激動 【ケヒス・クワバトラ】【オシナー】【コレット・クレマガリー】
その日、バルジラードの平民街は祭りのような熱に当てられていた。
街の広場には舞台のような壇上が設置され、その周囲の人々は手に印刷で作られたビラを握っている。
「盛況だな」
その舞台の近くに止まった馬車の中から外を伺うと、胸のすくほどの群衆が見て取れた。
「良いんですか? これ……。暴動に発展しますよ。それもこの非常時に。王宮が何と言うか」
商会からの連絡員は表情を堅くしてそう言った。
暴動程度で済んではダメなのだ。余はこれを革命に発展させなければならぬのだ。
「フン。その諫言を言う王宮の頭は居ないのだ。頭が無ければ喋れまい」
勢いよく馬車の扉を開け放ち、舞台に歩を進める。それこそ宰相のように演技のような。
民衆数は三千と下らないだろう。上々の客入りだ。
ニヤリとつり上げそうな口元に自制心を集中させながら壇上の上がり、従者からイチイの杖を受け取る。
すでに舞台には拡声させるための魔法陣がしかれており、その中心に立つ。
「皆、しかと聞け!」
三千の群衆に肉声は届かない。それはオシナーの作った連隊で実証済みだった。
だからこの商会を通じてこの魔法陣をベスウスに作らせた。
さすが魔法大国の一品だ。(もっとも商用ルートを偽装しなければ国外に出る事も無かった魔法だろうが)
「諸君は現王様を襲った不運を知っているだろうか」
この事実は王都だと一部の貴族しか知らされてない。
当たり前と言えば当たり前だが、これが知られれば王の権威も失墜するだろうから民には伏せられているのだ。もっともこれは三年前の時から予想していたから問題ない。時として情報統制は仇となる。
「これは事実である。余は東方辺境領にて亜人の驚異に直面して来た!
皆も前王陛下の切り開かれたクワヴァラードでの悲劇を知っておろう!
亜人どもは姑息であり、野蛮であり、蒙昧である。
故に人の法は通じず、畏れ多くも亜人解放を命じた大恩ある現王陛下に牙を向いたのだ!!」
群衆のどよめき。
当たり前のように敬ってきた王族を害された事実に困惑の空気が生まれた。余の発言でビラがデマ等では無く、真実である事が伝わったろう。後はこの混乱を取りまとめるだけ。
「聞けッ!!」
一拍の間をおいて活を入れると、広場は水を打ったように静かになった。
「王宮はこの事実を隠した! 何故か!? 亜人への融和政策を進める現王陛下がその亜人に牙を向かれたとあっては面目が立たないからである!!
だが、我々は陛下の犠牲を目の当たりにして気がついたはずだ。
亜人と人間は分かりあえぬのだと!! 融和を掲げようと蛮族と手をつなぐ事は出来ないのだと!!
ケプカルトは何故、建国された!?
それは亜人の脅威に対抗するためだ! 我らの共栄圏を守るためだ!」
亜人とは分かりあえない。
その言葉は平民の胸に染み渡ると、油のように怒りの劫火を作り上げる。
平民の中には亜人によって職を奪われた者も少なくない。
娼館や工房。そして奴隷商。亜人が王国民として迎え入れられた事で虐げられた者もいる。
要は限りのあるイスからけ落とされた者達に、この言葉は届くだろう。とくにその日の暮らしがやっとの者にとっては特に――。
「ケプカルトの人間諸君!!
余は民に情報をひた隠し、虚言を使って民を惑わすような事はしない。
余は民に甘言を使って事実をねじ曲げるような王宮のやり口を否定する。
民よ! 余は現状を打破するために最善の行いを民の先頭に立って行うのが王族の義務であると信ずるものである。
故に今の誤ったケプカルトを余は否定する!!」
反亜人感情を持つ民が頷くのを見てから口を開く。良い調子だ。
「よって余は己の行いに妥協はしない。だが、それに続く民にも一切の妥協はしない。
何故なら虚言が現王陛下の悲劇を生み、諸君の暮らしを奪ったからである。
王宮の独りよがりな政策が悲劇を生んだのである。故に余は妥協をしない。それは民への裏切りに他なら無いからである」
ゴクリと喉がなった。魔法による拡声をしているとは言え、大声で演説をするせいか汗が止めどなく額を走る。だがそれが心地いい。これが、これが民を統べると言う事なのか。
今なら恋い焦がれる乙女の気持ちが分かると言うものだ。
「故にケプカルトを守るために亜人と戦わなくてはならない!!
奴らは我らの安寧を、我らの職を、我らの住居を狙っている!
ケプカルトの人間諸君!
余は諸君等の安寧が自ずから達成されると約束はしない。
我々が行動するのだ! 我々、人間が手を取り合って行動しなければならないのだ!!
安寧が、職が、住居が空から自然と降ってくると思ってはならない。我々の意志と行動によってこそそれは得られるのだ!
ケプカルトに暮らす人間諸君!
人間の勤勉さ、不屈さ、決然さによってケプカルトは繁栄するのだ。我が父、クワバトラ三世が願ったケプカルトを己が手で築きあげるのだ。
故に民よ! 武器を取って自ずから行動する意志のあるケプカルト人よ!
余について来るが良い! 余はその先導者となり、初代ケプカルト王の理念の元に新たなケプカルトを共に打ち立てよう!!」
群衆からの歓声があがる。
国は貴族で出来ているのでは無い。民で出来ている。ならばその民を操作出来ればケプカルトを手にしたも同然だ。
「で、殿下!? 何をなされているのです!」
その声に舞台の裾を見やると警邏をしていたらしい騎士が数人、顔を蒼白にして居た。
「余はこの国を立て直す。民のためにも余はケプカルトの立て直しを先導しなくてはならない。それを阻む者は即ち我らの理想を踏みにじり、亜人の策謀にかかった無能である。余の王国に無能はいらぬ。
余が求めるのは真の愛国者である! ケプカルトを愛する民よ! 余はその道標となりてこの国を導く事を確約する」
まだ魔法の声が群衆に響く。
騎士が殺気立てば民は怯える。その逆は早々無いが、三千もの殺気を受けた騎士達の顔面が蒼白になっていく。
「民よ! 王宮にゆくぞ。自ずから行動し、真のケプカルトを取り戻すのだ!!」
◇ ◇ ◇
「バルジラードで蜂起!?」
「未確認の情報ですので、声を荒げないでください」
タウキナ第二師団司令部。俺の着任早々に問題が起こった。
だが、それよりも――。
「王都の事も気になりますが、まずはシブイヤ解囲と敵の後方連絡線の切断を優先しましょう」
初戦の敗北はタウキナ軍の士気を大いに下げた。
だが、総兵力一万七千のタウキナ師団、そしてベスウス騎士団五千の連合軍の再編は終了した。
「ベスウスとよく話し合いがまとまりましたね」
「ベスウスはお兄さま――第二王子殿下であらせられるシブウス様を押しておられますので、お姉さまとの対立は不回避。必然的に我らの陣営についたまででしょう。
ただ、この戦はただ単に前王派と現王派の戦ではすまないように思います」
王都で行われたケヒス姫様の演説により、王都では反亜人戦争として東方との開戦を主張する主戦派が革命まがいの暴動を起こしていると言う。
それに軍制改革に反対する公国や名だたる騎士団勢力がこれを断行しようとする王宮のへ反発心を抱いて蜂起――こうしてシブイヤを包囲している。
その上、未だに現王様の行方も判明しておらず、王宮の中はゴブリンの巣をつついたような有様になっているようだ。
「ケプカルトは各公国とケプカルト王との絆によって支えられた連合王国。その絆が綻び、動乱となる――」
様々な理由で剣が取られ、小銃が火を噴く。
貴族だけで無く、騎士だけで無く、民衆さえも小銃を手に取り、立ち上がる。
これがケヒス姫様の言う新しい戦場なのか?
「今はシブイヤの解囲を優先させましょう。
時はケヒスを利するだけです。黄金の時間を無償で明け渡しては取り返しのつかない事になりかねません」
その時、「砲兵隊、準備よし!」の報告が司令部に飛び込んできた。
タウキナ師団の火力の充実ぶりは目を見張る物があるが、その火力を構成する野戦重砲は展開力で大砲に負ける。(もっとも大砲が勝てる項目はこれと装填速度くらいなのだが)
「では攻勢に出ましょう。攻撃開始」
アウレーネ様の命令が下達され、砲兵陣地から轟音が飛び出す。
それに合わせるように氷塊が打ち出された。
ベスウスとの混成独立砲兵大隊はその威力を遺憾なく発揮し、敵の戦列に鉄の楔を打ちつけていく。それに呼応するように白亜の城壁からも砲撃が開始された。
「シブイヤにはこの国で二番目の巨砲を据え付けてあります。これで敵の戦列はすぐに瓦解するでしょう」
その言葉通り、タウキナはドワーフからの技術指導の下、技術力の限界を示すために巨砲が作られていた。
「確か、口径二十八センチの――?」
「はい。ただ、巨大すぎて機動は事実上、不可能なのですが……」
いわゆる要塞砲だ。寸動の砲身。巨大な砲耳。それが生み出す破壊力のおかげで寡兵のシブイヤは未だに籠城を続けて来られた。だが、王国にはこれ以上の巨砲が存在する。
「……このまま王都の暴動が収まらなければ接収されるんだろうなぁ」
王都で試作された超巨大砲を搭載した河川用砲艦を逃すほどケヒス姫様は優しくないだろう。
ケヒス姫様の事だ。早急に王都の民を徴兵し、軍を組織立てるだろう。その戦力で王都奪還を目指す大公国軍を迎え討つ。そんな作戦計画を立てているはずだ。
「やはり時間か」
風にのって砲煙が靡いてくる。それに乗って鬨の声。
公国軍騎兵が突撃を開始したのだろうが、前面に三個連隊を展開し、それと同等数の予備兵力を有するタウキナ師団にはいささか多勢に無勢だろう。
「……歩兵の野戦築城は?」
「馬車を用いた簡易築城と、それに――」
少し言葉を濁された後、「シューアハ様が土魔法で壕を作って頂きまして……」と逡巡するゆな答えが返ってきた。
すでに三年をすぎると言ってもタウキナとベスウスは直接的に矛を交えた間柄だ。
助力には感謝したいのだろうが、それでも複雑な想いがするに違いない。
「確かに、こうなってしまえばお兄様とお姉さまの対立と言う政治的な立場から親ベスウス的な立場を取らねばならぬとは思っているのですが……」
「それが、シブイヤの早期解放に繋がるから、ですか?」
「今、この時にもシブイヤの民は攻撃に怯えているでしょう。
私が切り捨てた南タウキナは敵の略奪にあっているでしょう。
ならば――」
言葉にはならなかったが、それだけで十分だった。
ふと、視線を戦場に戻すと宙で氷と火炎が交差した。だが、明らかに氷の方が火炎を圧倒しているようだ。
もうすぐ、包囲の輪に亀裂が入る。早々に彼らを降伏させ、王都への街道を譲ってもらわねばならない。
ケヒス姫様。すぐに貴女の元に参ります。
◇ ◇ ◇
冷たい牢屋。
そこに押し込められたアタシ達。
「くそ、どういう事なんだ!?」
「人間ども、オレ達をだましていたのか?」
ヒソヒソと響く声にイライラが募るが、この場でもっとも階級の高いアタシがそれを露わにしてはいけない――と士官教育で習った。
「さすが人間と懇意だったクレマガリー少佐は動じませんか?」
「あん!?」
やっぱり露わにしてしまった。だが、牢に入れられた士官達の動揺も理解できる。
反乱を起こしたオシナー少将の処刑が行われると言う最中に飛び込んできたドラゴン。
その後、ドラゴンから多くのビラが巻かれた。
『各将兵に告ぐ』と題されたそれには第三連隊の連隊長スピノラ准将の名で原隊に帰順するよう旨が書かれていたのだ。
その真偽を確かめるべく、アタシを筆頭に士官達が戒厳司令部と化した東方辺境総督府を訪れたらこうして拘束された。
「あのビラは正しかったんだ。だからこうして拘束されて――」
「この後はどうなるんだ? まさか、殺されるのか?」
「あの冷血姫の配下だぞ。クワヴァラード掃討戦の時は捕虜にした諸族を城壁に吊るしたり、生きたまま火をかけたと言う――」
拘束されて早数日。飯を持ってくる騎士達はただ黙っているだけだし、さすがにこちらも殺気立つ。
だが、その殺気が引鉄になって騎士団と問題を起こせばそれこそこちらは皆殺しだろう。
「ぴーちく騒ぐな。歴戦の第一連隊の士官のする事じゃないぞ」
「お言葉ですが少佐! 我らの身の振り方を決めるべきです。このままではまた、あの奴隷商に怯えるような日が戻ってくるやもしれないのですよ」
「だから軽はずみな行動はよせ。こちらから手を出さなければドラゴンだって襲ってはこないだろ」
要は打つ手なしなだけなのだが。
特にアタシは考える事が苦手だ。幼なじみのシャルレット曹長に考える事を託している身としてはこれ以上の事は望めない。
そう想っていると、カチャカチャと鎧のすれる音が近づいてきた。まだ飯の時間じゃないはずだが――。
身を起こすと、そこにはヘイムリヤ・バアルと目があった。
東方辺境騎士団の重鎮がどうして――?
「まずは突然、貴様等を拘束してすまない」
軽くだったがヘイムリヤが頭を、下げた。
くそ、こんなの不意打ちだぞ。あのヘイムリヤが頭を下げるだと!? どういう風の吹き回しなんだ。だがこの場の最上級指揮官として黙っている訳にはいかない。
「それで、反乱というのは本当なのか? だとして、アタシ達をどうして拘束した? あのビラを拾ったのはここに居る士官だけじゃない。
下士官、兵だってそうだ。あいつ等はアタシ達が捕まった事で反乱に荷担していると確信したんじゃないか?」
「……そうだろうな」
ヘイムリヤが何か、合図をすると背後に付いてきたらしい顔に真一文字の傷をこさえた少佐――確かディルレバンカーと言う感じの悪い傭兵だ。よくうちの部下と揉める大隊の指揮官だったか。
こいつは根っからの反亜人主義者だからヘイムリヤとつるんでいるのを見るととても嫌な気分になる。
「まさか解放してくれるって言うのか?」
「そうだ。これから拘束を解き、六時間後に一時的にクワヴァラードの城門を開く。
その間にこの反乱に加わらぬ者はクワヴァラードを去ってくれ」
「……本当に解放するんで? これは王姫様への裏切り行為に等しい」
「黙れ。騎士である前にこちらは上官でもあるのだぞ少佐」
「へいへい」
鍵を弄ぶディルレバンカーが顔を歪めながら(これは良い物を見た)反論するが、それは一蹴されてしまう。
それにしても一体、何を考えている?
これがケプカルトに反する行動をヘイムリヤ達が取っているとして、戦力は喉から手がでるほど欲しいはずだ。
なのに――。
その疑問を察したのか、ヘイムリヤはディルレバンカーに聞こえない様にアタシの傍に歩み寄った。
「籠城において城内に不穏分子を入れておく事ほど恐ろしい物は無いからな。それにこれは、戦友としての、せめてもの行いだ」
「アタシだったら騙してでもクワヴァラードに留めておこうと思うんだが?」
「だから今日まで騎士団を説き伏せるのに時間がかかった」と苦笑を浮かべる彼に困惑が深まった。
くそ、少しでも考える事が出来れば――。その視線に気づいたのか、ヘイムリヤは静かな声で語った。
「これは我ら東方辺境騎士団――いや、近衛騎士団の戦だ。おまえ達を巻き込む道理は無い。共に轡を並べた者を道連れにする事は出来ないからな」
「それって――」
出ろ――。アタシの言葉は掻き消え、ただ静寂だけが広まった。
「部隊をまとめて城門を出るならそれはそれで良し。だが、門をあけていられる時間は少ない。
故に六時間で部隊の意見をまとめるのだ。急げ」
そう言うや、羽織ったマントが翻った。
その後を追うようにディルレバンカーが唾を吐いて立ち去る。残ったのは唖然とその様子を眺めている士官達だけだった。
「おい、お前等、出るぞ。六時間か……。大隊の意見をまとめるとなると難しいな――。ってお前等どうした?」
「少佐はクワヴァラードを出るおつもりですか?」
そう言ったのはドワーフの中尉だった。
その他の士官も困惑をたたえながらそのドワーフの中尉の言葉を待つ。
「罠、と言う可能性は?」
「なんだって罠をはる必要があるって言うんだ?」
「籠城戦では内外の敵に備えよと自分は習いました。内の危険分子を減らすためにこうして外に出るようし向けているのでは?」
城内に内通者がいれば堅牢な城も落ちる。
その可能性もあるか。
「ヘイムリヤはそういう奴じゃ無い」
「根拠は?」と問われれば言葉に窮したろう。
だが、逆に中尉が言葉に窮していた。「この少佐をなんと説得しよう」と如実に悩んでいるのがわかる。
悪いが、こっちは頭が悪いんだ。理詰めじゃ説得出来ないぞ。
「しかし、いざ、戦の直前に逃亡した場合、我らの事を『戦の前に逃げ出す輩』と思われるかもしれません。
反乱が成功しようが、失敗しようが、その噂が広まれば東方諸族は戦の前に逃げ出すと思われて、兵士としての価値が無いものと思われるのでは?
そうなれば、また奴隷にされるかもしれませんよ!」
「そんな事あるわけない」と一喝しようとして、やめた。
その意見を出した者の瞳には恐怖がありありと浮かんでいたのだ。
ここまで来るのに払った代償が大きかった分、今を失う事に怯えているのだ。
「自分は、クワヴァラードに残ろうと思います」
「おい、人間共の反乱に巻き込まれてたまるか。部下を無駄死にさせる訳にはいかないだろ!」
「いや、それは――」
中尉の言葉を端に牢の中に議論が生まれる。
ヤバイ。このままじゃ埒があかない。
「おい、そういうのは後でやれ! クワヴァラードに残るにしろ、出ていくにしろ決めるのは自分だ。そういう判断を下せるために士官学校出たんだろ!? 違うか!?」
「では中佐はどうなさるので?」と誰かが言った。
逡巡。
それからアタシはキッパリと言った。
「やっぱりここを出る」
「理由は?」
「勘だ」
アタシは頭が悪い。だが、それでもヘイムリヤの思い詰めた表情からここを出るべきだと感が大声を出している。
それに、あのヘイムリヤが頭を下げたのだから、彼の思惑に乗ってやろうと思った。
「はぁ、勘、でありますか?」
周囲から呆れの視線を受けるが気にしない。
それよりも部隊をまとめなくてはいけないのだから。
そうして三々五々に部隊に戻り、各部隊との調整をしているとすぐに約束の六時間がやってきた。
門にはアタシの率いる騎兵大隊といくつかの歩兵が集まっていた。思ったより数は少ないな。
そう思っていると、馬にまたがったヘイムリヤが「少ないのだな」と驚きを表しながらやってきた。
「これだけか」
「みたいだな。それより、そろそろアタシ達を解放しようとした意図を教えてくれ」
「さっきも言ったろう。これは騎士団の戦だ。亜人であるお前達を巻き込む訳にはいかない」
「それが分からない。亜人を巻き込む? すでに巻き込まれてるぞ」
確かに――と一頻り笑われると急に真剣な顔つきでヘイムリヤは言った。
「この乱が失敗した時、お前達を巻き込みたくないのだ」
「それって――」
だが、言葉が終わる前に城門が開きだした。
各隊から前進の号令がかかり、アタシの言葉は最後までヘイムリヤには届かない。
「コレット! 総員の準備が整ったわ」
「……階級をつけろシャル曹長。大隊前へ、すすめ」
急かされるように城門を出る。
すでに太陽は没し、銀色に輝く月と篝火が闇に抵抗する時間。
整然とした足音と共に城門が遠ざかる。
ふと、振り返るとヘイムリヤが静かに見送ってくれていた。
二度と彼と相見える事は無い――。
そんな予感が胸中を通り過ぎた。
お待たせしました。更新再開になります。
あと、ヒトラーの就任演説のカッコよさは異常。ゲッ『ペ』ルス大臣の総力戦演説もカッコいいですよね。
ちなみに以下は演説の没ネタ。
諸君、余は戦争が好きだ
諸君、余は戦争が好きだ
諸君、余は戦争が大好きだ
殲滅戦が好きだ
突撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ
防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ
突破戦が好きだ
退却戦が好きだ
掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ
草原で、街道で
塹壕で、草原で
凍土で、砂漠で
丘陵で、山岳で
城塞で、簡易築城で
この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ
戦列をならべた砲兵の一斉発射が 轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が 効力射でばらばらになった時など心がおどる
槍騎兵の操るランスが敵の歩兵を蹂躙するのが好きだ
悲鳴を上げて逃げ惑う敵歩兵の首をサーベルで斬った時など胸がすくような気持だった
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が 敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が 既に息絶えた敵兵を 何度も何度も刺突している様など感動すら覚える
我らに仇名す亜人を城壁に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ虜兵達が 余の降り下ろした手の平とともに風切り声を上げる石弓に ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな亜人達が雑多な武器で健気にも立ち上がってきたのを重野戦砲で方陣ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える
悪辣なオーク共に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった村々が蹂躙され 女子供が犯され殺されていく様は とてもとても悲しいものだ
ゴブリンの物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
浮塵子の如く押し寄せる奴らに馬から引きずり降ろされるのは屈辱の極みだ
諸君 余は戦争を 地獄の様な戦争を望んでいる
諸君 余に付き従う王国臣民諸君
君達は一体 何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない 聖戦を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な闘争を望むか?
臣民達「戦争!! 戦争!!」
よろしい、ならば戦争だ
我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だが前王が招いた亜人による屈辱を晴らすにはただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一都市の民ににすぎない
だが諸君はこれから小銃を手にし、古参兵をも殺す強兵となると余は信仰している
ならば我らは 諸君と余で総じて最強の騎士団となる
我々の王国を奪った連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし、眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる
天と地のはざまには 奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
怒り狂った民衆とで腐敗した王宮を燃やし尽くしてやる
ケプカルト諸侯国連合王国第三王姫より王国臣民へ
征くぞ、諸君
革命の幕開けだ!
ご意見、ご感想をお待ちしております。




