18. 運命の分かれ道
殿下に予知夢のことを告白してから一週間がたった。
殿下とはあれから一回も話していない。
そもそも学年が違うのだから、会おうとしないとなかなか会うことはない。
――いや、私が殿下を避けてしまっているのもあるが。
「あ……」
移動教室で殿下を見かける。
いつものように少人数で移動している。周囲の生徒は気にも留めていない。
そのとき、殿下がふとこちらを振り返った。
反射で顔をそむける。
何やってるんだろう、私は。昔も今も、臆病なままで。
ゆっくりと顔を戻すと、すでに殿下はいなくなっていた。
*
今日は星のない夜だ。
空の暗さとは一転、顔を下げると、繁華街の灯りが目に刺さった。ぴるるーという笛の音や、夜通し飲んでいる男たちの笑い声などが響いている。
痛む頭を抑えながら歩いていると、隣のヴィンが声をかけてきた。
「殿下、殿下はこの後何する? 僕がおすすめの女の子スポット教えてあげようか?」
「ふざけたこと言うな、勤務中だぞ」
呆れて返すと、ヴィンはへらへらと笑いながら続ける。
「もう交代の時間だし、硬いこと言わずにさー」
「私は戻るぞ、疲れた」
その返事にヴィンは不満そうに顔をしかめると、ちぇっ、つまんないのと言いながら踵を返した。
私も戻ろうと一歩踏み出す。
ふと、一人の男が目に入った。
いや、男と断定はできないが、黒いコートにフードを被っていて、体格ががっしりしている。何かを気にしているような不審な動きだ。
「ヴィン」
私は小声で友を呼び、目で合図する。
ヴィンは頷くと、静かにその男に近づいて行った。
「そこのお前。何をしている」
ヴィンが声をかけると、その男はびくっと肩を震わせ固まった。
かと思えば、一瞬の後、踵を返し一目散に逃げていく。
「待て!」
路地裏に逃げ込んだ男を二人で追いかける。
速い。このままでは追いつかない……!
私が焦ったそのとき、男が転んだ。
フードが脱げる。
夜闇に覆い隠されて顔までは見えなかったが、確実に男だった。
男は慌ててフードを被るが、まだ立ち上がれていない。
今がチャンスだ。
私たちは一気に距離を詰めた。
背を向けた男に手を伸ばしたそのとき。
ひゅう。
軽い音がした。
直後、ドサッと背後で何かが崩れた音がする。
まさか。
振り返ると、ヴィンが背を射抜かれて倒れていた。
「ヴィン!」
駆け寄ると、ヴィンは何か言っている。
「……でん、か。にげて……」
その声を聞き終える前に、右肩に鋭い痛みが走る。
どこから来た。全く気配をつかめなかった。
薄れゆく意識を前に振り返るが、見えたのは男の走り去る影だけだった。
*
「また、夢を見たのね」
朝起きて寝不足な私を見て、サリーは声をかけてきた。
「うん」
「聞かせて」
私は頷くと、今朝の夢の内容を話した。
全て聞いたサリーは、考えつつ口を開く。
「それで、どうする?」
サリーの問いかけに、私は右肩をさすりつつ答える。
「……私にはどうにもできないよ。いつ起こるかもわからないし、このことを言ってもきっと信じない」
私の発したその言葉は、他人のもののように冷たく響く。
「……そうね」
サリーは一瞬言葉に詰まったが、すぐにそう言った。
私の言葉を聞いてもなお私を気遣うサリーの視線が心に刺さり、ひどく痛かった。




