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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語  作者: 天麻いち
第一部

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21. チーム結成


「我、フィラデル・ヘルバフォリアの名のもとに、ここにヘルバフォリア王国を建国する!」


 わーっと観衆が湧いて、幕が下りる。

 下り切ったことを確認して、私はため息を吐いた。


「はあ、なんとか乗り切った……」


 疲れ果てた私は、舞台袖の椅子に座って、下りた幕の隙間から観客席のほうを覗く。

 観客が興奮冷めやらぬ様子で口々に話しているのを見て安心しつつ、私は声を漏らす。


「私がなぜこんな大役を……」

「初代国王役は王族の方々に演じていただくのが慣習ですからねー」


 台本を持った眼鏡の学生がこちらに近づいてきて言う。


「いやー。とてもよかったですよ!練習の成果が出ていました!」


 ぱちぱちと拍手され、私は振り返って笑みをこぼした。


「お役に立ててよかったよ」


 そのとき。

 観客席から悲鳴が聞こえた。


 慌てて幕から席の方を覗くと、ふらふらと歩く男が見えた。

 その手にはきらりと光るものが握りしめられている。

 とっさに近くにあった舞台用の模擬剣をつかんで飛び出す。


 男は私を目にとめると、いきなり襲い掛かってきた。


 刀を振り上げ突進してきた男を最小限の動きでかわし、刀を持つ手を打つ。刀を取り落とした男にすかさず肉薄し、剣の柄でみぞおちを鋭く打った。

 男はかはっと息を吐きだすと、その場に力なく倒れる。


 そのとき、今までにないわーっという大歓声に驚いて周囲を見回す。

 帰りかけていた観客たちが、予想外の私の大立ち回りに喝采をあげていたのだ。

 心の中で舌打ちをしつつ、袖にいる学生に指示を出す。


「教員と警備に連絡!あと何か縛るものを持ってきて、その他の者は、観客の避難誘導を!」


 袖でおろおろとしていた学生たちは、私の言葉にはっと我に返り、慌てて散っていった。


 敵の力量が低かったことへの油断か、はたまた周囲の喧騒のせいか。

 私は気づくのが遅れた。

 悲鳴が響く。

 後ろで倒れていたはずの男が、ふらふらと観客に近づいていた。

 一人の観客が腰を抜かす。

 男は刀を振り上げる。


「待て!」


 止める間もなく、血飛沫が舞った。



 *



「へえ、今回の夢は文化祭のことだったのね」


 私たちは空き教室に話しながら向かっていた。

 サリーの言葉にエドガーも頷く。


「それも観客席に現れるとまでわかっていれば、対策も取りやすそうだ」


 そう話しながら空き教室に着く。



 扉を開けると、そこには先客がいた。


「やはり来たか」

「ナイゲル殿下」


 私たちは驚いて一瞬立ち止まったが、サリーがすぐに一歩前に出て口を開いた。


「おはようございます、殿下。こちらの部屋をご使用中のようなので、私どもはここで失礼します」


 サリーが慇懃に言い踵を返そうとすると、待て待てと殿下が止めてきた。


「予知夢を見たんだろう?だから来た」


 その言葉に驚く。


「どうしてそれを……」


 言葉が漏れた私に向かって、殿下は種明かしをする。


「この前聞いたアルスト嬢が予知夢を見た日。あの日に私が悪夢に起きた日がぴたりと重なったのだ。内容は起きたら忘れてしまっていたけどね」


 それに、と殿下は懐を探り何かを取り出して見せた。


「あと実はウィンクル領で君たちと会った後、堤防のそばでこれを見つけてね」


 私たちは覗き込む。それは、火薬のようだった。


「ここまで揃っておいて、疑ったんですね」

「本当にすまなかった。君たちのことも傷つけたと思う。でも次の予知夢、聞かせてくれないか。協力できることがあるかもしれない」


 辛辣なサリーの言葉を誠実に受け止めた殿下に、サリーは少し面食らった顔をした。

 しかし殿下の言葉の続きを聞いて、二人は私を見る。私に任せるという目だ。

 私は二人の視線を受け頷くと、席についてもう一回予知夢の説明を始めた。




「確かに、舞台の役者を頼まれている」


 ナイゲルは冷静に言ったが、その表情は少し曇っていた。


「そして、アルスト嬢が見た眼鏡の学生は舞台監督の彼だろう。一度台本の読み合わせのときに会った」

「それにしても、テロの狙いは殿下のようですが。何か心当たりは?」


 エドガーが殿下に問うと、殿下は首を振る。


「全くないな。私は目立たずに生きてきたつもりだから、恨まれるようなこともしていないよ」


 その言葉は世間一般の殿下像の通りであったため、納得がいった。

 本人はいたって真剣に言っているので、「存在感のない王子」という評判は、もしかしたら殿下の狙いなのかもしれない。



 そんなことを考えながら話をしていると、がらがらと扉が開く音が聞こえ、ぴょんっと青年が入ってきた。


「遅れましたー!」


 元気よく声をあげて座ったのは、ヴィン・ウィンクル侯爵令息だ。


「殿下、なぜこちらの方がいらっしゃるかお伺いしても?」

「ぴょげっ」


 軽蔑の眼差しを隠そうともせず言ったサリーに、ウィンクル様は奇声を上げて殿下を盾にする。


「私が呼んだんだ。彼はアルスト嬢の力のことも予知夢のことも聞いてしまっているからね。こんなふざけた様子でも、武術の才能は抜きんでている」


 殿下は後ろに隠れたウィンクル様を引っこ抜くように前に出すと続けた。


「もし邪魔なようだったら帰らせるが、どうかな?」


 私たちは顔を見合わせる。


「構いません」


 私が代表して返事をした。

 その間もウィンクル様はサリーをチラチラ見ながら震えていたが、私の返事を聞くと、ふうっと安堵の息を吐いた。


「あざっす、先輩!ちゃんと役に立ちます!ヴィンって呼んでください!」


 最後の言葉はなぜか私の方を向いて言われたので、首を傾げつつ頷く。

 満面の笑みのヴィンはサリーに睨まれてひいっと顔が引きつっていた。



 殿下は、ヴィンに予知夢の内容を簡潔に伝える。


「今回の予知夢は、文化祭の舞台で刃物を持った男が暴れる予知夢だ」


 ヴィンはあまりの簡潔さに一瞬固まっていたが、動き出して疑問を投げる。


「でも並の敵なら殿下が倒せるでしょ?」

「それが、一度倒した後に、私が指示を出している途中で起きて観客を負傷させたらしいのだ」

「じゃあ殿下が油断しなきゃいい話じゃないっすか、念のために俺もついていけばいいでしょ?」


 まあ、それが一番の解決策だろう。文化祭まであと二週間という今になって中止というわけにもいかないだろうし。


「まあ、今のところそれしかないだろうな」


 夢から犯人を割り出すことも難しそうだったので、皆が賛同して、結局当日に皆で舞台に張り付くことになった。



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