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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
ファントムハンター編

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戦果報告

第六十六話 戦果報告


 アメリカ艦隊は、ミッドウェーの海から距離を取り始めていた。


 完全な退却ではない。


 だが、追撃でもない。


 ヨークタウンを守り、残った攻撃隊を回収し、そして何より、Phantom という異常な敵から一度目を離さなければならなかった。


 海の上には、まだ煙が残っている。


 遠くには日本空母、赤城が沈んだ海域。


 別の方角には、黒煙を上げるヨークタウン。


 そして空には、帰ってくるはずだった機体の穴が、ぽっかりと空いていた。


     ◇


 ヨークタウンの艦内では、被害報告が途切れなかった。


「飛行甲板、損傷!」


「消火班、前部へ!」


「負傷者を下げろ!」


「格納庫内、確認急げ!」


 甲板には黒い焦げ跡が走り、消火の水が油と混ざって流れていた。


 沈んではいない。


 だが、無傷ではない。


 それが、艦内の全員に重くのしかかっていた。


 ハーパーは甲板上空を旋回していた。


 リチャードが横につく。


 どちらも黙っていた。


 ヨークタウンは生きている。


 だが、飛龍の艦爆隊は届いた。


 自分たちは、それを完全には止められなかった。


「……被害状況は」


 ハーパーが無線に訊いた。


『飛行甲板に損傷。火災発生。ただし航行は可能』


「沈むのか」


『現時点では沈没の恐れなし』


 ハーパーは短く息を吐いた。


 助かった。


 そう思うべきだった。


 だが、胸の中に残ったのは安堵ではなかった。


 苛立ちだった。


 あの時、ファントムを追っていれば。


 いや、違う。


 追っていれば、ヨークタウンはもっとやられていた。


 ならば判断は間違っていない。


 だが、正しい判断をしても、守りきれなかった。


 それが、ハーパーの中に重く残っていた。


     ◇


 艦隊司令部に、戦果と損害の報告が集まり始めた。


 赤城。


 沈没。


 その報告が入った時、部屋の中にわずかなざわめきが走った。


 日本機動部隊の旗艦。


 史実通りなら、ここで沈むべき艦。


 それを沈めた。


 その一点だけを見れば、アメリカ軍は確かに戦果を上げていた。


 だが、次の報告が空気を冷やした。


「蒼龍、沈没確認なし」


「加賀、健在」


「飛龍、健在」


「翔鶴、健在」


「瑞鶴、健在」


 誰も声を出さなかった。


 日本空母六隻のうち、沈めたのは一隻。


 損傷を与えた艦はある。


 だが、壊滅にはほど遠い。


 サッチ少佐は、机の上の報告書を見つめていた。


「攻撃隊の損害は」


 士官が紙をめくる。


「第一波、赤城および蒼龍方面で多数損失」


 声が少しだけ詰まる。


「第二波、編隊崩壊。複数機が爆弾および魚雷を投下できず帰投」


「ミッドウェー島発進隊は」


「一部が撤退。損害多数。攻撃継続不能との報告」


 サッチは目を閉じた。


 戦果はある。


 赤城を沈めた。


 ヨークタウンは生き残った。


 だが、攻撃隊は深く削られた。


 何より、Phantom は落ちていない。


「Phantom の損傷は」


 その問いに、誰もすぐには答えなかった。


 やがて、別の士官が言った。


「確認できません」


「命中報告は」


「ハーパー中尉が接近戦で射線を作りましたが、命中は未確認」


「つまり」


 サッチは低く言った。


「奴は無傷か」


 返事はなかった。


 返事がないことが、答えだった。


     ◇


 部屋の隅で、介入者は黙っていた。


 彼の前にも、同じ報告が置かれている。


 赤城沈没。


 ヨークタウン損傷。


 日本空母五隻残存。


 米攻撃隊損害甚大。


 Phantom 健在。


 彼は、その文字列をじっと見ていた。


 結果だけを見れば、歴史は半分だけ進んだ。


 赤城は沈んだ。


 だが、日本機動部隊は沈んでいない。


 そして、Phantom はまだ空にいる。


 それは、小さな違いではなかった。


 たった一機の零戦が、戦場の針を曲げた。


 曲げた針は、もう元の場所には戻らない。


「どう見る」


 サッチが訊いた。


 介入者は顔を上げた。


「勝利ではありません」


 その言葉に、士官の一人が眉を寄せた。


「赤城を沈めたのだぞ」


「ええ」


 介入者は静かに頷いた。


「ですが、日本の航空戦力は残っています。飛龍も、加賀も、翔鶴も、瑞鶴も」


「蒼龍は」


「飛べないかもしれません。ですが、沈んではいない」


 サッチは腕を組んだ。


「では、敗北か」


「それも違います」


 介入者は報告書へ視線を落とした。


「アメリカは赤城を沈め、ヨークタウンを失わなかった。ですが、攻撃隊を大きく失った。日本は赤城を失い、ヨークタウンに傷を負わせた。ですが、機動部隊はまだ残っている」


 彼は一度言葉を切った。


「つまり、どちらも勝っていません」


 部屋が静まり返った。


 その表現は、奇妙だった。


 戦争には勝敗がある。


 作戦には成功と失敗がある。


 だが、今この海で起きたことは、そのどちらにも収まりきらなかった。


 サッチは低く言った。


「ならば、何だ」


 介入者は答えた。


「分岐です」


     ◇


 ハーパーはヨークタウン上空を離れ、帰投する攻撃隊を誘導していた。


 戻ってくる機体は少なかった。


 ある機体は主翼に穴を開けていた。


 ある機体は脚を出せないまま、海面へ不時着した。


 ある機体は爆弾を抱えたまま戻ってきた。


 投下できなかったのだ。


 攻撃隊として飛び立ち、目標へ届く前に形を失った。


 その理由を、誰もが知っていた。


 Phantom。


 見えない距離から撃つ零戦。


 追ってこない。


 だが落とす。


 空のどこかに据えられた砲台のように、攻撃線だけを切っていく。


 ハーパーは拳を握った。


「リチャード」


「何だ」


「次は、もっと近づく」


 リチャードはすぐには答えなかった。


「死ぬぞ」


「近づきすぎればな」


「近づかなければ撃てない」


「ああ」


 ハーパーは遠くの空を見た。


 もうファントムの姿は見えない。


 だが、あの零戦がいた空だけは、まだ違って見えた。


「だから、死なない距離を探す」


 リチャードは小さく笑った。


「そんな距離があるのか」


「探すしかない」


 ハーパーの声は静かだった。


「今日、俺たちは見た。奴にも守るものがある。奴は全部を追わない。全部を撃たない。守る場所を選ぶ」


「それが弱点か」


「分からん」


 ハーパーは短く答えた。


「だが、手がかりだ」


     ◇


 サッチ少佐は、最後の報告を読み終えた。


 机の上には、赤と黒の線が引かれた海図がある。


 日本機動部隊。


 米空母。


 ミッドウェー島。


 ヨークタウン。


 そして、Phantom が現れた空域。


 その動きは、普通の戦闘機の航跡ではなかった。


 攻撃隊の進路を削る線。


 艦隊を守るための線。


 ハーパーとリチャードを引きつけた線。


 そして、追わずに見逃した線。


 サッチは、その一本一本を見つめた。


「奴は、単に強いだけではない」


 誰に言うでもなく呟いた。


「戦場を選んでいる」


 介入者は黙っていた。


 サッチは顔を上げる。


「次に奴が守るものは何だ」


 介入者は答えない。


 答えられないのか。


 答えないのか。


 サッチには分からなかった。


 だが、ひとつだけ分かった。


 今日のミッドウェーは、終わった。


 しかし、Phantom との戦いは終わっていない。


 赤城は沈んだ。


 ヨークタウンは燃えた。


 攻撃隊は削られた。


 日本機動部隊は残った。


 そして、幽霊はまだ空にいる。


 サッチは静かに報告書を閉じた。


「次の戦いは、今日より厄介になるな」


 誰も否定しなかった。


 海の向こうで、夕陽が沈み始めていた。


 その赤い光は、燃える艦の火にも、沈む太陽にも見えた。


 ミッドウェーの海は、勝者を決めないまま、静かに暮れていった。

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