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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わりゆく歴史編

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青い守護神

第八十一話 青い守護神


 米軍機の一機が、補給船の煙突へ機首を向けた。


 風防の向こうで、黒い船影が大きくなる。


 照準器の輪の中に、先頭の補給船が入った。


『ハリス、投下に入れ』


『了解』


 ハリスの指が、投下レバーへかかった。


 その時だった。


 機体の下から、青い影が突き上がってきた。


「何だ!?」


 海の色をまとった零戦だった。


 低い。


 近い。


 あり得ない角度。


『下だ! 零戦が――』


 主翼が光った!


 連続する低い音。


 ハリス機の胴体が、下から裂けた。


 ランダムに飛んでくる高速の鋼鉄


 後続のコール機の主翼根元が吹き飛ぶ。


 連射は止まらなかった。


 マーティン機のエンジンが砕け、プロペラが空中へ跳ねた。


 三機が、ほとんど同時に崩れた。


 爆弾を抱えたまま、海へ落ちていく。


『ハリスがやられた!』


『コールもだ!』


『マーティン、応答しろ!』


『何が起きた!?』


『下から来た!』


『海から零戦が出た!』


『馬鹿な!』


 薄いマリンブルーの零戦は、そのまま米軍編隊の腹を突き抜けた。


 止まらない。


 迷わない。


 空へ駆け上がる。


 米軍機の風防から、その機体は一瞬だけ青空に溶けた。


『どこへ行った!』


『上だ!』


 叫びが終わる前に、青い零戦が反転した。


 今度は、上から来た。


 補給船へ向かっていた三機の背に、機首が重なる。


 レールガン。


 低い連射音!


 一機目が、背中から裂けた。


 二機目の翼が折れた。


 三機目の胴体が弾けた。


 三つの黒煙が、補給船団の手前に散った。


 爆弾は、どれも船に届かなかった。


『また三機やられた!』


『上からだ!』


『下から来て、上から撃った!』


『あれは普通の零戦じゃない!』


『Phantomだ!』



 補給船の甲板では、見張り員が空を見上げていた。


 敵機が降ってきた。


 もう駄目だと思った。


 その瞬間、海から零戦が現れた。


 そして、空へ上がり、また敵を落とした。


 何が起きているのか、分からない。


 ただ一つだけ分かる。


 船は、まだ沈んでいない。


「守護神……」


 誰かが呟いた。


 その声は、波と爆音の中に消えた。


      ◇


 米軍編隊は崩れた。


 攻撃隊は、もう攻撃隊ではなかった。


『駄目だ! 離脱しろ!』


『補給船は諦めろ!』


『生きて帰れ!』


『ウォレス、リード、北へ逃げろ!』


『ベネット、雲に入れ!』


 残った米軍機が、一斉に機首を返した。


 海へ逃げる機。


 雲へ向かう機。


 高度を落とす機。


 誰も、もう船を見ていなかった。



 薄いマリンブルーの零戦は、追いすがらなかった。


 普通の速度で、後ろにつく。


 距離が開く。



『離れてる!』


『このまま逃げ切れる!』


『奴は追ってこない!』



 慎一は離れて行く機体を見ていた、風防の向こうで、敵機が小さくなる。


 一機。


 また一機。


 青い空の中へ逃げていく。


 慎一は射線を合わせて行く。


 機首が、静かに一機に向いた。


「すまない、、」


 トリガーを押す!


 遠くの機体が、白く弾けた。



『ベネットがやられた!』


『何だと!?』


『距離があるぞ!』



 次の機体が右へ逃げて行く。


 機首をわずかに右へ振る。


 トリガー!


 遠くで、もう一機が炸裂した。



『リード!応答しろ、』


『リード!』


 返事はない。


 米軍機の逃げ足が乱れた。


 まっすぐ逃げれば撃たれる。


 そう思った一機が蛇行する。


 慎一にはその動きが止まって見えた。


 慎一はまたトリガーを押した。


 高初速の鋼鉄が一直線に飛んで行く!



 翼が折れた。


 米軍機は、海へ向かって落ちていった。


『ありえない……』


 最後の一機が呟いた。


『追ってこないのに……落とされる』


 その声は、ひどく近く聞こえた。


 管制側が叫ぶ。


『ウォレス、現在位置を知らせろ!』


『駄目だ』


『何が駄目なんだ!』


『もう、こっちを向いてる』


 ウォレスは後ろを見た。


 青い零戦は遠い。


 点にしか見えない。


 だが、機首がこちらを向いている。


 それだけは分かった。


『Phantomが――』


 機体を何かが突き抜けた!


 通信は途切れた。


 最後の米軍機は、空中で砕けた。


 破片が光を受けながら、海へ落ちていく。


      ◇


 空が静かになった。


 米軍機のエンジン音は、もうない。


 補給船団の周囲には、黒煙だけが残っていた。


 慎一は、周囲を一度だけ確認した。


 敵影なし。


 船団、健在。


 護衛零戦、残存。


『米軍機反応、消えました』


 はるみの声が入った。


 少し震えていた。


『慎一、帰投してください』


 京子の声は落ち着いていた。


 だが、わずかに柔らかかった。


「ああ」


 慎一は短く答えた。


 薄いマリンブルーの零戦は、補給船団の上を一度だけ回った。


 

 その零戦は船団が無事であることを確かめるように飛んでいる。


 甲板の兵たちが、空を見上げていた。


 帽子を振る者がいた。


 敬礼する者がいた。


 座り込んだまま、動けない者もいた。


 慎一は何も返さなかった。


 機首を未来基地へ向ける。


 

 やがて、慎一の機体は船からも見えなくなった。


 それから慎一は高度を落とす。


 波のすぐ上で、青い機体が水面を滑っていた。




「助かった」


 隣の兵が、低く言った。


「守護神だ」


 誰も否定しなかった。


      ◇


 未来基地の監視室では、表示板から米軍機の反応がすべて消えていた。


 美希が、小さく息を吐く。


「全部……落ちました」


 幸雄は腕を組んだまま、表示板を見ていた。


「落とさなきゃ、また船を狙う」


 京子は黙っていた。


 帰還機なし。


 目撃報告なし。


 残るのは、途切れた無線交信だけ。


 海から来た。


 青い零戦。


 Phantom。


 追ってこないのに落とされる。


 その言葉だけが、米軍の記録に残る。


「また、歴史が動くわね」


 京子が小さく言った。


 幸雄は短く答えた。


「もう動いてる」


      ◇


 薄いマリンブルーの零戦は、島の近くまで海面滑空を続けた。


 海と空の境界を、静かに戻ってくる。


 やがて、白い砂浜が見えた。


 草地が見えた。


 あの日、三上慎一が不時着した場所。


 慎一は速度を落とした。


 砂浜を越えブッシュの上を、滑る。


 そして着地点で静止した。


 主脚が展開する。


 草地の上で、零戦は静かに接地した。


 栄改の回転が落ちる。


 プロペラがゆっくり止まる。


 風だけが、草を揺らしていた。


 慎一は風防を開けた。


 潮の匂いがした。


「ただいま」


 通信の向こうで、京子が静かに答えた。


『お帰りなさい』


 慎一は操縦席から降り、薄いマリンブルーの主翼に手を置いた。


 海から来て、海へ帰る零戦、それは、もう以前の機体ではなかった。

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