11. 強さの理由
「ここがウィンクル領ね! とてもいいところじゃない!」
私たちはウィンクル領都に来ていた。サリーははしゃいでいて、すでに出店で買った串焼きを持っている。
「来たことなかったけど、こんなに近いのね!」
「はしゃいでいる場合じゃないぞ」
遅れてきたエドガーが苦言を呈すがサリーはどこ吹く風という感じで串焼きにかぶりついた。
「にゃに、氾濫は今日じゃないんだし、ずっと気を張ってたら体がもたないわよ……もぐもぐ。とりあえずお昼を食べてから、ぱくっ、川のほうを見に行きましょう。ごっくん」
食べながら話すので様にはならないが、言っていることは的を射ている。私を連れて意気揚々と次の店に行くサリーに、エドガーはあきらめたようについてきた。
満足のいくまでお昼を食べ終わると、ようやく川の調査に入った。
「この川は領都の半分をぐるりと囲むように流れている。だから、とりあえず二手に分かれて、川と領都の接点の両端から真ん中に向かって調査しよう」
エドガーの言葉で、私とサリーの組とエドガーの二手に分かれ、川沿いを歩いてみたが。
「どこも堤防が決壊しそうにはなかったな」
ちょうど真ん中あたりで落ち合ったエドガーの第一声。
「堤防の強度もうちの領のより高いし、川幅も十分広い。今までの梅雨の期間でほとんど損傷がないのに、これから数日で決壊するとは思えないわ」
エドガーは私を振り返って聞く。
「夢でどの辺りから来たか分かるか?」
「川に来るまでの道は見覚えがあったから、同じ道を通ってたと思う」
そう言いながら来た道を戻っていく。サリーとエドガーがついてくるのを感じながら、目を閉じて思い出す。
「たぶん……この辺り」
立ち止まった私に、エドガーが続けて聞いてきた。
「濁流が来た方角は分かるか?」
私は再び目を閉じて思い出す。
目をあけた私は、一点を指さした。
「こっち」
それは、ちょうど私たちが合流した、川の真ん中あたりだった。
そのとき、強い風が吹いた。
ザーッと大きな音を立てて木々が揺れる。
ひゅっとのどが鳴った。
「リア!」
力強い声に現実に引き戻される。
気づくとサリーが私の腕をつかんでいた。
「大丈夫、ありがとう」
「すまない。無理させたか」
謝るエドガーにサリーは非難の目を向けたが、私は慌てて言った。
「謝らないでください。私が自分でしたことだから」
また夢に引っ張られるところだった。私はぺちっと一回頬をたたくと、エドガーに向き直って聞いた。
「何か分かりましたか?」
エドガーは手帳に書き込みながらゆっくり答える。
「この方角だと、上流に堰を作っているとかいうこともなさそうだ」
となると。
エドガーが深刻な顔になって言う。
「考えられる最も高い可能性は、誰かが故意に堤防を決壊させたこと」
一瞬で辺りが静まり返る。
先に口を開いたのは、サリーだった。
「でもそれは賭けよ。自分が巻き込まれる可能性だってあるし、そんな工作してたらすぐに見つかるわ」
エドガーは手帳とにらみ合いながら口を開く。
「最近あっただろう、不自然な爆発が」
思い当たった私たちは絶句する。
あの王都での爆発事故。最新兵器の火薬。
ぱちりとパズルがはまった音がした。
「一瞬で堤防を爆発できる……」
その最悪の可能性に、空気が重くなる。
「……誰かに言うべきじゃない?」
しばらくして口を開いたサリーは私の様子を見ながら言葉を紡いだ。しかし、エドガーはそれを否定する。
「爆発事故と違法火薬の行方は、まだ捜査を続けているが、進展はないそうだ」
エドガーはそこで一旦呼吸をおいて、続ける。
「そして氾濫と、それが故意に起こる可能性。これらは可能性でしかなく、根拠もロメリアの夢しかない。これでは、多くの人が影響を受ける避難や捜査には、確実に踏み切れない。たかが子供の戯れだと思われるだけだ」
沈黙が戻る。
私は拳をぎゅっと握りしめ、口を開く。
「私は、氾濫が起こる未来を変えたい。もし、氾濫が自然災害だった場合、私たちにはどうしようもない。でも、犯人がいるなら、止められるかもしれない。私は、その可能性に賭けたい」
そこまで言って息継ぎをした私は、二人の反応を見る。
二人は黙ったまま、何かを考えこんでいるようだった。
私はへらっと笑って言葉を重ねる。
「それに、ただの夢かもしれないしね」
その苦し紛れの言葉は、ぼとりと地面に落ちたように見えた。
無茶を言っているのはわかっている。
でも、夢で見た凄惨な景色。ウィンクル侯爵令息の表情。感じた絶望。
すべてが自分の中に残っている。それが私のものでなくても。
「リア」
サリーの声に顔を上げる。
二人は真剣な顔で私を見ていた。
「私たちももちろん、できることは全てやるわ」
「俺たちで止めるぞ」
力強いその言葉に私はふふっと笑顔を漏らす。
二人の存在が、いつだって私を強くしてくれる。
何で笑うのよもう! とふてくされてるサリーを見て、また笑いがこみあげてくる。
私の隣に二人がいてくれてよかった。
そう思いながら、私たちは帰りつつ作戦を練ったのだった。




