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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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報告

第四十九話 報告


 ハーパーのムスタングは、滑走路に荒く降りた。


 接地した瞬間、主脚がわずかに跳ねる。


 機体が左右に振れた。


 整備兵が思わず身を引く。


 ハーパーは操縦桿を押さえ込み、必死に機体をまっすぐに戻した。


 ブレーキ。


 減速。


 プロペラの回転が落ちる。


 ようやく機体が止まった時、ハーパーはすぐには動けなかった。


 両手が、まだ操縦桿を握っている。


 力を抜こうとしても、指が開かない。


「ハーパー中尉!」


 整備兵の声が聞こえた。


 だが返事ができなかった。


 喉が乾いていた。


 息が浅い。


 耳の奥には、まだあの音にならない衝撃が残っていた。


 見えない線。


 空を削り取るような連射。


 そして、後方で爆散していった機体。


 ハーパーはようやく風防を開けた。


 外の空気が流れ込む。


 それでも、冷たい汗は止まらなかった。


「中尉、大丈夫ですか」


 整備兵が機体によじ登る。


 ハーパーはゆっくりと顔を上げた。


「サッチ少佐に……」


 声がかすれた。


「すぐに報告する」


     ◇


 報告室には、重い空気が流れていた。


 机の上には、外周哨戒の記録が並べられている。


 生還したのは、ハーパーと僚機の一機。


 しかし、同じ哨戒線上にいた別の機体は戻らなかった。


 通信は途中で途切れている。


 最後に残っていたのは、短い悲鳴と、理解不能な雑音だけだった。


 サッチ少佐は、腕を組んだままハーパーを見ていた。


「報告を」


 ハーパーは敬礼した。


 だが、その姿勢はいつもより固かった。


「ミッドウェー北西外周空域にて、Phantomを視認しました」


 室内の空気が変わる。


 誰も笑わない。


 誰も否定しない。


 その名は、もう冗談ではなくなっていた。


「機体は零戦」


 ハーパーは続けた。


「単機。高度を保ち、こちらへ接近するでもなく、逃げるでもなく、空域に留まっていました」


「待っていたのか」


 サッチが言った。


「はい」


 ハーパーは即答した。


「こちらが見つけたのではありません。あちらが、最初からそこにいたのです」


 サッチは黙っていた。


 机の上の海図。


 ミッドウェー北西外周。


 そこに鉛筆で小さく印をつける。


「交戦したのか」


「こちらからはしていません」


「では、向こうが撃った」


「はい」


 ハーパーの声がわずかに低くなる。


「ただし、通常の機銃ではありません」


 技術士官が顔を上げた。


「口径は?」


「分かりません」


「発射炎は?」


「確認できません」


「曳光弾は?」


「見えませんでした」


 技術士官の眉が寄る。


「では、何を見た」


 ハーパーはしばらく黙った。


 見た。


 そう言えるのか。


 あれは見えたのではない。


 通り過ぎた後に、空が裂けていた。


「線です」


 ハーパーは言った。


「見えない線が、こちらの進路を切りました」


 室内が静まり返る。


「音は後から来ました。いや、音というより衝撃です。一発ではありません。連続していました」


 サッチの目が細くなる。


「連射か」


「はい」


 ハーパーは頷いた。


「私と僚機は、左右へ割れて射線から外れました。ですが、後続の機体は間に合いませんでした」


 報告書を持っていた士官が、紙をめくる手を止めた。


 ハーパーは続ける。


「爆発しました」


「燃えたのか」


「違います」


 ハーパーは首を振った。


「撃たれて燃えたのではありません。機体そのものが、内側から砕けたように見えました」


 技術士官が低く呟く。


「内側から……」


「翼が折れたのではない。エンジンが止まったのでもない。機体が形を保てなくなった」


 ハーパーの手が、無意識に握られる。


「あの弾は、当たった場所だけを壊すものではありません。機体全体をばらばらにする」


 サッチは海図から目を離さなかった。


「距離は」


「通常の零戦の有効射程外です」


「確かか」


「確かです」


 ハーパーは強く言った。


「あの距離で零戦の二十ミリが当たるはずがありません。まして、あの精度で連射など不可能です」


 サッチは黙った。


 通常ではない。


 速度。


 射程。


 威力。


 精度。


 そのすべてが、既存の機体性能から外れている。


「追撃は」


 サッチが訊いた。


「ありませんでした」


「追ってこなかったのか」


「はい」


「追えなかった?」


「いいえ」


 ハーパーは即座に否定した。


「あれは追えました。間違いなく。あの零戦なら、私たちを落とせたはずです」


 サッチの指が、海図の上で止まる。


「では、なぜ追わなかった」


 ハーパーは唇を噛んだ。


 その問いは、帰還の間ずっと頭から離れなかった。


 なぜ追わなかった。


 なぜ撃たなかった。


 なぜ生かした。


「分かりません」


 ハーパーは言った。


「ただ……」


「ただ?」


「あれは、私たちを殺すために撃ったのではない気がします」


 室内の何人かが顔を上げた。


 サッチもハーパーを見た。


「どういう意味だ」


「見せたのです」


 ハーパーは低く言った。


「Phantomは、もう隠していません。こちらに、自分がそこにいることを知らせた」


「威嚇か」


「違います」


 ハーパーは首を振る。


「警告です」


 沈黙。


 その言葉だけが、部屋の中に残った。


 サッチは海図を見た。


 Phantomが現れた位置。


 日本機動部隊の進路。


 ミッドウェー。


 外周哨戒線。


 それらが、一本の線になっていく。


「奴がそこにいたことには意味がある」


 サッチは言った。


「はい」


「そして、こちらにそれを見せた」


「そう思います」


 サッチは深く息を吐いた。


「だが、なぜだ」


 誰も答えなかった。


 技術士官も、参謀も、ハーパーも黙っていた。


 その時だった。


「レールガン」


 低い声がした。


 サッチが振り向く。


 部屋の隅に、一人の男が立っていた。


 軍服ではない。


 士官でもない。


 だが、その場にいる誰も、彼を追い出そうとはしなかった。


 男は、机の上の報告書を見ていた。


 ハーパーは初めて、その男を正面から見た。


 年齢は分かりにくい。


 若くも見える。


 老いても見える。


 ただ、その目だけが妙に静かだった。


 Phantomの報告を聞いても、恐れていない。


 驚いてもいない。


 まるで、最初からその言葉を待っていたようだった。


 サッチが言う。


「今、何と言った」


「レールガンです」


 男は静かに答えた。


「火薬で弾を飛ばす兵器ではありません。電磁力で金属弾を加速させる兵器です」


 技術士官が眉をひそめる。


「電磁力?」


「ええ」


 男は報告書に視線を落とした。


「発射炎が見えない。曳光弾もない。音より先に衝撃が来る。通常弾よりもはるかに高い初速。機体構造を内部から破壊する威力」


 男は顔を上げた。


「報告と合います」


 室内の空気が凍った。


 サッチは男を見つめる。


「なぜ、それを知っている」


 男はすぐには答えなかった。


 代わりに、海図へ歩み寄った。


 ミッドウェー北西外周。


 Phantomが現れた位置。


 男はそこを見下ろし、小さく息を吐いた。


「やはり」


 その声は、誰に向けたものでもなかった。


「向こうにも介入者がいる」


 ハーパーは顔を上げた。


「介入者?」


 男はハーパーを見た。


 その目に、同情はなかった。


 軽蔑もない。


 ただ、遠い時代の何かを見ているような静けさがあった。


「君は生かされた」


 男は言った。


 ハーパーの背筋が冷たくなる。


「なぜ、それを」


「Phantomは君を逃がした。報告を持ち帰らせるために」


 サッチが一歩前に出る。


「何者だ、君は」


 男はサッチを見た。


 そして、答えずに海図へ視線を戻した。


「予定を早める必要があります」


「予定?」


「このままでは、ミッドウェーは史実から外れすぎる」


 その言葉に、部屋の空気が止まった。


 史実。


 その場にいた多くの者には、意味の分からない言葉だった。


 だが、サッチだけは男の表情を見ていた。


 冗談ではない。


 狂人の言葉でもない。


 この男は、何かを知っている。


 Phantomと同じように。


 いや。


 Phantomの向こう側を。


 男は赤い鉛筆を取り、海図の一点に印をつけた。


 ミッドウェー。


 その北西。


 そして、日本機動部隊がやがて進むであろう海域。


「Phantomは、赤城を守るつもりです」


 サッチの目が細くなる。


「赤城?」


「ええ」


 男は静かに言った。


「十時二十分。そこが、彼の狙う場所です」


 誰も動かなかった。


 誰も声を出さなかった。


 ハーパーは、ただ男を見ていた。


 なぜ知っている。


 なぜ、そんなことが言える。


 だが、問いは声にならない。


 サッチは海図を見下ろしたまま、低く言った。


「君は、Phantomの正体を知っているのか」


 男は少しだけ目を伏せた。


「正体は知りません」


 そして、ゆっくりと顔を上げる。


「ですが、目的は分かります」


 男の指が、海図の上を静かに叩いた。


「彼は、ミッドウェーを変えるつもりです」


 ハーパーの喉が乾いた。


 さっき見た零戦。


 海と空の境目に、釘で打ち込まれたようにいた機体。


 追ってこなかった幽霊。


 生かした幽霊。


 その意味が、ようやく形を持ち始める。


 サッチはしばらく黙っていた。


 やがて、海図にもう一つ印をつける。


「ならば」


 サッチの声は、低く、硬かった。


「こちらも変えなければならない」


 男は頷かなかった。


 笑いもしなかった。


 ただ、静かに言った。


「ええ」


 部屋の外では、太平洋の風が窓を揺らしていた。


 ミッドウェーまで、あと四日。


 日本は変わった。


 アメリカも変わった。


 そして今。


 戦場には、もう一人。


 未来を知る者が姿を現そうとしていた。

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― 新着の感想 ―
おお!ついに一方的な無双じゃなくなるのですね!わくわく
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