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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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対零戦戦術

第9話 対零戦戦術


米軍基地の会議室には、まだ重い空気が残っていた。


八機のムスタングが出撃し、一機も帰らなかった。


最新鋭機。


前線投入を急がせた切り札。


それが、たった一機の零戦に全て落とされた。


机の上には、通信記録、偵察報告、海面で確認された残骸の写真が並べられている。


だが、そこに答えはなかった。


「相手は本当に零戦なのか」


指揮官が低く言った。


誰もすぐには答えない。


参謀の一人が、しばらくして口を開いた。


「機影は零戦に酷似しています。少なくとも、味方の誤認ではありません」


「酷似?」


「はい。ただし、速度、上昇力、旋回軌道、武装、いずれも通常の零戦とは一致しません」


指揮官は報告書を机に置いた。


「つまり、零戦ではないと言いたいのか」


「零戦です。ですが、我々が知っている零戦ではありません」


会議室が静まり返った。


その言葉は、そこにいる全員の胸に同じものを残した。


恐怖ではない。


もっと厄介なものだった。


理解できない敵。


指揮官は顔を上げる。


「最後の通信をもう一度」


通信兵が録音を再生した。


雑音。


息の荒い声。


そして叫び。


『Zero behind me!』


そこで途切れる。


それだけだった。


「背後を取られている」


会議室の隅に座っていた男が、静かに言った。


全員の視線がそちらへ向く。


ジョン・サッチ。


空戦戦術に長けた海軍士官だった。


「どういう意味だ」


指揮官が聞く。


サッチは立ち上がり、黒板へ歩いた。


「零戦は旋回性能に優れています。単機で格闘戦に入れば、こちらが不利になる場面が多い」


黒板に二つの円を描く。


ひとつは米軍機。


もうひとつは零戦。


「一対一で後ろを取られた時点で、勝負はほぼ決まります」


「ではどうする」


サッチはチョークを置いた。


「一対一で戦わなければいい」


会議室の空気が少し動いた。


サッチは黒板に二本の線を引いた。


二機の味方機が、互いに離れて飛ぶ。


そこへ零戦が一機を追う。


追われた機が味方の方へ向かう。


味方機は交差するように接近する。


その瞬間、零戦は僚機の射線に入る。


「二機で一つの罠を作ります」


サッチは言った。


「零戦が片方の後ろを取れば、もう片方が零戦の横腹を取る。追われた機は逃げるのではなく、僚機へ敵を運ぶ」


参謀の一人が眉を寄せた。


「かなり危険だな」


「危険です」


サッチは即答した。


「ですが、単機で零戦と回るよりはましです」


「相手が例の所属不明機でも通用すると思うか」


サッチは一瞬だけ黙った。


「分かりません」


指揮官が目を細める。


「分からない?」


「はい。ですが、少なくとも、あの零戦に一機ずつ食われるよりはいい」


会議室は静かだった。


八機が消えた海域。


最後の通信。


そして黒板に描かれた、交差する二本の線。


それはまだ作戦と呼ぶには荒い。


だが、そこには確かに、零戦に対する新しい考え方があった。


「名称は」


指揮官が聞く。


サッチは少しだけ考えた。


「まだありません」


「なら、今は対零戦編隊機動と記録しておけ」


通信兵が書き留める。


指揮官は地図を見た。


「次にあの零戦が現れるとすれば、どこだ」


参謀が資料をめくる。


「日本軍の次の大規模作戦海域。インド洋方面、セイロン沖の可能性があります」


指揮官は頷いた。


「よし。次は単機で追わせるな。必ず二機以上で組ませろ」


そして少し間を置き、低い声で続けた。


「あの零戦を撃ち落とす」


その言葉は、会議室の全員に重く落ちた。


作戦名はまだない。


だが、米軍はこの日から、所属不明の零戦を一つの戦略目標として扱い始めた。


一方、その頃。


未来基地の司令室でも、別の意味で空気は重かった。


京子は大型モニターに表示された戦史データを見つめていた。


画面には、米軍側の航空戦術変化を示す複数の予測線が並んでいる。


美希が腕を組んだ。


「これ、早すぎない?」


「早すぎます」


京子は答えた。


「本来なら、この時期に本格的な対零戦編隊戦術がここまで前倒しされる可能性は低いはずです」


幸雄が顔をしかめる。


「また歴史がズレたってことか」


「はい」


京子は静かに言った。


「ムスタングの早期投入。そして全機喪失。その結果、米軍の対零戦戦術が前倒しで強化され始めています」


はるみが不安そうに聞いた。


「それって、慎一さんのせい?」


京子はすぐには答えなかった。


慎一のせい。


そう言ってしまえば簡単だった。


だが、それは違う。


慎一をこの時代へ連れてきたのは自分たちだ。


零戦を改造したのも自分たちだ。


歴史へ介入したのも自分たちだ。


慎一は、ただ飛んだだけ。


目の前の敵を撃ち落とし、帰ってきただけ。


それでも、結果は大きすぎた。


「原因の一つではあります」


京子は言った。


「でも、慎一だけのせいではありません。私たち全員の介入の結果です」


幸雄が椅子の背にもたれた。


「歴史を変えるつもりで来たのに、変わると困るってのも妙な話だな」


「変えたい歴史と、変わってはいけない歴史があります」


美希が小さく呟いた。


「都合よく変えられるわけじゃない、ってことね」


京子は頷いた。


「はい」


モニターには、次の作戦海域が表示されていた。


セイロン沖。


史実では、日本海軍航空隊が優勢に戦うはずの空。


だが、今の歴史では分からない。


対零戦戦術は早まっている。


米軍も、英国軍も、慎一の存在を前提に動き始めている。


戦争が、こちらを見始めていた。


「慎一は?」


京子が聞いた。


はるみが振り返る。


「格納庫にいます。零戦を見てるみたい」


「また話しかけてるのか?」


幸雄が呆れた顔をした。


「たぶん」


はるみが笑った。


その頃、慎一は格納庫にいた。


未来技術で改造された零戦の前に立ち、機首を眺めている。


栄エンジンはまだ沈黙していた。


だが、慎一には分かる。


この機体は、まだ全部を見せていない。


操縦桿を少し動かした時の重さ。


ラダーを踏んだ時の尻の流れ。


スロットルを押し込んだ時、機体が捻れようとする癖。


どれも、昨日よりはっきりと思い出せる。


「次は、もっと上手くやれるな」


慎一はそう呟いた。


その声に答えるように、格納庫の奥で工具の音が響いた。


そこへ京子が入ってきた。


「慎一」


「何だ」


「次の作戦です」


「もうか」


「はい」


京子は少しだけ言葉を選んだ。


「セイロン沖で、大きな空戦が起きます」


「セイロン?」


「インド洋方面です」


「遠いな」


「あなたに出てもらう必要があります」


慎一は零戦を見たまま言った。


「また歴史を変えるのか」


京子は黙った。


慎一は振り返る。


「それとも、変わった歴史を戻すのか」


京子は、ほんの少しだけ目を見開いた。


「……どちらとも言えません」


「そうか」


慎一は軽く肩を回した。


「なら、飛べば分かるだろ」


「簡単に言いますね」


「難しく言っても飛ぶのは同じだ」


京子はため息をついた。


「相手は、今までより厄介になるかもしれません」


「いいじゃないか」


「いい?」


慎一は零戦の主翼に手を置いた。


「こいつも退屈してるだろうしな」


京子は一瞬だけ困った顔をした。


それから、小さく笑った。


「本当に、あなたは予定通りに動いてくれませんね」


「予定通りの男なら、俺じゃなくてもいいだろ」


その言葉に、京子は返事ができなかった。


歴史を変えたい女。


変えすぎる男。


京子はその言葉を、まだ知らない。


だが、すでにその二人は、同じ零戦の前に立っていた。


次の空は、セイロン沖。


そこで慎一は初めて、敵がただ逃げるのではなく、誘ってくる戦術に出会うことになる。

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