12. 予知夢の持ち主
一週間後。
一年生の課題の日。氾濫の予知夢の日がやって来た。
課題のグループは当日に決めるようで、ウィンクル様のペアが誰かまでは結局把握できなかった。
予知夢の持ち主はわからないままだが、今は目の前のことに集中しなければ。
ウィンクル領に着いた私たちは、頭を突き合わせて小声で最後の確認をした。
「俺たちは、特に被害が大きくなりそうな三か所に分かれる。サルビアは南側、ロメリアは東側、俺は北側だ」
「うん、そしてしばらく犯人の気配がなかったら、私たちはロメリアの方に向かって川沿いに調べていく、だったわよね」
「うん、大丈夫。私たちならできる」
私たち3人は顔を見合わせて一つ頷き、それぞれ駆け出して行った。
「はあ、はあ」
私は必死に走っていた。持ち場までが意外に遠い。日ごろから運動をしておくべきだった。
小雨で足元がぬかるんでおり、泥が跳ねる。
汗が滴る中、必死で森を駆けていくと、一気に視界が開けた。
膝に手を当て、息を整える。
そのとき、視界の隅に見えた。
堤防に立つ黒い人影。フードで顔は見えないが、体格からして男のようだ。
私がはっと頭を上げるのと、その人影がこちらを振り返るのは、ほぼ同時だった。
バッチリと目が合う。
私は思わず立ちすくんだ。
動きたいのに、止めたいのに、思いだけが先走って体がついてこない。
男も立ち尽くしている。左足をトントンと震わせたまま動いていない。
私は歯を食いしばって、平静を装いつつ一歩ずつ引きずるようにして足を動かした。
男はまだ動かない。
男との距離が近づいていく。
そのとき。
「そこで何をしている!」
澄んだ声が響いた。
はっと振り返ると、見覚えのある青年たちがこちらへ駆けてくる。
一人は特徴的な猫っ毛。ヴィン・ウィンクル侯爵令息だ。
そして、もう一人。彼とともに駆けてきたのは、黒髪に深い緑の瞳。
第二王子ナイゲル・ヘルバフォリア殿下その人だった。
思わず固まる。
その間に、ウィンクル様が男に向かって駆けていく。
男は一瞬びくっと固まったが、すぐに踵を返して逃げていった。
しかし、そのときの私には、それを見送る余裕がなかった。
殿下の瞳が私を射抜く。
私は縫い付けられたように動けなくなった。
二人が一緒にいるということは。
「第二王子殿下が予知夢の持ち主……?」
小さく声に出すと、すとんと腑に落ちた。
その感覚が、紛れもなく正解だと物語っていた。




