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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わりゆく歴史編

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揺らぐ未来

第九十一話 揺らぐ未来


 アルメディア。


 監視室の壁一面に並ぶ未来予測値が、静かに書き換わっていた。


 最初に異変へ気づいたのは、千鶴だった。


「待って」


 小さな声だった。


 だが、その一言で室内の空気が変わった。


 由紀子が振り返る。


「どうしたの?」


 千鶴は答えず、画面を指で拡大した。


 北米。


 研究施設建設記録。


 資材移送。


 人員配置。


 予算配分。


 どれも、ひとつひとつなら小さな変化だった。


 けれど、その小さな変化が、同じ場所へ向かっている。


 良太が席を立った。


「昨日の予測値を出して」


 昭雄がすぐに照合する。


 二つの画面が並んだ。


 昨日。


 今日。


 数字の列は似ている。


 だが、同じではなかった。


「建設速度が上がってる」


 千鶴が呟く。


「それだけじゃない」


 昭雄が別の資料を開いた。


「物理学者の招集数も増えてる。特殊金属、濃縮設備、電力供給計画……全部、前倒しだ」


 さゆりの顔から、ゆっくりと表情が消えた。


「何の計画なの?」


 誰もすぐには答えなかった。


 画面の上では、膨大な資材が集められている。


 砂漠。


 研究区画。


 巨大な発電設備。


 軍の管理下へ移される施設。


 ひとつずつ見れば、ただの研究計画に見える。


 だが、未来を知る者たちには分かった。


 由紀子が静かに言った。


「核兵器開発……」


 室内が凍りついた。


     ◇


「そんなはずない」


 さゆりが首を振った。


「私たちは、それを止めるために京子たちを送ったのよ」


「分かってる」


 由紀子は画面から目を離さなかった。


「でも、数値は変わってる」


 良太が予測演算を再実行する。


 処理表示が走る。


 数秒。


 結果が出た。


 全員が画面を見た。


 完成予測時期。


 前倒し。


 千鶴が息を呑む。


「昨日より……また早くなってる」


 さゆりが椅子へ座り込んだ。


「どうして……」


 その問いに、誰も答えられなかった。


 京子たちは過去へ行った。


 一登は零戦で飛んだ。


 補給船団を守った。


 空母を救った。


 日本軍の壊滅を防いだ。


 敵機を撃墜した。


 どれも、人を救うための行動だった。


 間違ったことなど、何ひとつしていない。


 それなのに。


 未来は、救われるどころか、別の破滅へ近づいている。


 昭雄が画面を見つめたまま言った。


「日本軍が、史実より強く残ってる」


 由紀子が振り返る。


 昭雄は続けた。


「補給線が維持されて、空母も残った。戦線が崩れない。米軍側から見れば、戦争が長引く可能性が高くなった」


「それだけじゃないわ」


 千鶴が言った。


「Phantomがいる」


 誰も返事をしなかった。


「通常兵器では止められない零戦。レールガン。異常な加速。海面滑空。そして、今度は未知の切断兵器まで使った」


 良太が低く言う。


「アメリカは、何が起きているのか分からない」


「だからこそ」


 由紀子が呟いた。


「もっと強い兵器を求める」


 その言葉が、室内へ重く落ちた。


     ◇


 画面には、変わり続ける歴史予測が映っていた。


 慎一が救った船。


 救われた空母。


 生き残った兵士。


 変わった戦線。


 それらが別の場所で圧力となり、ひとつの計画へ流れ込んでいる。


 資金。


 人材。


 資材。


 時間。


 すべてが、核兵器開発へ集まり始めていた。


 さゆりが小さく首を振った。


「人を救ったのよ」


 誰に言うでもなく、そう言った。


「京子たちは、ずっと人を救ってきた」


「ええ」


 由紀子が答える。


「でも、その結果がこれよ」


「そんなの……」


 さゆりの声が震えた。


「そんなの、あんまりじゃない」


 千鶴は画面を見ていた。


「歴史は、救った数だけ良くなるわけじゃない」


 良太が呟く。


「ひとつ変えれば、別の場所が動く」


 昭雄が苦い顔で笑った。


「一本の糸じゃないんだな」


「え?」


「歴史は」


 昭雄は壁一面の予測線を見た。


「蜘蛛の巣だ」


 一本を引けば、すべてが揺れる。


 一ヶ所を救えば、別の場所に力がかかる。


 正しい行動が、正しい未来へ続くとは限らない。


 由紀子は、しばらく何も言わなかった。


 やがて、静かに口を開く。


「私たちは、原爆を止めるために過去へ行った」


 誰も動かなかった。


「なのに」


 由紀子の声が、わずかに掠れた。


「私たちが変えた歴史が、原爆を早めてる」


     ◇


 未来予測は、さらに別の可能性を表示した。


 米軍損害予測。


 戦争継続期間。


 新兵器投入優先度。


 どの数値も、史実より悪化している。


 日本軍が強くなった。


 Phantomが現れた。


 その結果、アメリカは通常兵器の限界を早く知った。


 そして、通常ではない兵器へ向かい始めた。


 千鶴が呟いた。


「慎一さんが人を救うたびに……」


 言葉が続かない。


 さゆりが、その先を引き取った。


「原爆が近づいてくる」


 誰も否定できなかった。


 救うことと、未来を救うことは同じではない。


 守ることと、歴史を正すことも同じではない。


 たった一機の零戦。


 どれほど速くても。


 どれほど強くても。


 どれほど多くの命を救っても。


 歴史という巨大な波を、一機だけで押し返すことはできない。


 むしろ、その翼が起こした風が、別の波を大きくしている。


 良太が両手を机についた。


「京子たちに伝えないと」


 由紀子はすぐには頷かなかった。


「どう伝えるの」


「事実を」


「その事実を知ったら、一登さんはどう思う?」


 室内が静まる。


 自分が救ってきた命。


 自分が守ってきた船。


 そのすべてが、原爆を早める要因になっている。


 それを知っても、彼は同じように飛べるのか。


 さゆりが苦しそうに言った。


「でも、隠すわけにはいかない」


「分かってる」


 由紀子は目を閉じた。


「分かってるわ」


     ◇


 監視室の中央で、警告表示が変わった。


 完成予測時期。


 さらに一日、前倒し。


 千鶴が息を止める。


「また……」


 その時。


 室内の照明が、わずかに落ちた。


 誰も操作していない。


 壁一面の画面が、静かに暗くなる。


 中央に、白い光だけが残った。


 由紀子たちは顔を上げた。


 声が響いた。


 冷たくもなく。


 温かくもない。


 ただ、遠い未来そのものが語るような声。


「未来が揺らいでいます」


 NOVAだった。


 誰も返事をしなかった。


 返す言葉がなかった。


 画面の向こうでは、変わり続ける歴史が無数の枝へ分かれている。


 救われる未来。


 失われる未来。


 生まれる命。


 消える命。


 そのすべてが、同時に揺れていた。

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