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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語  作者: 天麻いち
第一部

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18. 運命の分かれ道


 殿下に予知夢のことを告白してから一週間がたった。


 殿下とはあれから一回も話していない。

 そもそも学年が違うのだから、会おうとしないとなかなか会うことはない。

 ――いや、私が殿下を避けてしまっているのもあるが。


「あ……」

 

 移動教室で殿下を見かける。

 いつものように少人数で移動している。周囲の生徒は気にも留めていない。

 

 そのとき、殿下がふとこちらを振り返った。

 反射で顔をそむける。

 何やってるんだろう、私は。昔も今も、臆病なままで。

 ゆっくりと顔を戻すと、すでに殿下はいなくなっていた。





 今日は星のない夜だ。

 空の暗さとは一転、顔を下げると、繁華街の灯りが目に刺さった。ぴるるーという笛の音や、夜通し飲んでいる男たちの笑い声などが響いている。

 痛む頭を抑えながら歩いていると、隣のヴィンが声をかけてきた。


「殿下、殿下はこの後何する? 僕がおすすめの女の子スポット教えてあげようか?」

「ふざけたこと言うな、勤務中だぞ」


 呆れて返すと、ヴィンはへらへらと笑いながら続ける。


「もう交代の時間だし、硬いこと言わずにさー」

「私は戻るぞ、疲れた」


 その返事にヴィンは不満そうに顔をしかめると、ちぇっ、つまんないのと言いながら踵を返した。

 私も戻ろうと一歩踏み出す。

 

 ふと、一人の男が目に入った。

 いや、男と断定はできないが、黒いコートにフードを被っていて、体格ががっしりしている。何かを気にしているような不審な動きだ。


「ヴィン」


 私は小声で友を呼び、目で合図する。

 ヴィンは頷くと、静かにその男に近づいて行った。


「そこのお前。何をしている」


 ヴィンが声をかけると、その男はびくっと肩を震わせ固まった。

 かと思えば、一瞬の後、踵を返し一目散に逃げていく。


「待て!」

 

 路地裏に逃げ込んだ男を二人で追いかける。

 速い。このままでは追いつかない……!

 私が焦ったそのとき、男が転んだ。

 フードが脱げる。

 夜闇に覆い隠されて顔までは見えなかったが、確実に男だった。

 男は慌ててフードを被るが、まだ立ち上がれていない。

 今がチャンスだ。

 私たちは一気に距離を詰めた。

 背を向けた男に手を伸ばしたそのとき。

 

 ひゅう。

 

 軽い音がした。

 直後、ドサッと背後で何かが崩れた音がする。

 まさか。

 振り返ると、ヴィンが背を射抜かれて倒れていた。


「ヴィン!」


 駆け寄ると、ヴィンは何か言っている。


「……でん、か。にげて……」


 その声を聞き終える前に、右肩に鋭い痛みが走る。

 どこから来た。全く気配をつかめなかった。

 薄れゆく意識を前に振り返るが、見えたのは男の走り去る影だけだった。


 



「また、夢を見たのね」


 朝起きて寝不足な私を見て、サリーは声をかけてきた。


「うん」

「聞かせて」


 私は頷くと、今朝の夢の内容を話した。

 全て聞いたサリーは、考えつつ口を開く。


「それで、どうする?」


 サリーの問いかけに、私は右肩をさすりつつ答える。


「……私にはどうにもできないよ。いつ起こるかもわからないし、このことを言ってもきっと信じない」


 私の発したその言葉は、他人のもののように冷たく響く。


「……そうね」


 サリーは一瞬言葉に詰まったが、すぐにそう言った。

 私の言葉を聞いてもなお私を気遣うサリーの視線が心に刺さり、ひどく痛かった。

 

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