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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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大空の波

第五十七話 大空の波


「見つけた」


 慎一は、一万メートルの高空で呟いた。


 眼下には、太平洋が広がっている。


 海と空の境目は、まっすぐではない。


 わずかに丸い。


 その青い曲線の下を、敵編隊がいくつも動いていた。


 一つではない。


 四つ。


 いや、六つ。


 米軍は、日本機動部隊を複数の方向から同時に叩くつもりだった。


 一機の守護神では、すべてを守り切れない。


 そう考えたのだろう。


 慎一は、じっと敵の流れを見た。


 全部は追わない。


 全部を追えば、間に合わない。


 どの一群を崩せば、攻撃全体が乱れるか。


 どの編隊が、もっとも早く艦隊へ届くか。


 その中で、一つの編隊が目に留まった。


 約三十機。


 高度は六千メートルほど。


 護衛戦闘機を前に置き、その後ろに攻撃機を抱えている。


 隊形は整っていた。


 速度もある。


 針路も迷っていない。


 だからこそ、危険だった。


「まず、あれだ」


 慎一は機首を下げた。


 高度一万メートルから、六千メートルの敵へ。


 四千メートルの高度差を、速度へ変える。


 零戦は、空から落ちた。


 いや、落下ではない。


 敵編隊へ向かって、一直線に駆け降りた。


     ◇


 米軍編隊の一機が、最初に異変に気づいた。


 影。


 上だ。


 遥か上空から、黒い点が落ちてくる。


「上だ!」


 無線に声が走った。


「上方に機影!」


「一機だ!」


 誰かが機首を上げようとした。


 遅い。


 その影は、すでに零戦の形になっていた。


 敵から見れば、それは正面から来たのではなかった。


 空そのものが、上から落ちてきたように見えた。


「まさか……」


 その言葉が終わる前に、慎一の零戦は射程に入っていた。


 米軍機の機銃は届かない。


 だが、慎一のレールガンは届く。


     ◇


 慎一は敵の先頭を狙わなかった。


 狙うのは中央。


 そこを抜けば、編隊は割れる。


 攻撃機を守る形も崩れる。


 爆撃どころではなくなる。


 慎一は引き金を引いた。


 ガガガガガガガガガガッ!!


 レールガンが吠えた。


 鋼鉄弾が、上方から敵編隊の中央を貫く。


 一機目が砕けた。


 二機目の翼が折れた。


 三機目が火を噴く。


 四機目が爆ぜる。


 弾道は止まらない。


 五機。


 六機。


 七機。


 八機。


 九機。


 十機。


 ほんの数秒だった。


 整っていた編隊の腹に、巨大な穴が開いた。


 黒煙が広がる。


 破片が散る。


 炎を吹いた機体が、次々と落ちていく。


     ◇


「Phantomだ!」


 誰かが叫んだ。


 それは命令ではなかった。


 悲鳴だった。


「Phantomだ!」


「散れ!」


「散れぇぇぇ!」


 編隊は割れた。


 右へ。


 左へ。


 上へ。


 下へ。


 生き残った機体が、ばらばらに逃げる。


 攻撃隊としての形は、もうなかった。


 目標へ向かう進路も消えた。


 彼らの頭にあるのは、ただ一つ。


 あの零戦から逃げること。


     ◇


 慎一は、散っていく敵を見た。


 第一撃は成功した。


 だが、終わりではない。


 まだ二十機近い。


 しかも、散った敵は弱くなったわけではなかった。


 追い詰められた敵は、時に一番危険になる。


 右から二機。


 左下から一機。


 上方から三機。


 逃げながらも、何機かは反撃の姿勢を取っている。


 慎一は敵の射線を見た。


 弾が来る場所ではない。


 弾が来ない場所を見る。


 零戦が滑るように横へ流れた。


 三本の射線が、慎一のいた空間を切り裂く。


 そこに零戦はもういない。


 慎一は機首をわずかに下げた。


 視界の端に一機が入る。


 ガガッ!


 短い連射。


 敵機が火を噴いた。


 すぐに機体を返す。


 次は上。


 逃げる敵ではない。


 慎一へ向かってくる敵だ。


 慎一はわずかに目を細めた。


 敵も考えている。


 恐怖に負けているだけではない。


 だから油断できない。


 零戦は、空中で身をひねるように向きを変えた。


 旋回ではない。


 機体の向きだけを先に置く。


 そこへ敵が入ってくる。


 ガガガッ!


 二機目が落ちた。


     ◇


 米軍のパイロットたちは混乱していた。


 速い。


 だが、速いだけではない。


 曲がる。


 だが、旋回しているようには見えない。


 落ちる。


 だが、落下ではない。


 上がる。


 だが、上昇の途中でもう射線が置かれている。


「どこに行った!」


「追うな! 追うな!」


「射線に入るな!」


 叫びが重なる。


 だが、見失った時には遅い。


 Phantomは、彼らが見ている空にはいない。


 次に現れるのは、彼らが見ていなかった場所だった。


     ◇


 三機が同時に慎一へ向かった。


 一機ずつでは勝てない。


 ならば射線を重ねる。


 慎一は、その意図を読んだ。


 零戦が沈む。


 落ちたのではない。


 空間を外した。


 三本の機銃弾が、慎一のいた場所を貫く。


 次の瞬間、慎一は下から機首を上げる。


 敵の腹が見えた。


 ガガガガッ!


 一機が爆ぜた。


 残る二機が左右へ逃げる。


 慎一は追わない。


 追えば、別の射線に入る。


 今は撃墜戦ではない。


 艦隊へ向かう流れを断つ戦いだ。


 慎一は、再び艦隊方向へ向かおうとする一群を見つけた。


「行かせるか」


 栄改が唸る。


 零戦が加速した。


     ◇


 下方では、日本の零戦隊が上がってきていた。


 飛龍。


 加賀。


 翔鶴。


 瑞鶴。


 それぞれの空母から飛び立った零戦が、高度を取ろうとしている。


 彼らは見た。


 遥か上空で、敵編隊が崩れていくのを。


 炎。


 黒煙。


 落下する機体。


 そして、その中心を切り裂く一機の零戦。


「守護神だ……」


 誰かが呟いた。


 だが、彼らが見ていたのは一つの戦場だけだった。


 別の空から、ヨークタウン発進の戦闘機隊が近づいている。


 さらに別方向から、二機のムスタングが合流しようとしていた。


 その二機の意味を、日本側はまだ知らない。


     ◇


 慎一は、最後に艦隊へ向かおうとした敵機を捉えた。


 ガガッ!


 短く撃つ。


 敵機は黒煙を引いて落ちていく。


 最初に選んだ三十機の編隊は、もう編隊ではなかった。


 十機は最初の一撃で消えた。


 残った機体も散り散りになり、何機かは落ち、何機かは戦場から離れようとしている。


 この一群は、日本艦隊へ届かない。


 慎一は大きく息を吐いた。


 勝ったわけではない。


 ひとつ潰しただけだ。


 敵はまだいる。


 戦場はまだ終わっていない。


 だが、今この瞬間、日本機動部隊へ向かう一つの牙は折れた。


 慎一は機体を立て直し、遠くの空を見た。


 そこでは、もう一つの戦いが始まろうとしていた。

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