16. 道が交わる
いつもの空き教室にて。
「「ええええええ⁉」」
響き渡った声が二つ。
サリーとエドガーだ。
エドガーがこんなに大きな声を出しているのは初めて見た。
「だ、第二王子殿下が予知夢の持ち主?」
二人とも驚きすぎで口をぽかんと開けたままだ。
ウィンクル領での私もこんな顔だったのかな。
二人が現実に戻ってくるまで観察しながら待っていると、先にはっと我に返ったエドガーが真剣な顔になって考え始めた。
「だがしかし、あの行動は……」
そこまで漏らして、ぱっと私を見ると、慌てて私に声をかける。
「いや、君の言うことを疑っているわけではなくて」
「はい、わかっています。私も気になりました」
それは。
「第二王子殿下が予知夢の持ち主なら、氾濫のことは知っていたはずだ。しかし、殿下のあの行動はたまたま現場に遭遇した、という感じだった」
そうなのだ。それが引っかかっていた。
「そうね、殿下の力があれば、何かしら対策を立てたりできたはずだわ。隣にいたウィンクル侯爵令息にも相談するでしょうし。でも殿下の行動はまるで、何も知らなかったみたい」
やっと戻ってきたサリーの言葉に私はぴんとくる。
何も知らなかったというより。
「何も覚えていなかった?」
私の独り言を聞いた二人は驚いた顔になる。
「どういうこと?」
「いや、あるんでしょう? 夢を見ていたけれど、朝起きたら忘れてしまうこと。前に、母上の悪夢を見たときも、母上はあまり覚えてなくて、私が話したら思い出したことがあったよ」
私は見た悪夢をすべて覚えている、というか忘れられないのだが、普通は夢は曖昧なものだ。起きたときに忘れてしまっていてもおかしくない。
私の考えを聞いた二人は思案顔になる。
少ししてエドガーが口を開く。
「ということは、殿下はあの場で氾濫がおきる予定だったということも何もかも覚えていなかったと」
「でも、私たちが氾濫を止めた今、その予知夢の証拠は何もなくなってしまったわね」
サリーが言葉を続ける。
「残ったのは、なぜかウィンクル領で泥だらけだった私たち」
「それは、怪しく見えるよね……」
殿下の言動の謎が解けたと同時に、新たな問題の発生に三人でため息をつく。
「せめて、殿下が少しでもいいから予知夢の内容を覚えていればなあ」
私がそう呟いたとき、突然、ばんっと激しい音がして、空き教室の扉が勢いよく開いた。
***
「調べたよー。はい、報告書」
ヴィンに渡された報告書を見つつ私は複雑な気持ちになる。
こいつは武芸に関しても天性の勘を持っているが、こういう書類仕事もそつなくこなしてしまうのだ。こんなふざけた性格で。
妬みを発散するように書類に目を落とす。
ロメリア・アルスト伯爵令嬢。学園二年。先輩だったのか。それにしては小柄で、子供みたいな顔だった。
幼いころから病弱で、屋敷の外にはあまり出ていなかったという。隣領のセージ伯爵家長女、サルビア・セージとは特に親しいと。
「それにしては、学園で病欠はほとんどないんだよねー」
ヴィンが報告書を覗き込みながら口をはさむ。
「勝手に見るな」
注意しつつ報告書に目を戻すと、最近の欠席が目に入った。
爆発事故の翌日。
騎士団として私も調査を続けているが、進展は特にないままだ。
この令嬢には、何かある。そんな予感がした。
「こっちはウィンクル領で見つけた火薬。やっぱり、爆発事故のやつだったってー」
ヴィンがもう一つ書類を出してくる。確かめつつ、ヴィンに声をかける。
「どうしてあの場所に落ちていたか分かったか?」
「うーん。犯人捕まえられたらよかったんだけど。でも、あの量の火薬なら堤防ごと吹っ飛ばせたと思う」
「では、爆発事故ともに組織的な犯行の可能性があるわけか」
努めて冷静に言ったが、心臓はうるさく響いていた。
それを知ってか知らずか、ヴィンは声を上げた。
「アルスト嬢、最近は空き教室にサルビア嬢とその婚約者のクライス子爵令息とよく集まってるみたいだよ?行ってみる?」
私は少し考えたあと頷いた。
「そうだな。ウィンクル領でのことを詳しく聞きたい。あのときは躱されてしまったからな」
「あんまりキーって敵意むき出しにしちゃだめだよ」
「お前は私をなんだと思っているんだ。そんな感情的ではないぞ」
そう言いつつ空き教室に向かう。
空き教室の前に着いて、ノックをしようと手を挙げたそのとき。
「……あの場で氾濫がおきる予定だったということを何も知らなかったと」
声が聞こえてきた。
その内容に、いけないと思いながら聞き耳を立ててしまう。
「でも、私たちが氾濫を止めた今、その予知夢の証拠は何もなくなってしまったわね」
「残ったのは、なぜかウィンクル領で泥だらけだった私たち」
「それは、怪しく見えるよね……」
氾濫? 予知夢?
情報量の多さに混乱していると、その次の台詞が耳に飛び込んできた。
「せめて、殿下が少しでもいいから予知夢の内容を覚えていればなあ」
考えるより先に、ばんっと扉を開いていた。




