隊には理性と言うものが無いらしく、余の好みの活躍をしてくれている。



「第三王姫殿下、ご来臨!!」



 そして議会の扉が開かれると今まで議論していたであろう者達が一斉に立ち上がる。

 今までは限られた貴族だけが入る事を許された議場には今や市民会の代表や有力商会の会長に騎士と様々な顔ぶれが増えていた。



「皆、大儀である」



 そして余の向かう席は最上座にある皆より三段高い位置にある玉座。

 そこに座わる事はこのケプカルトの王と同意と言って言い。



「殿下、議事録になります」



 書記が差し出した羊皮紙に目を通しつつ、「作戦に投入出来る兵力は?」と問う。



「数だけならば一個師団ほどです。また、各連合騎士団をこれに加えれば一万五千は集まるでしょう」



 騎士の報告に舌打ちしたくなった。遅滞作戦をしているディルレバンカー支隊の報告からして敵は最低、一個師団ほど。元来、タウキナには二個師団規模の軍が居るが、我らの侵攻を許した南タウキナの治安維持や復興、占領したアマルス公国内の補給線警備等で大分戦力が落ちてきているようだ。

 つまり焦土作戦が効果を表してくれたおかげで数的優位は確保しているようだが、まだ心許ない。

 なんと言っても敵はベスウスがついている。魔法使いは集められるだけ集めたが、それでも不安はぬぐい去れない。



「傭兵はどうなっている。この際、人間や亜人は問わん」

「それもかき集められるだけ集めました。もうこれ以上は……」



 くそ。まぁ、無いものは仕方がない。

 後はディルレバンカー支隊に後方攪乱作戦にさらなる期待を重ねるのみだろう。



「殿下! 恐れながら申し上げます! 殿下は王都近郊での決戦を目指しておいでですが、我ら忠国の志士は敢えて打って出るべきと考えます!!」



 それは主戦派と言っても良い声。声の主はこの議会に加わったばかりの豪商だった。

 彼は議員の中でも反亜人を唱える有能な者だ。



「それに南タウキナ会戦の後の戦況が芳しくありません。民の中には不安も生まれており、このままでは軍の士気にかかわるでしょう。

 そのため打って出るべきです。意気軒高な殿下の軍をもって亜人主義者共に正義の鉄槌を下そうではありませんか!!」

「う、うむ。しかしだな――」



 確かに士気を上げるためにはその方が良いだろう。だが彼我の戦力を見ると――。



「殿下! 我らもその意見に賛同します! 今こそケプカルトに勝利を!」

「蛮族共に神聖なる王領の土を踏ませるなど我慢なりません! どうかご決を!」



 興奮した議会の熱。民たちの興奮。

 確かに皆の言う通りでもある。確かに王都近郊の戦では王都に被害が出かねない。それを思うと軍を率いて打って出ると言うのも悪くないかもしれない。


「……仕方が無いな。皆、よく聞け。

 皆の願い、確かに聞き届けた。諸君らが望むなら王たる余は答えねばならんな。

 だが、一つ心得ておいてほしい。

 我らの敗北とは即ち人間種の敗北と言える。諸君、君たちは亜人のように奴隷に成り下がる日々を受け入れられようか? 亜人のように泥のスープを飲む日々を許せるか?

 否なのだ。我らは人間なのだ。そしてケプカルトは人間の王国なのである!! 我らはケプカルト建国にあった亜人の脅威から人間を守ると言う初代ケプカルト王の願いを無為にしてはいけない。

 亜人と言う暗雲を吹き飛ばし、ケプカルトに光を取り戻すための突風となるのだ。

 勝利を! 王国に勝利を!!」



 勝利を! 王国に勝利を!!



「未来を! 人間に未来を!!」



 未来を! 人間に未来を!

 王国万歳! 第三王姫殿下万歳!!



 歓声に包まれた議場。額にうっすらと浮かんだ汗が心地良い。



「さぁ! 行くぞ。我らの王国を、人間の未来を守る戦に!!」



 議場の声を聞きながら、ふと、切り取られた北の空を見た。あの空の下にオシナーがいる。

 早く会わねばならない。そして、あやつを早く殺さねばならない。早く、早く――。






 クーデター派騎士団を中心とした王国軍一万五千が王都を出た。

 彼らは熱気に浮かされたように勝利を叫んで北を目指す。

 そしてそれに反する大公国軍一万三千は遅滞作戦に苦しめられ、また後方を乱す敵の存在から後方連絡線が断絶する自体を起こしながらアマルス領を南下した。

 そして両軍が激突する日が訪れた。



「敵は一万五千ほどですか……。先の偵察とそう変わりありませんね」

「数的不利は否めませんね。特に騎兵戦力が劣っているように思います」



 アウレーネ様の指摘通り、我が軍の騎兵の多くは後方警戒に割かざるを得ず、結果的に偵察以上の事が出来ない。

 こう、開けた野戦である事を思うに歩兵への負担が大きいたどる。



「ですが幸い、こちらの方が若干ですが高所です。方陣を組み、騎兵に対抗しつつ砲撃を加えればまだ勝機は十分あり――」



 言葉が途中で止まってしまった。きっと隣でアウレーネ様が首を傾げている事だろう。

 だが、遠眼鏡の先に赤い軍旗が翻っているのだ。

 間違いない。ケヒス姫様だ。ケヒス姫様が来ている。



「ん? 軍使か」



 赤い旗が揺れた。そして豆粒ほどにしか見えない人影がこちらに向かってきていた。



「ケヒス……。あの――」

「分かっていますよ。軍使の任、お受けください」

「御意に」



 すぐにシブウス様が出てこられた。第二王子殿下は俺の顔を見て、「行くぞ」と短く言ってくれた。

 ケヒス姫様。今、行きます。


お待たせしました。

一周年くらいの時に年内での完結を標榜し、二月ほど失踪していて申し訳ありませんでした。

しかしお約束は違えません。なんとしても年内に完結させます。

まぁ、最終話まで書けたのでおそらく毎日投稿して行こうと思っています。

ではラストスパートにどうかおつきあいください。

また、頂いたコメントや感想は戦後のも含めて今夜返信します。



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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