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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わりゆく歴史編

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ガダルカナル空港

ガダルカナル空港


 ガダルカナル島、ルンガ岬。


 朝から、乾いた機械音が響いていた。


 黒い排気を吐きながら、牽引車がゆっくりと前へ進む。


 その後ろでは、小さな鉄製のローラーが、ごろごろと赤土の上を転がっていた。


「止めろ!」


 兵曹が右手を上げた。


 牽引車の音が止まる。


 途端に、辺りを埋めていた蝉の声が耳へ戻ってきた。


「そこは低い。もう一度、土を入れろ」


「はっ!」


 円匙スコップを持った兵たちが、滑走路脇へ走った。


 南国の太陽は、まだ朝だというのに容赦がない。


 軍衣は汗を吸い、背中へ張りついていた。


 掘り返された赤土の匂い。


 切り倒された椰子の青い匂い。


 燃料と機械油の匂い。


 それらが、熱を含んだ空気の中で混ざり合っていた。


「一班、根株を片づけろ!」


「二班は排水溝だ! 深さを揃えろ!」


「測量杭を倒すなよ! やり直しになるぞ!」


 怒鳴り声が、開けた土地の端から端まで飛び交う。


 そこは、少し前まで椰子と灌木に覆われた土地だった。


 今は長く、真っすぐな裸地が、ジャングルの間を切り裂くように延びている。


 飛行場だった。


 まだ、飛行機は一機もいない。


 格納庫も完成していない。


 誘導路も、駐機場も、土を均し始めたばかりだ。


 それでも地面の上には、確かに滑走路の形が現れ始めていた。


「親方、こいつはどうします」


 若い兵が、土から半分だけ顔を出している椰子の根を指した。


「掘れ」


「かなり深いですよ」


「残せば、地面が沈む」


 兵曹は即座に答えた。


「飛行機の脚を折りたいのか」


「いえ!」


「なら掘れ。横から根を切って、綱を掛けろ」


「はっ!」


 三人の兵が円匙とつるはしを手に、根の周囲へ集まった。


 土を掘る。


 根を露出させる。


 斧を振り下ろす。


 湿った木を断つ鈍い音が、何度も響いた。


「こんなもの、燃やしてしまえば早いのにな」


 一人が汗を拭いながらぼやいた。


「表だけ焼いても根は残る」


 隣の兵が答えた。


「分かってるよ。言ってみただけだ」


「口を動かす前に、つるはしを動かせ」


「お前は班長か」


「お前よりは働いている」


「言ったな」


 二人が顔を見合わせた。


 その直後、兵曹の声が飛んできた。


「元気が余っているようだな!」


 二人は同時に背筋を伸ばした。


「余っておりません!」


「なら掘れ!」


「はっ!」


 周囲から小さな笑いが漏れた。


 兵曹は聞こえなかったふりをして、滑走路の中央へ目を向けた。


 測量班が、水平器を覗き込んでいる。


 白く塗られた杭が、一定の間隔で地面に並んでいた。


「中央部、まだ右が高いです!」


「どれだけだ!」


「およそ四寸!」


「削れ! その土は西側の窪地へ回せ!」


 兵たちが一斉に動いた。


 高い場所を削り、低い場所へ運ぶ。


 土を広げる。


 水をまく。


 ローラーを通す。


 ただ平らに見えるだけでは足りない。


 重い機体が何度走っても沈まないよう、地面そのものを固めなければならなかった。


 滑走路の両側では、別の班が細長い溝を掘っている。


「しかし、朝から溝ばかりですな」


 若い兵が円匙スコップを突き立てた。


「俺たちは飛行場を造っているんじゃなかったのか」


 年上の上等兵が、溝の底から顔を上げた。


「雨が降れば分かる」


「何がです」


「この島の雨は、上から海が落ちてくる」


 若い兵が空を見上げた。


 今は雲一つない。


「本当ですかね」


「その顔を覚えておくぞ。泥の中で泳ぐことになったら笑ってやる」


「零戦より先に、自分たちが泳ぐわけですか」


「溝を掘らなければな」


 そのとき、遠くで木が倒れた。


 枝葉を大きく揺らしながら、一本の椰子が地面へ横たわる。


 兵たちが綱を掛け、掛け声を合わせた。


「引け!」


「せえの!」


 太い幹が、土の上をずるずると動く。


 切り開かれた土地の外側には、伐採された幹が何本も積まれていた。


 使えるものは橋や建物の材木へ回す。


 細い枝葉は集めて焼く。


 何一つ無駄にはできなかった。


 沖には輸送船が見えた。


 艀が岸と船の間を往復し、燃料缶、セメント、工具、食糧を運んでいる。


 浜辺では別の隊が荷を受け取り、トラックへ積み替えていた。


 飛行場だけを造ればよいのではない。


 格納庫。


 整備所。


 燃料庫。


 弾薬庫。


 通信所。


 飛行機を動かすには、その何倍もの施設が必要だった。


「あと、どれほど掛かりますか」


 測量を終えた少尉が、現場を見渡しながら尋ねた。


 工事責任者の大尉は、手にした図面から顔を上げた。


「今の進み方なら、数日で小型機は降ろせます」


「使用できるのですか」


「天候が崩れなければ」


 大尉は、滑走路脇の排水溝を見た。


「ただし、一度豪雨が来れば分かりません。表面だけ固めても、下が水を含めば沈みます」


「敵の動きもあります」


「承知しています」


 大尉は図面を折り畳んだ。


「だから急いでいるのです」


 少尉が海を見た。


 水平線には何も見えない。


 だが敵がいないとは限らない。


 この島に飛行場を造っていることは、すでにアメリカ軍も知っている。


 完成すれば、ここから零戦と陸上攻撃機が飛び立つ。


 南方の海を押さえ、輸送路を脅かすことができる。


 敵が黙って見ているはずはなかった。


「敵艦隊が向かっているという話は」


「噂です」


「しかし、ラバウルからも警戒命令が出ています」


「なら、来る前に造るだけです」


 大尉は淡々と言った。


 そして滑走路へ向き直る。


「ローラーを止めるな! 一度では足りん、もう一往復させろ!」


 再び機械音が響き始めた。


 ローラーが赤土を押さえる。


 兵たちは円匙スコップを振るう。


 測量班が次の杭へ移る。


 昼になっても、作業は止まらなかった。


 木陰で握り飯を口へ押し込み、水を飲む。


 休憩は、それだけだった。


「ここから零戦が飛ぶのか」


 一人の兵が、長く延びた滑走路を眺めた。


「完成すればな」


「ラバウルから飛んでくるより、ずっと近くなる」


「当たり前だ。そのために造っている」


「俺たちが造った飛行場から、零戦が飛ぶんだぞ」


 兵は少し嬉しそうに笑った。


「見てみたいな」


 隣に座る上等兵が、水筒を傾けた。


「その前に、敵が来なければいいがな」


 笑顔が消えた。


 二人は同時に海を見た。


 青い水平線は静かだった。


 午後になり、雲が増え始めた。


 湿った風が、海から吹き込んでくる。


「雨が来るぞ!」


 兵曹が叫んだ。


「掘った土を片側へ寄せろ! 排水口を塞ぐな!」


 空が急速に暗くなる。


 数滴の雨が落ちた。


 次の瞬間。


 水の幕が、滑走路を覆った。


「来たぞ!」


「道具を上げろ!」


「溝の流れを見ろ! 詰まっている場所はないか!」


 兵たちは雨の中を走り回った。


 軍衣は一瞬で濡れた。


 赤土の表面を、水が勢いよく流れていく。


 掘られた溝へ集まり、海側へ抜けていく。


「一番排水路、流れています!」


「二番も異常なし!」


「三番が詰まった!」


「枝をどけろ!」


 二人の兵が泥の中へ飛び込み、流木を引き抜いた。


 せき止められていた水が、一気に溝を走った。


 朝から溝ばかり掘っていた若い兵が、その流れを見つめる。


 上等兵が横から声を掛けた。


「どうだ」


「何がです」


「空から海が落ちてきただろう」


 若い兵は、顔についた泥を手で拭った。


「少し大げさです」


「まだ強がるか」


 雨は短時間で通り過ぎた。


 雲の切れ間から、再び強い日差しが落ちてくる。


 地面から湯気が立った。


 滑走路の表面には水たまりが残っている。


 しかし大部分の水は、両側の溝へ流れていた。


 大尉が長靴で地面を踏んだ。


 靴底が少し沈む。


「中央部に水が残っている」


 測量班の少尉が頷いた。


「勾配を取り直します」


「東側をもう少し落とせ。雨の跡が残っている今なら分かる」


「はっ」


 失敗ではなかった。


 雨が、地面の弱い場所を教えてくれた。


 兵たちは再び作業へ戻った。


 削る。


 運ぶ。


 均す。


 固める。


 同じことを、何度も繰り返す。


 夕刻。


 海岸方向から、一台の車が猛然と走ってきた。


 泥を跳ね上げ、工事本部の前で止まる。


 伝令が飛び降りた。


「大尉殿!」


「どうした」


「敵艦隊が反転しました!」


 周囲の手が止まった。


 機械音だけが、しばらく鳴り続けていた。


「確かなのか」


「偵察機からの報告です。敵艦隊は進路を変え、南東へ離脱中!」


「上陸船団は」


「確認できません。少なくとも、こちらへ向かう艦隊はありません!」


 一瞬の静寂。


 それから、誰かが声を上げた。


「引き返したぞ!」


 歓声が広がった。


「助かった!」


「工事を続けられる!」


「これで飛行場が完成するぞ!」


 円匙スコップを掲げる者。


 隣の兵の肩を叩く者。


 泥だらけの顔で笑う者。


 大尉はその様子を眺めたあと、静かに息を吐いた。


 なぜ敵艦隊が退いたのか。


 現場の誰も知らなかった。


 沖合で何が起きたのか。


 たった一機の零戦が、敵艦隊の前へ立ちはだかったことも。


 誰も知らない。


 ただ、自分たちに与えられた時間が、もう少し伸びたことだけは分かった。


 大尉が声を張り上げる。


「喜ぶのはそこまでだ!」


 歓声が止まった。


「敵が戻ってこないという保証はない!」


 大尉は、赤土の滑走路を指した。


「暗くなるまでに、中央部の水たまりを消せ!」


「はっ!」


 兵たちは再び持ち場へ散った。


 牽引車が動き始める。


 ローラーが、地面を踏み固める。


 円匙スコップが赤土へ突き立つ。


 斧が根を断つ。


 ルンガ岬に、飛行場を造る音が戻ってきた。


 それはまだ、名もない滑走路だった。


 史実では、完成する前に奪われるはずだった飛行場。


 後に、ヘンダーソン飛行場と呼ばれるはずだった場所。


 だが今、その赤土を踏み固めているのは、日本兵だった。


 歴史は、銃声の中だけで変わるのではない。


 兵たちの円匙スコップが土を運ぶたび。


 鉄のローラーが地面を固めるたび。


 この島の未来は、少しずつ別の形へ変わっていた。

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