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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
無双の始まり

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未来基地の朝

改稿版に差し替えています。よろしくお願いします。


第七話 未来基地の朝


 目を覚ますと、白い天井が見えた。

 見慣れた、とまでは言えない。

 だが、もう驚くこともなくなった。

 壁にも天井にも照明らしい物はない。それでも部屋の中は、夜明け直後のような柔らかな光に包まれている。

「朝か……」

 俺が呟くと、正面の壁に数字が浮かび上がった。

 午前六時三十二分。

 ここは島の丘の中だ。

 窓はなく、朝日も入らない。

 それでも照明は地上の時刻に合わせて、少しずつ明るくなるように作られているらしい。

 未来の人間も、暗闇の中でいきなり目を覚ますのは嫌なのだろう。

 俺はベッドの上で体を起こした。

 肩を回す。

 腰をひねる。

 膝を曲げる。

 どこも痛くない。

「若い体ってのは、たいしたもんだな」

 六十六歳の頃なら、起き上がる前に一度、腰の具合を確かめていた。

 外仕事が続いた翌朝などは、立ち上がっただけで膝が音を立てる。

 痛みが出れば、今日はどの仕事から片づけるかを変える。

 何でも屋を長くやっていれば、自分の体も道具の一つだった。

 だが今は違う。

 勢いよく立ち上がっても、腰も膝も何も言わない。

 二十歳の体というものは、恐ろしいほど便利だった。

 俺はベッドから降りた。


 その時、ふと、ここへ来る前の仕事を思い出した。

 エアコンの取り付けを頼まれていた家だ。

 古い機械を外して、新しい物に交換する予定だった。

 室外機を置く場所が狭く、配管をどこへ回すか少し考えなければならなかった。

 たしか、依頼主は年配の夫婦だったな。

 奥さんが、


「今年も暑くなりそうですから、なるべく早くお願いしますね」

 そう言っていた。

「困ってるだろうな……」

 約束の日になっても、俺は来ない。

 電話にも出ない。

 家にもいない。

 相手からすれば、突然消えたようなものだ。

 まさか零戦の操縦席で目を覚まし、そのまま一九四二年へ来ているとは思わないだろう。

 俺は小さく息を吐いた。

 考えても仕方がないな、戻る方法も分からないし。

 それでも、引き受けた仕事を途中にしたままというのは、どうにも気持ちが悪かった。

「参ったな」

 壁際の洗面台へ向かう。

 手を近づけると、自動で水が出た。

 顔を洗い、鏡を見る。

 そこに映っているのは、仲川一登ではない。

 三上慎一。

 二十歳の海軍少尉だ。

 何度見ても若い。

 肌には皺一つなく、目の下にも疲れがない。

 これが俺だと言われても、まだ完全には受け入れられなかった。

 だが、鏡の中の男が俺の動きに合わせて顔を拭くのだから、認めるしかない。

「今日も頼むぞ、慎一」

 鏡の中の男へそう言い、俺は部屋を出た。

 通路は静かだった。

 淡い光が床に沿って伸びている。

 この基地は、島の中央にある丘をくり抜いて造られていた。

 外から見れば、草と木に覆われた、ただの小高い丘にしか見えない。

 だが、その中には居住区、食堂、司令室、医務室、整備区画、そして零戦を収める格納庫まである。

 初めの頃は、どこへ行くにも誰かに案内してもらわなければならなかった。

 今では、ほとんどの場所なら迷わず歩ける。

 俺は通路を曲がり、食堂へ向かった。

 途中、前方から美希が現れた。

「あっ、おはようございます、慎一さん!」

 朝からよく通る声だった。

「おはよう。相変わらず元気だな」

「はい! 朝ご飯の匂いがしましたから!」

「匂いだけで元気になるのか」

「なりますよぉ。朝ご飯は一日の推進力です!」

 美希は胸を張った。

「零戦と同じか」

「ゼロちゃんは燃料、人間はご飯です!」

「ゼロちゃん?まあ分かりやすいな」

 二人で食堂へ入る。

 幸雄はすでに席についていた。

 大きな体を椅子に預け、端末に映った零戦の図面を眺めている。

 食事をするというより、図面のついでに朝飯を食うつもりらしい。

「遅えぞ」

 幸雄は画面から目を離さずに言った。

「まだ六時半だぞ」

「俺は五時から起きてる」

「ずいぶん早いな」

「試したいことがあると、寝てられねえんだよ」

「機械馬鹿だな」

「何でも屋に言われたくねえ」

 俺は椅子を引きながら笑った。

「何でも屋は寝るぞ。明るくなってからが仕事だからな」

「こっちは丘の中だ。明るいも暗いもあるか」

「だから困るんだ」

 幸雄が、ようやく端末から目を上げた。

「体はどうだ」

「軽いもんだ。起きた瞬間に腰を気にしなくていい」

「二十歳で腰を気にしてたら故障品だ」

「中身は六十六だぞ」

「面倒くせえ機体に、面倒くせえ操縦者が入ったもんだ」

「誰が面倒だ」

「両方だ」

 そこへ、はるみが皿を運んできた。

「朝から戯れあってますね」

 皿には焼いた肉と卵、それにパンが並んでいた。

「今日も美味しそうです!」

 美希が目を輝かせる。

「美希さんは、まだ何も食べていないのに毎日そう言いますね」

「見れば分かります!」

「便利な舌ですね」

 はるみは苦笑しながら、俺の前にも皿を置いた。

「ありがとう」

「コーヒーもありますよ」

「助かる」

 俺は椅子へ腰を下ろした。

 温かい食事の匂いがする。

 さっきまで、現代に残してきた仕事のことを考えていた。

 だが、こうして食堂へ来ると、嫌でも今いる場所へ意識が戻される。

 目の前にあるのは、二〇五三年から運ばれてきた食器。

 口へ入れるのは、一九四二年の島で手に入れた食材。

 そして、それを食べている俺は、六十六歳の何でも屋であり、二十歳の零戦乗りでもある。

 何ともややこしい朝飯だった。

「米はないのか?やっぱり朝はご飯がいいからな」

 俺が聞くと、はるみが申し訳なさそうな顔をした。

「備蓄はあります。でも、毎日というわけにはいかなくて」

「そうか」

「今度、炊きますね」

「それはありがたいね、できれば頼むよ」

「私、おにぎりがいいです!」

 美希が手を上げた。

「あなたの希望は聞いていません」

「具は鮭でお願いします!」

「鮭はありません」

「では梅干しで!」

「梅干しも貴重です」

「そんなぁ……」

 美希は本気で肩を落とした。

 幸雄が鼻で笑う。

「塩でも舐めてろ」

「嫌ですぅ!」

「似たようなもんだ」

「全然違います!」

 俺も思わず笑った。

 昨日まで俺は、空の上で敵機と戦っていた。

 鋼鉄の弾丸が翼を裂き、人が乗った機体が炎に包まれて落ちていった。

 だが今は、梅干しがあるかないかで、美希が幸雄に抗議している。

 戦争の真っただ中とは思えない。

 けれど、不思議と嫌ではなかった。

 この基地に来たばかりの頃、ここはただの異様な場所だった。

 未来の技術が並び、見知らぬ人間たちがいて、自分がなぜここにいるのかも分からなかった。

 今は違う。

 部屋で眠り、通路を歩き、食堂で朝飯を食う。

 幸雄が零戦のことを考え、美希がよく喋り、はるみが食事を作る。

 その中に俺もいる。

 いつの間にか、ここで暮らすことが当たり前になり始めていた。

「京子は?」

 俺が尋ねると、はるみが司令室の方へ目を向けた。

「もう起きています。昨夜から、ずっと記録を見ていましたから」

「また寝てないのか」

「少しは休むように言ったんですけど」

 はるみは心配そうに眉を寄せた。

 しばらくして、食堂の扉が開いた。

 京子が入ってくる。

「おはよう」

「おはようございます、京子さん!」

 美希が元気よく答えた。

 京子はいつものように背筋を伸ばしていたが、目の下にはわずかに疲れが見えた。

「寝てないのか?」

 俺が聞くと、京子はこちらを見た。

「少しは寝たわ」

「どれくらいだ」

「一時間くらい」

「それは寝たとは言わんぞ」

「今は確認しておくことが多いの」

「倒れたら確認もできんぞ」

 京子は一瞬だけ黙り、それから小さく息を吐いた。

「気をつけるわ」

 はるみからコーヒーを受け取り、俺の向かいへ座る。

 幸雄は再び端末へ視線を戻した。

 美希はパンをもう一枚食べていいか、はるみと交渉を始めている。

 誰も特別な話をしなかった。

 京子も黙ってコーヒーを飲んでいた。

 静かな朝だった。

 司令官も、技術者も、補給担当も、管制担当も、今はただ朝食を取っている。

 この人たちは歴史を変えるために未来から来た。

 だが、任務だけで生きているわけではない。

 ここで眠り、ここで食べ、ここで笑っている。

 この丘の中が、彼らの家なのだ。

 そして今は、俺にとってもそうなりつつある。


 食事を終え、俺が皿を持って立ち上がろうとした時だった。

「慎一」

 京子が俺を呼び止めた。

「なんだ?」

 京子は手にしていたカップを置いた。

 少し考えるように、俺を見る。

「そうね……」

 いつもの京子にしては、歯切れが悪かった。

「あなたには、見せておかないといけないわね」

「何をだ?」

 京子はすぐには答えなかった。

「来て。見れば分かるわ」

 そう言って席を立つ。

 その瞬間、食堂の空気が少し変わった。

 美希は口に運びかけていたパンを止めた。

 幸雄も端末から顔を上げる。

 はるみだけが、京子を見たまま静かに目を伏せた。

「何なんだ?」

 俺が尋ねても、誰も答えない。

 京子は食堂を出ていった。

 俺は皿を置き、その後を追った。

 司令室へ向かう通路を途中で曲がる。

 さらに奥へ進む。

 こちら側へ来るのは初めてだった。

「こんな所にも通路があったのか」

「普段は閉じているから」

 京子が壁に手を触れる。

 何もなかったはずの場所に細い光が走り、壁の一部が音もなく左右へ開いた。

 その先には、照明の落とされた通路が続いていた。

「俺にも見せてなかった場所か」

「そうよ」

「隠していたのか?」

「隠していたわけではないわ」

「なら、どうして今まで見せなかった?」

 京子は前を向いたまま歩いている。

 返事はすぐにはなかった。

 通路の中は、これまで見てきた基地のどこよりも静かだった。

 足音だけが小さく響く。

「あなたが、ここに残る人かどうか分からなかったからよ」

「残る?」

「昨日、あなたは初めて人を撃った」

 俺は黙った。

 炎を上げて落ちていく敵機が、脳裏によみがえる。

「戦闘の後、あなたがどうなるのか、私には分からなかった」

「逃げ出すと思ったのか」

「それも考えたわ」

「正直だな」

「あなたを騙したまま、任務を続けさせるつもりはないもの」

 通路の先に、大きな扉が見えた。

 厚い金属製の扉だった。

 周囲の壁とは明らかに作りが違う。

 京子が扉の横へ立つ。

 淡い光が彼女の顔と体を上から下へなぞった。

 短い電子音が鳴る。

「昨日、あなたは戦った」

 京子が言った。

「人を撃ち、自分が何をしたのかも分かった上で、それでも戻ってきた」

「戻る場所はここしかないからな」

「それでもよ」

 扉の内部で、重い鍵が外れる音がした。

「だから、見せることにしたの」

 扉がゆっくりと左右へ開いていく。

 中は暗かった。

 京子が一歩入ると、床に沿って淡い光が灯る。

 広い部屋だった。

 壁には三つの大きな画面が並んでいる。

 その前には、それぞれ透明なケースが置かれていた。

 一つ目のケースには、ひしゃげた金属片。

 二つ目には、焼け焦げた機械。

 三つ目には、古びた飛行服が収められていた。

 胸元には黒く変色した跡が残っている。

 俺は足を止めた。


 正面の画面に文字が浮かび上がる。

 第一介入計画。

 隣の画面にも文字が現れる。

 第二介入計画。

 そして三つ目。

 第三介入計画。


「これは……」


 京子は三つの画面を見つめたまま答えた。

「私たちより前に行われた介入の記録よ」

「そんな事を言ってたな」

「ええ」

「本当に三回も?」

「そうよ」

 俺はケースの中の飛行服を見た。

「それがその名残りか?」

 京子はとおくを見るように言った。

「そうよ、死んだ者もいる。戻れなくなった者もいる。介入そのものが消滅した例もある」

「消滅?」

「記録ごと、歴史の中から消えたの」

 意味は分からなかった。

 だが、京子の表情から、それが単なる事故ではないことだけは伝わった。

「この基地は、最初の基地じゃないのか」

「違うわ」

 京子は俺を見た。

「第一基地と第二基地は、もう機能していない」

「ここは?」

「第三基地」

「じゃあ、俺は四回目というのは本当だったのか?」

「そう」

 部屋の一番奥で、もう一つの表示が点灯した。

 第四介入計画。

 その下に、一人の名前が浮かび上がる。

 三上慎一。

 俺は黙ってその名を見つめた。

 俺の顔。

 俺の体。

 だが、俺ではない男の名前。

 さらにその下に、もう一つの名前が表示された。

 仲川一登。

「俺の名前が……」

「あなたがここへ来た時、記録に追加されたの」

「三上慎一ではなく?」

「両方よ」

 京子は静かに言った。

「最初に説明した通り、この計画に必要なのは、零戦を操縦できる三上慎一の体だけではなかった」

 俺は画面から目を離し、京子を見る。

「第四介入計画で選ばれたのは、あなたなの」

「俺が?」

「そう、仲川一登。あなた自身が」

 俺は、もう一度画面を見た。

 なぜ俺なのか。

 なぜ六十六歳の何でも屋が、二十歳の零戦乗りの体に入ったのか。

 京子は俺が選ばれたと言っていた。

 偶然ではなかったという。

 京子は何も言わず部屋の奥へ目を向ける。

 そこには、まだ開いていない扉が一つあった。

 これまでの物よりも小さい。

 だが、その表面には見たことのない文字が淡く流れていた。

「あの奥に何がある」

「今は、まだ見せられない」

「さっきは隠さないと言っただろ」

「隠しているんじゃない」

 京子の声が少しだけ低くなる。

「私たちにも、開けられないのよ」

「誰なら開けられる」

 京子はしばらく黙っていた。

 そして、表示された俺の名前を見つめながら言った。

「おそらく、あなたよ」

「この部屋を開ける鍵が俺?どういう事だ?」

「それもわからない、この部屋は私達がこの基地に来た時にはもうあったの、でもどうしても開ける事が出来ない、開ける方法もわからない、未来の量子コンピュータに聞いたけど、あなたの名前を告げられた、そのうちにわかるでしょう、そんな言葉を返して沈黙したそうよ」

 どういう事なのか?俺がこの時代に来たのは本当に偶然ではなく、何か意味があるという事なのか?

 また一つ謎が増えてしまった。

 そして俺はその場に立ちつくすのだった。

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