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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わりゆく歴史編

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水面の幻影

第七十九話 水面の幻影


 未来基地の会議室には、昨日とは違う重さがあった。


 米軍偵察機は通り過ぎた。


 未来基地は見つからなかった。


 だが、見られなかったわけではない。


 京子は表示板に、昨日の偵察機の航跡を映し出した。


「今回の件で、はっきりしました」


 赤い線が、無人島のすぐ近くをかすめている。


「米軍は、この海域に目を向け始めています」


 慎一は腕を組んだまま、それを見ていた。


 幸雄は椅子にもたれ、いつになく真面目な顔をしている。


 はるみは端末を抱え、美希はその横で少しだけ背筋を伸ばしていた。


「基地そのものは見つかっていません」


 京子は続けた。


「でも、次も同じとは限らない」


「つまり」


 慎一が言った。


「今まで通りには飛べない、ということか」


「飛べます」


 京子は即答した。


「ただし、やり方を変えます」


 幸雄が、そこでにやりと笑った。


「機体も変える」


 美希がぱちりと瞬きをした。


「えっ、模様替えですか?」


「違う」


「じゃあ、おしゃれ改修ですか?」


「もっと違う」


「でも色を変えるんですよね?」


「そうだ」


「やっぱりおしゃれでは」


「軍事目的だ」


 幸雄が低く言うと、美希は小さく頷いた。


「なるほど。おしゃれ軍事目的ですね」


「混ぜるな」


 慎一が少しだけ笑った。


 その空気が一瞬だけ柔らかくなったが、京子はすぐに表示板を切り替えた。


 そこに映ったのは、零戦の三面図だった。


 見慣れた濃緑色の機体。


 長く戦場を飛んできた、薄汚れた零戦。


 だが、その隣に、もう一つの機体図が表示された。


 上面は、薄いマリンブルー。


 下面は、従来通りの明灰白色。


 形は零戦のまま。


 しかし印象はまるで違っていた。


「これが新しい塗装案です」


 京子が言った。


「上面は薄いマリンブルー。海面滑空時、上空からの視認性を下げます」


 幸雄が続けた。


「腹は今まで通りの明灰白色だ。零戦らしさは消さん」


「でも、ただの塗装じゃない」


 はるみが端末を操作する。


 機体図の表面に、細かな層が重なって表示された。


「機体全体に、電波吸収コーティングを施します。上面も下面も同じです」


「ステルス塗装か」


 慎一が言った。


「そうです」


 京子は頷く。


「当時のレーダーは、低空目標に弱い。そこへ海面滑空と電波吸収コーティングを合わせれば、発見される可能性をかなり下げられます」


 幸雄が腕を組む。


「敵も学習する。なら、こっちも学習すればいい」


 その言葉に、慎一は小さく頷いた。


 昨日、偵察機は通り過ぎた。


 何もない島だと判断した。


 だが、それは偶然ではない。


 米軍は探しに来たのだ。


 ならば次は、こちらが変わる番だった。


「もう一つ」


 京子が表示板を切り替える。


 無人島から伸びる青い線。


 それは、これまでのようにすぐ上空へ向かっていなかった。


 島から海へ出て、そのまま海面沿いに長く伸びている。


「発進手順を変更します」


 美希が小さく首を傾げた。


「発進なのに、線が海を走ってます」


「そうよ」


 京子は静かに答えた。


「これからのゼロは、基地の近くでは上昇しません」


 幸雄が笑った。


「空から出るんじゃない」


 慎一が、表示板を見つめる。


 幸雄は短く言った。


「海から出る」


 会議室が静かになった。


 それは飛行機の話ではないように聞こえた。


 だが、確かに飛行機の話だった。


「栄改は始動しておきます」


 はるみが説明を続ける。


「ただし基地周辺ではアイドリングです。ゼネレーターで電力を確保し、空間磁気コイルを維持します」


 幸雄が指で線をなぞる。


「推進はブースターだ」


「粒子加速噴射ですね」


 美希が少し得意そうに言った。


「よく覚えてたな」


「音がかっこいいので」


「理由が軽い」


「でも大事です」


 美希は真面目な顔で言った。


「シュイィィィンって、絶対かっこいいです」


 慎一が笑いをこらえた。


 京子も、ほんの少しだけ口元を緩める。


「実際、その通りよ」


 美希が目を丸くした。


「えっ、私、正解ですか?」


「音はともかく、方式は正解です」


「やった」


「喜ぶところではありません」


 京子は再び表示板へ向き直った。


「空間磁気コイルで機体を一定高度に支えます。海面すれすれでも墜落の危険はありません」


 幸雄が続ける。


「普通の低空飛行じゃない。言うなら、水面滑空だ」


「水面滑空……」


 慎一は、その言葉を静かに繰り返した。


 零戦が、空ではなく海を滑る。


 それは、今までの発進とはまるで違う。


 だが、理屈は通っていた。


 基地周辺で上昇しなければ、発進地点を推定されにくい。


 海面すれすれを飛べば、レーダーにも拾われにくい。


 薄いマリンブルーの機体は、海と空の境界に溶け込む。


 そして十分に離れたところで、初めて栄改を本格的に回す。


 その時、Phantomは海から浮上する。


「潜航みたいですね」


 美希がぽつりと言った。


 幸雄が少しだけ目を細める。


「珍しく、いい表現だ」


「珍しくって何ですか」


「そのままの意味だ」


 慎一は表示板を見たまま言った。


「潜航して、浮上する零戦か」


 京子が頷く。


「敵から見れば、突然海面から現れることになります」


「まさにPhantomだな」


 慎一がそう言うと、会議室はしばらく静かになった。


 それは、ただの改修ではなかった。


 昨日の危機が、零戦の運用そのものを変えようとしていた。


      ◇


 格納庫では、零戦が静かに整備台へ固定されていた。


 ミッドウェーまでを戦い抜いた機体。


 濃緑色の表面には、排気の煤が残り、補修跡もある。


 長く戦った証だった。


 慎一は、その機体をしばらく黙って見ていた。


「寂しいか」


 幸雄が横から声をかける。


「少しな」


 慎一は正直に答えた。


「こいつは、この姿でずいぶん飛んだからな」


「だが、これからの戦場には合わん」


「ああ」


 慎一は頷いた。


「分かってる」


 幸雄は壁の操作パネルに触れた。


 未来基地の自動アームが動き出す。


 古い塗装が剥離され、表面が整えられていく。


 次に、透明に近い下地コーティング。


 さらに、電波吸収性の微粒子を含んだ塗装層。


 上面には、薄いマリンブルー。


 濃すぎない。


 青すぎない。


 海と空の境界に溶けるような色。


 下面には、従来の明灰白色。


 零戦の輪郭は残る。


 だが、そこにいる機体は、もう以前の零戦ではなかった。


 数時間後。


 格納庫の照明が一段落とされた。


 そして、整備台のロックが外れる。


 慎一は一歩前へ出た。


 薄いマリンブルーの零戦が、そこにあった。


 汚れはない。


 煤もない。


 補修跡も見えない。


 まるで、たった今この世界に生まれたばかりの機体のようだった。


「……これが」


 慎一は小さく呟いた。


「俺の零戦か」


 幸雄が笑った。


「見た目は新品だ」


 少し間を置いて、


「中身は同じだがな」


 美希が両手を胸の前で合わせた。


「きれい……」


 はるみも、端末を抱えたまま見入っている。


「本当に、海の色ですね」


 京子は静かに零戦を見つめていた。


「これが、これからの私たちのゼロ」


 その言葉に、慎一は改めて機体を見た。


 もはや、三上の零戦かどうかではない。


 この機体は、戦場を生き延び、傷つき、改修され、未来基地の手で育てられてきた。


 そして今、また新しい形へ進化した。


 零戦であり、


 零戦ではない。


 だが、確かに慎一の機体だった。


      ◇


 いつもの離陸点、そこには薄いマリンブルーの機体がブッシュの中に浮き上がっていた。


「とりあえず試験飛行だ」


 幸雄が言った。


 慎一は操縦席に乗り込んだ。


 薄いマリンブルーの主翼が、夕暮れの光を柔らかく受けている。


「行って来い、慎一」


「ああ」


 彼は小さく笑った。


「ちょっと行ってくる」


 キャノピーが静かに閉まる。


 計器類が順に点灯する。


 栄改が目を覚ました。


 低いアイドリング音。


 以前のように力強く吠えるのではない。


 今はただ、静かに回っている。


 その回転でゼネレーターが発電し、機体各部へ電力を送る。


「周辺区域、異常なし」


 はるみの声が通信に入る。


「偵察機影なし。発進可能です」


 京子が頷いた。


「空間磁気コイル、正常」


 独特の静かな唸り音とともに零戦が、ふわりと草地から浮き上がった。


 およそ二メートル。


 主脚がゆっくりと格納される。


 幸雄がモニターを見ながら短く言った。


「粒子加速噴射を起動しろ」


「了解」


 シュイィィィン……。


 細く、鋭い音が響いた。


 粒子加速された排ガスが膨張し、逃げ場を失って後方から爆発的に飛び出す。


 何かが燃える音でもない。


 空気そのものが薄く切られるような、未来の音だった。


 零戦は、ブッシュの上を滑り始めた。


 草の先端が、機体の下で小さく揺れる。


 白い砂浜を越える。


 その先に、青い海が広がっていた。


 零戦はそのまま水面へ出る。


 シャーーーーッ。


 波間を音もなく滑るように、薄いマリンブルーの零戦が海面すれすれを走り始めた。


 基地のモニターに、海を走る零戦の姿が映る。


 前から見れば、高速の青いエッジ。


 横から見れば、海面を滑る青い翼。


 上から見れば、青い海に溶け込む幻


 誰も声を出さなかった。


 美希だけが、小さく呟いた。


「……かっこいい」


 幸雄が満足そうに笑う。


「だろうな」


 

 慎一がブースターの出力を上げるとその速度は500キロを軽く超えて行く。


 零戦はあっという間に十キロを越えた。


 慎一は水平線を見据える。


 ここから先は、海面滑空ではない。


 彼の右手が、静かにスロットルレバーを押し込んだ。


 栄改の回転が上がる。


 低い唸りが機体を包む。


 水面を滑っていた零戦が、機首を持ち上げた。


 まるで海面を蹴るように。


 滑空の痕跡も残さず何もない海から薄いマリンブルーのゼロは青空へ一気に駆け上がっていった。


 京子は、その姿を見送った。


「成功ね」


 幸雄が腕を組んだまま答える。


「ああ」


 そして、にやりと笑った。


「これなら、見つからん」


 それは海と空の境界から現れる、新しいPhantomだった。


 それはもう、ただ飛ぶ零戦では無い、潜航し、浮上する。


 水面の幻影だった。

新しい出撃体系で無双の形が変わります。

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