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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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帰らない八機

第8話 帰らない八機


米軍基地の管制室に、嫌な沈黙が落ちていた。


無線機はまだ生きている。


雑音は聞こえる。


だが、呼びかけに答える声はない。


「ホーク隊、応答せよ」


管制官は、もう何度目か分からない呼びかけを繰り返した。


「ホーク隊、応答せよ。現在位置を知らせろ」


返ってくるのは、耳障りなノイズだけだった。


八機。


出撃したムスタングは八機だった。


ムスタング。


最新鋭機の試作型。

まだ試験的な前線投入の段階ではある。


だが、機体も、エンジンも、旋回性能も、零戦に劣るはずがない。

いや、むしろ大幅に上回っているはずだった。


それが八機も帰らない。


敵は旧式の零戦一機。


そう、無線の通話記録が示している。


本来なら、たとえ運悪く見えない場所から襲われたとしても、最新鋭のムスタング八機なら返り討ちにすることはあっても、全機が沈黙するなど考えられない。


まして相手は零戦。


速力も、火力も、防弾性能も、こちらが上のはずだった。


「通信記録を最初から流せ」


管制室の奥で、指揮官が低く言った。


通信兵が録音装置を操作する。


少しの雑音の後、陽気な声が流れた。


『こちらホーク1、前方上空にゼロファイターを確認』


別の声が笑った。


『ゼロだと? たった一機か?』


『そう見える。こちとら最新鋭のムスタングだ。格の違いってやつを見せてやる』


小さな笑い声。


管制室の誰も笑わなかった。


録音の中で、ホーク1が命令する。


『各機、散開。挟み撃ちにしろ』


『了解』


『ホーク3、左へ回る』


『ホーク4、上を取る』


『ホーク5、下から押さえる』


雑音の向こうで、各機の声が次々に重なる。


八機のムスタングが、たった一機の零戦を包囲していく。


そのはずだった。


『射線に入った』


『撃てるぞ』


『撃つ』


機銃掃射の音が録音に混じる。


次の瞬間、誰かが叫んだ。


『待て、消えた!』


『何?』


『ゼロが消えた!』


『違う、下だ!』


『いや、後ろだ!』


激しい雑音。


短い悲鳴。


『ホーク3被弾!』


『何だ今のは!』


『二十ミリじゃないぞ!』


『ホーク3、応答しろ!』


返事はない。


録音の中で、空気が変わった。


先ほどまでの余裕は消えていた。


『散るな! 編隊を崩すな!』


『上だ!』


『違う、右後方!』


『速い!』


『違う、速いんじゃない! いる場所がおかしい!』


管制室にいた者たちは、思わず顔を見合わせた。


いる場所がおかしい。


その言葉だけが、妙に耳に残った。


録音は続く。


『ホーク5がやられた!』


『馬鹿な、今の角度から撃てるはずがない!』


『奴はどこだ!』


『後ろにつかれた!』


『振り切れ!』


『振り切れない!』


また雑音。


その奥で、爆発音のようなものが入る。


『こちらホーク1! 全機退避! あれは普通のゼロじゃない!』


『了解! 離脱する!』


『こんなの悪夢だ!』


直後、別の声が潰れるように途切れた。


『う、うわあああ!』


録音の中に、数秒の空白が落ちる。


ノイズだけが鳴っていた。


そして最後に、荒い息づかいと共に声が入った。


『Zero……behind me!』


激しい雑音。


そこで記録は途切れた。


通信兵は再生を止めた。


管制室は静まり返っていた。


「それだけか」


指揮官が言った。


「はい、少佐。これが最後に残された通信記録です」


指揮官は黙って地図を見た。


八機の最後の位置は、狭い海域に集中している。


まるで何かにまとめて飲み込まれたようだった。


「他の機は」


「救難信号なし。現在、帰還機もありません」


「撃墜されたとしても、一機くらいは通信できるはずだ」


誰も答えなかった。


その場にいた全員が、同じことを考えていた。


八機が、ほぼ同時に消えた。


しばらくして、偵察機からの報告が入った。


海面に油膜。


機体の破片らしきもの。


漂流する翼の一部。


機番号は確認中。


生存者なし。


通信兵が報告を読み上げるたび、指揮官の顔が硬くなっていく。


「敵機の数は」


「断定はできません。ですが、通信記録から判断する限り、おそらく一機のみです」


「一機」


指揮官は、その言葉を噛むように繰り返した。


「たった一機のゼロに、ムスタング八機が落とされたと言うのか」


若い参謀が口を開いた。


「通常の零戦ではありません」


指揮官が視線を向ける。


「根拠は」


「撃墜された機体の破損状況です。通常の二十ミリ機銃による損傷とは違う可能性があります」


「新型機か」


「不明です」


参謀は一枚の報告書を差し出した。


「ただ、通信の断片から判断すると、最後の一機は敵機に完全に背後を取られています。速度差を考えると、通常の零戦がムスタングの後ろへ入るのは困難です」


「パイロットの腕ではないのか」


「腕だけで説明するには、結果が異常です」


指揮官は黙った。


空戦には偶然がある。


雲。


太陽。


視界。


判断ミス。


しかし、八機全滅は偶然では片付かない。


それに、通信記録の中の一言が消えない。


速いんじゃない。


いる場所がおかしい。


「次から単機で追わせるな」


指揮官は言った。


「ゼロを見つけても、格闘戦に入るな。距離を取れ。編隊を崩すな。必ず複数機で囲め」


「了解しました」


「それから」


指揮官は地図上の海域を指差した。


「この海域を記録しておけ」


通信兵がペンを走らせる。


「何と記録しますか」


指揮官は少しだけ迷った。


そして言った。


「未確認敵性航空機、出没海域」


部屋の中に、再び無線の雑音が響いた。


その向こうに、もう誰の声もなかった。


ただ最後の一言だけが、管制室の者たちの耳に残っている。


Zero behind me.


ただの零戦ではない。


そう理解するには、十分すぎる沈黙だった。

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