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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語  作者: 天麻いち
第一部

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20. 幕間:優雅?なティータイムに


 ココン。ココン。


 特徴的なノックの音に俺は資料をめくる手を止める。

 立ち上がり扉を開きつつ俺は言った。


「今日は特にうまいものはないぞ」

「違うわよ!」

 

 勢いよく否定して入ってきたのはサルビアだ。

 俺はいつも通りに茶の準備をする。

 サルビアは椅子に優雅に腰を下ろす。が、己の手をせわしなくたたく人差し指を見て気づく――これは怒ってるな。

 俺は茶を差し出しながら、さりげなく話を聞きだそうと口を開いた。


「どうかしたか」


 すると、サルビアはよくぞ聞いてくれましたといった様子でぱっとこちらを振り向くと、声を荒げた。


「あの王子、絶対リアに惚れてるわ」


 あの王子、とはおそらくナイゲル殿下のことだろう。だが話が全く見えない。

 俺はなんとなくで答える。


「よかったじゃないか」

「よくないわよ!」


 俺は返事を間違ったらしい。


「えーっと、最初から教えてくれないか」


 私の言葉を聞くと、サルビアは不満をぶちまけるように意気揚々と話し始めた。



***



「ごめんサリー、行かなきゃ!」

「あっ、リア……」


 私が引き止める間もなく、リアは街の方へと駆け戻ってしまった。あの子は意外と足も速いから、私では追いつけないだろう。

 もどかしく思いつつ、その場で足踏みをして待つ。


 四半刻後。


「リア!」


 やっと戻ってきたリアに駆け寄る。


「サリー。戻っててよかったのに」


 リアが少し困ったような顔で笑う。


「もう行き先くらい言ってよ、ね……」


 私の声が途切れる。リアの後ろに二つの人影を認めたからだ。


「は?」

 

思わず低い声が漏れる。幸い相手には聞こえなかったようで、そのうちの一人が声をかけてきた。


「アルスト嬢に助けてもらったんだ。改めて、先日はすまなかった」


 私にそう言った殿下はリアに向き直ると、柔らかい表情で声をかけた。


「では、私たちはここで失礼するよ……よい夜を」

「あ、はい。殿下も」


 リアの少し戸惑った淡白な返事に殿下はふっと笑顔を見せ、ウィンクル侯爵令息を連れて去っていった。

 私は衝撃に固まる。あの目、あの表情。殿下が公務で一回も見せたことのない姿。

 もしかして。


「サリー。予知夢、回避できたよ! 殿下も私のこと信じてくれたの」


 嬉しそうに言うリアに微笑みつつ、私の内心は大荒れだった。

 あいつ、間違いなくリアに惚れてる……!

 あれだけリアを疑って、傷つけておいて。手のひら返しも甚だしい。

 リアにはふさわしくない。



***



「リアにはもっといい人がいるわ。私のリアに……!」


 だんだん怒りの方向がずれていっているような気もするが、その前に確認すべきことがあった。


「つまり、この前サルビアが言っていた新しい予知夢、ロメリアが気づいてナイゲル殿下方を助けることができたわけだな」

「ええそうよ」

「それで殿下方はロメリアの話を信じた?」


 サルビアはふんと鼻を鳴らして答えた。

 俺はふうと息をついて椅子にもたれる。

 ロメリアも殿下の反応に相当参っていたし、新しい予知夢も見たようで心配していたところだったから、解決して一安心だ。

――これが必要にならなくてよかった。

俺は表情をやわらげて、今調べていた資料をごみ箱に捨てた。


ちなみに、この後サルビアには話半分に聞いていたことがばれて、こってりと絞られた。


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