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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語  作者: 天麻いち
第一部

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13. すれ違いの果てに


 私は、課題のためにヴィンの領地へと足を運んでいた。


「だりぃー。なんでここまで」


 文句たらたらな友に私は答える。


「課題だからね。来たほうがよくわかるだろう」

「俺よく知ってるし。自分の故郷だぞ?」

「残念ながら私はよく知らないんだ。それに、学園から近いほうだしいいじゃないか」


 友はへいへい分かりましたよと適当な返事をする。

 その割に、率先して案内をするところを見ると、やはり故郷が好きなのだろう。

 私は表情を崩すと、すたすたと歩いて行く友を追いかけた。


「おい、置いていくな」


 そう言って追いかけると、ヴィンはけたけたと笑いながら足を速めた。

 その子供みたいな仕草に思わず笑顔になって走り始める。

 しばらく他愛ない追いかけっこをしていたが、


「しっ」


 友は急に立ち止まり、私を鋭く制止した。

 その目は何かを探るように一点に固定されている。


「何か聞こえる」



 ヴィンの勘を頼りに森を素早く駆け抜けると、開けた場所へ出た。

 そこまで来ると、ヴィンの勘の正体が見えた。


 堤防に二つの人影。

 フードを被った大柄な男と、パンツ姿の小柄な少女がにらみ合っている。

 その異様な様子に、考える前に声が出た。


「そこで何をしている!」


 はっと振り返った少女が目を丸くする。

 駆け寄る私たちを見てフードの男は一瞬立ち止まったが、慌てて逃げていった。

 少女はこちらを凝視したままだ。

 近くで見ると、ひどく泥だらけでいくつか切り傷も見えた。


「大丈夫か」


 声をかけるも、少女には届いていないようだった。


「あれ、この子、昨日うちの教室に来てたよ?」

「知り合いなのか」

 

 ヴィンの言葉に驚いたが、彼は首を振った。


「ううん。なんか扉の前でお友達とそわそわしてるから、声かけたんだけど逃げちゃった」


 てへっと笑うヴィンを無視しつつ考える。

 この少女はなぜこんなところに一人で。何をしていたのか。昨日教室に来ていたことも偶然とは考えにくい。あっちの男も怪しかったな。どんな関係なんだ?

 頭の中で大きくなっていく疑念に勝手に口が開いた。 


「君……」


 そのとき、遠くから誰かが駆けてくる音がした。

 薄い金髪で眼鏡をかけた背の高い青年。

 あれは確か。


「エドガー・クライス子爵令息か」


 彼はこちらまで駆けてくると、少女をかばうように前に立つ。


「これは第二王子殿下。おはようございます。今日は私の婚約者と彼女と遠足に来ておりまして。彼女とはぐれてしまったので探していたところでした。保護していただき、ありがとうございます。では我々はこれで」


 早口の言い訳にあっけにとられている間に、彼は有無を言わさず少女を連れて行ってしまった。

 少女はその間も心ここにあらずといった様子だった。



「めちゃめちゃ警戒されちゃったじゃん」


 軽い口調の友は私の顔を覗き込んで続けた。


「でも、殿下が先に疑うのが悪いんだよ?」


 私はむっとして言い返す。


「ではあんなところで令嬢が一人で何をしていたというのだ。クライス子爵令息の言い訳も無理があるだろう。雨の日に遠足って」

「それでもだよ。あの子が何かできるようには見えないし、やましいことしてたら声かけた時点で逃げるでしょ」


 その言葉に少し決まりが悪くなる。考えが先走りすぎたか。

 私は咳払いしてヴィンを見る。


「とにかく。あの令嬢のことは調べておいてくれるか」

「うん」


 領都へ戻ろうと踵を返すと視界の端に何かが見えた。

 近づいてみると、堤防のそばに黒い物体が落ちている。


「何だこれは」


 ヴィンも気づき、そっと拾い上げる。

 ――それは、未使用の火薬だった。

 私たちは顔を見合わせると、素早くすべて回収して領都へ急いだ。



***



「おい、ロメリア。大丈夫か」


 はっと我に返ると、エドガーが私の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫です」


 即座に返して、思い出す。


「あっ、殿下方が……」

「とりあえず適当に理由つけて退散してきたぞ。なんか疑ってるようだったしな」

「何よそれ!」


 その言葉に割り込んできたのは、遠くから走ってきたサリーだ。

 ぜーぜーと息を切らしつつ、リアを疑うってどういうこと⁉ と怒っているサリーに苦笑しつつ、いきさつを話す。

 サリーは不満げな様子だったが、しぶしぶ納得していた。


「それで、氾濫は阻止できたのよね?」

「ああ、おそらく。堤防に細工などもなかったしな」


 いつの間にか雨が上がっている。

 ふうっと肩の力が抜けた。

 防いだのだ。氾濫がこの土地を襲う未来を。


「じゃあお祝いね!」


 サリーはそういうと、私とエドガーの肩に両腕をかけて、ずんずんと領都のほうへ歩き始めた。

 昼のここはおいしかったなー、でも名物のあれも食べたい!とご飯の話を続けるサリーに微笑みつつ、私は振り返る。

 ――今日くらいは、いいよね。

 私は親友の呼ぶ声に応え、変わらない街の灯りへと歩いて行った。


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