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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わりゆく歴史編

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迫る影

迫る影


 未来基地の管制室。


 大型モニターには、南太平洋の海図が映し出されていた。


 フィジー諸島。


 ニューヘブリディーズ諸島。


 ソロモン諸島。


 そして、その北西に浮かぶガダルカナル島。


 海図の南東側から、幾つもの光点が北西へ進んでいる。


 京子は端末を操作しながら、表情を硬くしていた。


「米軍艦隊が動き始めました」


 慎一はコーヒーカップを机へ置き、モニターへ近づいた。


「どこにいる?」


「フィジー方面の集結地を離れ、現在は北西へ向かっています」


 海図が拡大される。


 空母部隊。


 護衛艦隊。


 輸送船団。


 それぞれの推定位置が、異なる記号で表示された。


「空母三隻」


 京子が一つずつ読み上げる。


「サラトガ、エンタープライズ、ワスプ」


「その周囲に戦艦、巡洋艦、駆逐艦」


「輸送船には、第1海兵師団を中心とする一万九千人近い将兵が乗っています」


 美希が思わず息を呑んだ。


「一万九千人……」


「上陸用舟艇、戦車、砲兵、工兵、食料、弾薬」


 はるみが資料を見ながら続ける。


「単なる攻撃艦隊ではありません」


「ガダルカナル島を占領し、そのまま基地を造るための部隊です」


 幸雄が腕を組んだ。


「島にいる日本側の人数は?」


「二千人余りです」


 京子が答える。


「ですが、その大半は飛行場建設を担当する設営隊や作業員です」


「戦闘部隊は少なく、常駐する航空隊もありません」


 モニターに建設中の飛行場が映し出された。


 赤土を削って延ばされた滑走路。


 重機も満足にない中、人の手で造られている飛行場。


 まだ完成していない。


 だが、完成すればソロモン方面の航空戦を大きく左右する。


「史実では、米軍は八月七日に上陸します」


 京子の声が低くなる。


「上陸前に空母艦載機で飛行場と周辺陣地を攻撃」


「続いて巡洋艦と駆逐艦が海岸を艦砲射撃」


「その援護を受け、上陸用舟艇が海兵隊を運びます」


 慎一は黙って海図を見ていた。


「日本側は?」


「米艦隊の接近を十分に把握できません」


「気づいた時には、すでに上陸が始まっています」


 ガダルカナル島の上に、未来の米軍占領区域が表示された。


「飛行場は、ほとんど完成した状態で奪われます」


「その後、ヘンダーソン飛行場と名づけられ、米軍航空隊の拠点になります」


 慎一の視線が、その先へ動く。


 ソロモン。


 ニューギニア。


 中部太平洋。


 そして、マリアナ。


 前話で見た、一本の長い歴史の道。


 その最初の大きな分岐点が、今、目の前にあった。


     ◇


「到着まで、どれくらいだ?」


 慎一が尋ねた。


「現在の針路と速度なら、数日です」


 京子は海図上へ推定航路を表示した。


 光の線が米艦隊の現在位置から伸び、ガダルカナル島へ重なる。


「まだ島には着いていないんだな」


「はい」


「上陸用舟艇も?」


「まだ輸送船に搭載されたままです」


「艦載機による攻撃も始まっていません」


 慎一は小さく頷いた。


「なら、まだ間に合う」


 美希が慎一を見る。


「ゼロちゃんで、艦隊を止めるんですか?」


「止める」


 短い返事だった。


 幸雄が海図を見ながら言う。


「だが、相手は空母三隻を含む大艦隊だ」


「輸送船を沈めれば上陸は防げる」


「でも中には、一万九千人近い兵士がいる」


 管制室が静かになった。


 慎一も、その数字を見つめていた。


 一万九千。


 画面では、ただの数字。


 だが、その一人一人に名前がある。


 故郷があり、家族がいる。


 敵兵だからといって、船ごと海へ沈めていいはずがない。


 だが、何もしなければ。


 ガダルカナル島で半年にわたる死闘が始まる。


 海でも。


 空でも。


 陸でも。


 日米双方が、数え切れないほどの命を失う。


 慎一は腕を組み、海図を見つめた。


「島の近くまで来させたら駄目だ」


 京子が慎一を見る。


「なぜですか?」


「ガダルカナル沖まで来れば、日本軍も気づく」


「ラバウルの航空隊も、艦隊も動き出す」


 幸雄が僅かに眉を寄せた。


「米艦隊が引けなくなる……」


「ああ」


 慎一は頷いた。


「日本側も止まらん」


「空母と輸送船団を見つければ、全力で叩きに来る」


 史実では間に合わなかった日本軍。


 だが、ブルーゼロが米艦隊の存在を知らせれば、今度は間に合ってしまう。


 その結果、何が起こるのか。


 戦闘能力を失った輸送船団へ、日本の航空隊や艦隊が襲いかかる。


 それでは上陸を止めても、別の大量死を生むだけだった。


「ガダルカナルで戦うんじゃない」


 慎一は、米艦隊の現在位置へ指を置いた。


「ここから島へ来る途中で止める」


「日本軍が動き出す前に」


「米軍自身に、作戦を諦めさせる」


 京子が海図を見た。


「ですが、どうやって……」


 空母三隻。


 戦艦。


 巡洋艦。


 駆逐艦。


 多数の輸送船。


 そして空を埋めるほどの艦載機。


 一機の零戦が現れただけで、アメリカ軍が進攻を諦めるとは思えない。


 まして、輸送船も空母も沈めずに。


 はるみが静かに尋ねた。


「慎一さん」


「米艦隊を壊滅させずに、引き返させることができるんですか?」


 慎一は答えなかった。


 海図上に並ぶ艦隊の記号を、一つずつ見ている。


 空母。


 護衛艦。


 輸送船。


 上陸用舟艇。


 艦載機。


 どれを壊せばいい。


 どれを残せばいい。


 どこまで奪えば、敵は進むことを諦める。


 そして、撤退する力を失わずに済むのか。


 慎一はしばらく考え続けた。


 誰も声をかけなかった。


 やがて。


 慎一の指が、空母の記号で止まった。


 次に輸送船団へ動く。


 その目に、何かが宿った。


「ガダルカナルには到着させない」


 静かな声だった。


「そこへ来るまでに、引き返させる」


 美希が不安そうに尋ねた。


「そんなこと、本当にできるんですか?」


 慎一は海図から目を離した。


 京子。


 はるみ。


 美希。


 幸雄。


 全員が、慎一の言葉を待っている。


 慎一は小さく頷いた。


「俺に考えがある」

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