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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語(旧題:夢を映す令嬢と運命の予知夢)  作者: 天麻いち
第一部

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6/9

5. 夢と現実の狭間で

6/22 重複していたので修正しました。


「リア、リア!」


 サリーの声で飛び起きる。


「全く、うたた寝してる場合じゃないわ。このままじゃ落第よ。ほら、ペンもって」


 あの事故以降、一つの悪夢も見ずに二か月が経った。

 私が遭ったあの事故は、小さな爆発事故だったらしく、特に人々の口にも上らず忘れ去られていった。

 結局、あの夢のことはサリーにはまだ言えていない。サリーは確実に気づいているが、話題に出さないでくれている。

 ……もうあの悪夢には関わりたくなかった。


「リア! 全然手が動いてないじゃない!」


 サリーの声で現実に引き戻される。


「せっかく対策問題作ってあげたんだから、ちゃんと解いてよね」

 

 私はしぶしぶ手を動かし始める。 

 一週間後にテストを控えた私たちは、テスト勉強に励んでいた。

 もっとも、必死になって勉強しているのは私だけである。サリー先生は優秀なので、今回も対策問題を作ってくれて、つまづきがちな私に張り付いて教えてくれている。

 ぷりぷり怒っていたサリーは突然悪い顔でにいっと笑った。


「今回一つでも落第だったら、ドルキス・ウィータのケーキセットね」

「げ」


 今大人気の高級スイーツ店だ。予約も大変だし、セットで頼んだら二人でいくらするか。考えるだけで、ぶるっと背筋に震えが走った。

 私がにわかに必死になって手を動かし始めると、サリーは満足げに何度も頷いていた。


 しかし、そんな平穏な日々は、その晩にやってきた悪夢に壊されたのだった。





「だりぃー。なんでここまで」


 文句たらたらな友に私は答える。


「課題だからな。来たほうがよくわかるだろう」

「俺よく知ってるし。自分の故郷だぞ?」

「残念ながら私はよく知らないんだ。それに、学園から近いほうだしいいじゃないか」


 友はへいへい分かりましたよと適当な返事をする。

 私は表情を崩すと、すたすたと歩いて行く友を追いかけた。


「おい、置いていくな――」

「しっ」


 友は急に立ち止まり、私を鋭く制止した。

 その目は何かを探るように一点に固定されている。


「何か、来る」


 その言葉に私が構えると、私の耳にも彼の感じた違和感が届いた。ドドドドと遠くから音が近づいてくる。


「氾濫だ」


 やけに冷静に響いた自分の声に我に返り、走り出す。

 濁った濁流は信じられない勢いで私たちを追いかけてくる。

 数秒後には、全力疾走もむなしく濁流に足をとられた。

 身体がもみくちゃにされる。

 思わず口をあけると、水が流れ込んできた。

 息ができない。


 ドン。


 流れてきた何かが頭を強打し、私は意識を手放した。



 目をあけると、柔らかな光が入ってきた。

 誰かが私の顔を覗き込んでいる。


「わかるか?」


 友の声だ。ゆっくりと声の方を向く。

 輪郭がはっきりしてきて、心配そうにのぞき込む顔が見えた。


「ここは?」


 かすれた声を出した瞬間、友の奇声が脳点に響いた。


「ったあー! 死んでなかったー!」


 大声でぐわんぐわんと揺れる頭を抑えつつ、起き上がる。

 どうやらここは避難所のようだ。


「状況は?」


 私が聞くと、彼は唇をかみしめ、絞り出すように一言言った。


「見た方が早い」


 そう言って立ち上がった友について外に出ると、目の前の光景に私は言葉を失った。


 領都全体が浸水していた。





 はっと目をあける。


 悪夢だ。それも前回と似たような感覚がする。

 身体の感覚を取り戻そうとゆっくり起き上がると、全身がびっしょりと汗で濡れていた。


 相変わらず外はまだ暗い。私の荒い吐息だけが響いていた。

 ふと気配に首を回すと、サリーも起き上がり、心配そうにこちらを見ていた。

 私はサリーに大丈夫と軽くうなずき、再び横になろうとした。


 そのとき、ザーっという激しい音が響いた。


 飛び起きると、目の前に濁流が押し寄せてきた。

 逃げる間もなく飲み込まれる。

 息ができない。

 ぱくぱくと口を動かし、浮き上がろうと腕を動かす。

 何か聞こえる。


「……!」


 サリーの声か。遠のく意識の中で内容のない音のみが耳に入る。


「それはリアの夢じゃない!」


 はっきりと聞こえた。

 そうだ、これは私の夢じゃない。私の感情ではないのだ。

 徐々に息を吸えるようになってきた私に、サリーの静かな言葉がしみわたってくる。


「大丈夫、深呼吸して。ここは寮の部屋。私はここにいるわ」


 薄暗い自室が視界に戻ってきた。安心すると、急に眠気が押し寄せてきて、私はそのまま眠りに落ちた。



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