10. 夢の中のあの人
私たちは今、一年生の教室の扉の前に来ている。
扉の目の前まで来たサリーは、急に振り返ると情けない顔を見せた。
「うぅー。リアが先に行ってー」
「やっぱり」
サリーは言動に反して人見知りなのだ。
とはいえ私も、見知らぬ学生にいきなり突撃できるほどの胆力は持ち合わせていない。
扉の前で押し問答をしていると、後ろから影が落ちた。
「あれー? 見たことない子たちだ!転校生?」
そのひどく軽い声に私たちは振り返る。
そこにいたのは、鳶色の瞳に猫っ毛の青年。
「あっ、そのバッチは先輩だったかー!」
その声で思い出した。
「あっ、夢の……」
そこまで漏れてはっと口をつぐむ。
彼は確かに、氾濫の夢で出てきた青年だった。
「なに? 夢に出てくる王子様みたいだって? かわいい子に言われると照れるなあー」
青年は私にぐいっと近づき、顔を覗き込みながら照れている。
すると、なぜかサリーがずいっと前に出て、一言、完璧令嬢モードで言った。
「御機嫌よう、私たちは忙しいのでここで失礼いたしますわ」
そして、私はサリーに連れられるままに、早足で一年の教室から離れる。
おーい、何か用があったんじゃないのーと遠くから聞こえるが、お構いなしだ。
一年の教室から十分離れたところで、サリーは振り返って口を開いた。
「あれはだめよ、リア。あいつがいなくなって出直しましょう」
サリーはそういうが。
「いや、あの人がヴィン様だと思うよ」
驚いた顔をするサリーに、遠巻きに見ていたエドガーも頷く。
「ああ。騎士団長ともよく似た容姿だ」
サリーはあからさまにげぇっという顔をした。
「高位貴族があんなんでもいいのかしら」
「まあ、三男で気楽な身なのもあるだろう」
「あなたと同じ“三男”だものね」
サリーはぎろっとエドガーを睨む。
理不尽に飛び火したエドガーはピキッと固まり、しおしおと後ろに下がった。
私はエドガーを助けようと話を戻す。
「そのことだけど、あの人、予知夢の持ち主じゃないよ」
サリーの注意がこちらに向く。エドガーは拾われた子犬のような顔になっていた。
「わかったの?」
「うん。だってあの人氾濫の夢で、持ち主が話していた相手の人だもの」
今度は二人とも驚いた顔になった。
「本当か」
「それなら、氾濫場所は当たりのようね」
でも、そこからが問題だった。
どうやって氾濫を止めるか。どうやって人々を避難させるか。
黙り込んでしまった私たちだったが、しばらくして私は口を開いた。
「一回、ウィンクル領に行ってみたい」
「そうね、行ったらわかることもあるかもしれない」
そして次の休日、ウィンクル領に行くことになった。




