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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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所属不明機

第10話 所属不明機


セイロン沖の空は、白く霞んでいた。


海は広い。


雲は薄く、太陽は高い。


日本海軍航空隊の零戦隊は、敵機を追っていた。


だが、いつもの空戦とは違っていた。


「後ろを取れん!」


無線に焦った声が混じる。


「こいつら、逃げているんじゃない。交差してくるぞ!」


英軍機は一機で勝負してこなかった。


一機が逃げる。


零戦が追う。


その瞬間、もう一機が横から入る。


追った零戦が射線へ誘い込まれる。


「二機一組だ!」


「深追いするな!」


日本軍の搭乗員たちは戸惑っていた。


零戦の旋回性能なら勝てる。


そう思っていた。


だが、敵は旋回戦に付き合わない。


逃げるふりをして、仲間の射線へ運んでくる。


一機の零戦が、敵機の後ろを取ろうとした。


その瞬間、左上から別の敵機が降ってきた。


「しまった!」


曳光弾が零戦の前を走る。


操縦席の男は歯を食いしばった。


避けきれない。


そう思った時だった。


視界の端に、一機の零戦が入った。


どこから来たのか分からなかった。


雲の影から、滑るように現れた。


その零戦は真っ直ぐ飛んでいるように見えた。


だが違う。


ほんのわずかに横へ流れている。


敵の照準に入る寸前で、機体が消えるように位置をずらした。


「何だ、あれは」


誰かが無線で呟いた。


その零戦は、敵機を追わなかった。


敵が逃げる先を、先に取った。


敵の右翼がわずかに沈む。


その瞬間、所属不明の零戦はもう動いていた。


ラダーを蹴ったのか。


エルロンを使ったのか。


それとも、機体そのものが空を滑ったのか。


分からない。


ただ、ありえない角度から敵機の後ろへ入った。


次の瞬間。


短い発射音。


二十ミリとは違う。


乾いた、重い音。


敵機の胴体が弾けた。


「落ちた……」


日本軍の搭乗員は、思わず声を漏らした。


敵機は炎を引いて海へ落ちていく。


その所属不明機は、すぐに次へ向かった。


まるで最初から、そこへ行くと決めていたように。


慎一は、風防の向こうを見ていた。


敵機は二機で一つ。


片方だけを見ては駄目だ。


逃げる敵。


誘う敵。


撃つ敵。


二機の距離と角度。


交差する瞬間。


そこに癖がある。


「なるほどな」


慎一は呟いた。


「二人で荷を運んでるのか」


操縦桿をわずかに右へ倒す。


左右のエルロンが反対に動く。


零戦の右翼が少し沈む。


だが、まだ曲げない。


スロットルを押し込む。


強化された栄エンジンが唸りを上げた。


プロペラの回転が増し、機体がわずかに捻れようとする。


慎一はその癖を殺さなかった。


右ラダーを軽く踏む。


零戦の尻が流れる。


エレベーターをほんの少し引く。


機首が上がり、敵機の交差点へ吸い込まれるように向いた。


敵は逃げているのではない。


こちらを運んでいる。


なら、その運び先に乗らなければいい。


慎一は、敵が作った道の外へ零戦を置いた。


次の瞬間、敵機二機が交差する。


本来なら、追ってきた零戦が射線に入るはずだった。


だが、慎一の零戦はそこにいない。


交差した敵機の背後。


ありえない位置。


そこにいた。


「そこだ」


トリガーを引く。


レールガンが唸る。


一発。


敵機の翼の付け根が抜ける。


二発目は撃たなかった。


もう落ちる。


慎一は次を見た。


遠くで別の零戦が追われている。


その零戦の背後へ敵機が入りかけていた。


「間に合うか」


慎一は機首を下げた。


フラップは使わない。


速度を殺すにはまだ早い。


エルロンで傾け、ラダーで尻を流し、スロットルを一瞬だけ抜く。


プロペラの引きが変わる。


機体の鼻先がわずかに沈む。


その沈みを待ってから、慎一は再びスロットルを入れた。


栄エンジンが吠える。


零戦は弾かれたように前へ出た。


追われていた日本軍機の搭乗員は、死を覚悟していた。


後ろに敵。


前には雲。


味方は遠い。


その時、右下から一機の零戦が吹き上がってきた。


「味方か!?」


見たことのない機体だった。


機体番号も読めない。


所属も分からない。


だが、日の丸が見えた。


その零戦は敵機の射線へ割り込んだ。


いや、割り込んだように見えた。


実際には、敵の射線が通る寸前で、零戦は横へ滑っていた。


曳光弾が空を切る。


そのすぐ横を、所属不明機が抜ける。


敵機の機首が、ほんの一瞬だけ遅れた。


それで十分だった。


所属不明機は敵の腹の下へ潜り、反転する。


右エルロンが上がり、左エルロンが下がる。


機体が右へ倒れる。


同時に左ラダー。


普通なら機体が暴れる。


だがその零戦は、暴れた力をそのまま向きに変えた。


尾が流れ、機首が跳ねる。


次の瞬間、敵機の真後ろ。


「馬鹿な……」


日本軍搭乗員は呟いた。


零戦が、あんな動きをするのか。


乾いた発射音。


敵機が火を噴いた。


「助かった……」


その言葉は無線には乗らなかった。


喉の奥で消えた。


戦闘は、そこから変わった。


押されていた零戦隊が、息を吹き返す。


敵の二機一組の動きは厄介だった。


だが、所属不明機がその中心を崩していく。


一組。


また一組。


敵の編隊が乱れる。


乱れた敵は、普通の空戦へ引き戻される。


そうなれば、零戦隊は強かった。


「今だ、かかれ!」


誰かが叫んだ。


日本軍の零戦が一斉に食いつく。


英軍機は散った。


一機が海へ落ちる。


もう一機が雲へ逃げる。


さらに一機が零戦に追われて高度を失う。


慎一はそれを見ていた。


必要以上に追わなかった。


味方が戦えるなら、それでいい。


自分が全部落とす必要はない。


「流れが戻ったな」


慎一は小さく言った。


その頃、遠く離れた別の空域で、一人の米軍士官が双眼鏡を下ろした。


ジョン・サッチだった。


直接交戦したわけではない。


だが、彼は見た。


一機の零戦が、編隊機動の流れを壊していくのを。


逃げる敵を追わない。


誘いに乗らない。


むしろ、誘いの外側へ先にいる。


「あれか」


サッチは低く呟いた。


「例のゼロは」


隣の士官が聞いた。


「あれが?」


サッチは答えなかった。


ただ、空を見ていた。


所属不明機は、また一機を落とした。


二機一組の罠が崩される。


彼が考えた対零戦機動は、普通の零戦には効く。


だが、あの零戦は普通ではない。


サッチの目が細くなる。


「面白い」


その言葉は、誰にも聞こえないほど小さかった。


やがて空戦は終わりへ向かっていった。


日本軍の勝利。


史実と同じ結果。


だが、その中身は違っていた。


本来なら一方的に勝てたはずの空で、日本軍は苦戦した。


本来ならまだ現れないはずの戦術が、そこにあった。


そして本来存在しないはずの一機が、その流れを捻じ曲げた。


戦闘終了後、日本軍の零戦隊は所属不明機へ呼びかけた。


「こちら第二小隊。先ほどの零戦、所属を知らせ」


返答はない。


「聞こえるか。貴官の所属を知らせ」


無線は沈黙していた。


その零戦は、すでに高度を上げていた。


雲の切れ目へ向かう。


日の丸だけが、太陽の光に一瞬きらめいた。


「おい、どこの隊だ」


「知らん」


「味方なのか」


「助けてくれたんだ。味方だろう」


「だが、あんな零戦は見たことがない」


誰も答えられなかった。


所属不明の零戦は、雲の中へ消えた。


戦場にだけ現れ、戦況を変え、名乗らず去っていく零戦。


その噂は、まだこの時点では小さなものだった。


だが、やがて日本軍の搭乗員たちは、その機体をこう呼ぶようになる。


幽霊零戦。


そして米軍側では、別の名が記録されることになる。


Phantom Zero.


その名が正式な作戦目標になるまで、そう時間はかからなかった。

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