3. 夢の外側で
入学式が終わり、私は爺やと一緒に歩いていた。
「ゔぅー、あのぼっぢゃまがりっばになっで」
隣の爺やは泣きすぎて鼻声になっている。
生まれたころから私の身の回りの世話をしてきた爺やにとっては、私の成長がとてつもなく早く思えるのだろう。
それは別にいいのだが、いい年をした大人が号泣しているもんだから、周りの視線を集めている。
「爺や、そろそろ泣き止んでくれ」
私が眉をしかめてそう言うと、爺やは鼻をすすって言う。
「ずずっー、爺やは坊ちゃまの晴れ舞台が嬉しくて」
「わかったから」
そう言いつつ学園を出た私が王宮ではなく街の方へ歩き出すと、さっきまで止めても泣き止まなかった爺やが急に泣き止んだ。
「坊ちゃま、歓迎パーティーの準備は坊ちゃまの『お部屋』に完璧にしておりますが」
爺やが赤い目を細めてこちらをじとっと見てくる。やけに部屋を強調しているのは、早く戻れという催促だ。
「大丈夫だ。少し商店街で買い物をするだけだ」
確か騎士団で注文した武器の手入れがそろそろ終わるはずだ。回収したら兵舎に持って行って、自分のは学園の寮においておくか。
「坊ちゃまそれ、絶対今じゃなくていいですよね」
爺やの言葉を華麗に無視して歩き続けるが、爺やは追いすがってくる。
「パーティー、サボるとは言わせませんよ」
「大丈夫だ。ちゃんと出席する」
爺やは胡散臭げに目を細める。
「いや、一度もサボったことないだろう」
私が言い訳のように続けると、爺やは首を振った。
「確かに、会場には毎回顔を出していらっしゃいますけど、政務や訓練を言い訳にすぐ帰るのはパーティーに参加したとは言わないのでは。だから存在感がない王子とか言われるんですよ」
「それでいいんだ」
「爺やはそれでよくないんですよ」
爺やはそう言うが、誰に何と言われようと態度を変えるつもりはない。
それに皆がいったん私に気づくと年頃の令嬢たちやその親がわらわらと寄ってくるので、パーティーの類は特に苦手だった。
「とにかく今夜のパーティーにはちゃんと参加して、婚約者を早く見つけるべきです」
兄上に説得しろと言われたのだろう。今日はやけにしつこい。
「わかっている」
私は投げやりに返事をして、はあとため息をつく。
そのとき、前方に学園の制服を着た少女が見えた。胸のバッジの色からすると、二年生か。
ん?バッジ?
「爺や、騎士団のバッジを忘れた。おそらく兵舎だ」
言うや否や踵を返す私に、爺やが慌ててついてくるのがわかる。
「もうそのままお部屋に戻りましょう、ね?」
「いやだ」
子供のように駄々をこねつつ足を速める。
ちょうどそのころにあの近くで爆発事故が起きたことを知ったのは、ずいぶん後になってからだった。




