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運命の令嬢は忘れられた予知夢を映す―ヘルバフォリア王国物語  作者: 天麻いち
第一部

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12/22

11. 強さの理由


「ここがウィンクル領ね! とてもいいところじゃない!」


 私たちはウィンクル領都に来ていた。サリーははしゃいでいて、すでに出店で買った串焼きを持っている。


「来たことなかったけど、こんなに近いのね!」

「はしゃいでいる場合じゃないぞ」


 遅れてきたエドガーが苦言を呈すがサリーはどこ吹く風という感じで串焼きにかぶりついた。


「にゃに、氾濫は今日じゃないんだし、ずっと気を張ってたら体がもたないわよ……もぐもぐ。とりあえずお昼を食べてから、ぱくっ、川のほうを見に行きましょう。ごっくん」


 食べながら話すので様にはならないが、言っていることは的を射ている。私を連れて意気揚々と次の店に行くサリーに、エドガーはあきらめたようについてきた。



 満足のいくまでお昼を食べ終わると、ようやく川の調査に入った。


「この川は領都の半分をぐるりと囲むように流れている。だから、とりあえず二手に分かれて、川と領都の接点の両端から真ん中に向かって調査しよう」


 エドガーの言葉で、私とサリーの組とエドガーの二手に分かれ、川沿いを歩いてみたが。



「どこも堤防が決壊しそうにはなかったな」


 ちょうど真ん中あたりで落ち合ったエドガーの第一声。


「堤防の強度もうちの領のより高いし、川幅も十分広い。今までの梅雨の期間でほとんど損傷がないのに、これから数日で決壊するとは思えないわ」


 エドガーは私を振り返って聞く。


「夢でどの辺りから来たか分かるか?」

「川に来るまでの道は見覚えがあったから、同じ道を通ってたと思う」

 

 そう言いながら来た道を戻っていく。サリーとエドガーがついてくるのを感じながら、目を閉じて思い出す。


「たぶん……この辺り」


 立ち止まった私に、エドガーが続けて聞いてきた。


「濁流が来た方角は分かるか?」


 私は再び目を閉じて思い出す。

 目をあけた私は、一点を指さした。


「こっち」

 

 それは、ちょうど私たちが合流した、川の真ん中あたりだった。

 

 そのとき、強い風が吹いた。

 ザーッと大きな音を立てて木々が揺れる。

 ひゅっとのどが鳴った。


「リア!」


 力強い声に現実に引き戻される。

 気づくとサリーが私の腕をつかんでいた。


「大丈夫、ありがとう」

「すまない。無理させたか」

 

 謝るエドガーにサリーは非難の目を向けたが、私は慌てて言った。


「謝らないでください。私が自分でしたことだから」

 

 また夢に引っ張られるところだった。私はぺちっと一回頬をたたくと、エドガーに向き直って聞いた。


「何か分かりましたか?」

 

 エドガーは手帳に書き込みながらゆっくり答える。


「この方角だと、上流に堰を作っているとかいうこともなさそうだ」


 となると。

 エドガーが深刻な顔になって言う。


「考えられる最も高い可能性は、誰かが故意に堤防を決壊させたこと」


 一瞬で辺りが静まり返る。

 先に口を開いたのは、サリーだった。


「でもそれは賭けよ。自分が巻き込まれる可能性だってあるし、そんな工作してたらすぐに見つかるわ」


 エドガーは手帳とにらみ合いながら口を開く。


「最近あっただろう、不自然な爆発が」


 思い当たった私たちは絶句する。

 あの王都での爆発事故。最新兵器の火薬。

 ぱちりとパズルがはまった音がした。


「一瞬で堤防を爆発できる……」


 その最悪の可能性に、空気が重くなる。


「……誰かに言うべきじゃない?」


 しばらくして口を開いたサリーは私の様子を見ながら言葉を紡いだ。しかし、エドガーはそれを否定する。


「爆発事故と違法火薬の行方は、まだ捜査を続けているが、進展はないそうだ」


 エドガーはそこで一旦呼吸をおいて、続ける。


「そして氾濫と、それが故意に起こる可能性。これらは可能性でしかなく、根拠もロメリアの夢しかない。これでは、多くの人が影響を受ける避難や捜査には、確実に踏み切れない。たかが子供の戯れだと思われるだけだ」


 沈黙が戻る。

 私は拳をぎゅっと握りしめ、口を開く。


「私は、氾濫が起こる未来を変えたい。もし、氾濫が自然災害だった場合、私たちにはどうしようもない。でも、犯人がいるなら、止められるかもしれない。私は、その可能性に賭けたい」


 そこまで言って息継ぎをした私は、二人の反応を見る。

 二人は黙ったまま、何かを考えこんでいるようだった。

 私はへらっと笑って言葉を重ねる。


「それに、ただの夢かもしれないしね」


 その苦し紛れの言葉は、ぼとりと地面に落ちたように見えた。

 無茶を言っているのはわかっている。

 でも、夢で見た凄惨な景色。ウィンクル侯爵令息の表情。感じた絶望。

 すべてが自分の中に残っている。それが私のものでなくても。


「リア」


 サリーの声に顔を上げる。

 二人は真剣な顔で私を見ていた。


「私たちももちろん、できることは全てやるわ」

「俺たちで止めるぞ」


 力強いその言葉に私はふふっと笑顔を漏らす。

 二人の存在が、いつだって私を強くしてくれる。

 何で笑うのよもう! とふてくされてるサリーを見て、また笑いがこみあげてくる。

 私の隣に二人がいてくれてよかった。


 そう思いながら、私たちは帰りつつ作戦を練ったのだった。


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