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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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戦いの後

第三十二話 戦いの後


最初に零戦が不時着した、あの草むら。


京子たちは、いつもの場所で空を見上げていた。


誰も大きな声を出さない。


はるみは両手を胸の前で握り、美希は端末を抱えたまま黙っている。


幸雄は腕を組み、草むらの向こうを睨むように見ていた。


京子だけは、じっと空を見ていた。


やがて、遠くからエンジン音が聞こえてきた。


低く、少し荒い音。


けれど、それは確かに聞き慣れた音だった。


「来た」


幸雄が呟いた。


美希が端末に目を落とし、すぐに顔を上げる。


「識別確認。間違いありません。慎一さんです」


その言葉を聞いた瞬間、はるみの肩から力が抜けた。


「よかった……」


まだ姿は見えない。


だが、空の向こうから近づいてくる音だけで、そこにいる全員が分かっていた。


あの零戦だ。


米軍がPhantomと呼び、日本の船団が守護神と呼び始めた機体。


けれど、今ここで待っている者たちにとって、それは伝説ではなかった。


慎一が乗っている零戦だった。


夕暮れの空に、黒い点が現れた。


それはすぐに翼の形になり、低く、草むらの方へ降りてくる。


主脚は出ていない。


零戦は滑走路を使うのではなく、草の上を撫でるように進入してきた。


ブッシュの先端が風圧で揺れる。


機体は地面すれすれを滑るように流れ、そのまま、あり得ないほど静かに速度を落としていく。


やがて、零戦は草むらの上でぴたりと止まった。


それから主脚が降りる。


機体は、誰かにそっと置かれたように、ふわりと地面に触れた。


エンジン音が止まる。


急に、虫の声が戻ってきた。


風防が開いた。


慎一が、操縦席から身を乗り出す。


「……ただいま」


その声を聞いた瞬間、美希が駆け出した。


「慎一さん!」


「おい、走るな。転ぶぞ」


幸雄が言ったが、美希は聞いていない。


はるみも後を追いかけた。


慎一が機体から降りると、足元の草が少し沈んだ。


彼は零戦から数歩離れ、振り返る。


「移動してくれ」


小さな声だった。


次の瞬間、零戦の周囲の空気がわずかに歪んだ。


青白い光が機体を包む。


慎一だけを草むらに残し、零戦は音もなく消えた。


格納庫へ転送されたのだ。


慎一は、何もなくなった草むらを見つめて、少しだけ息を吐いた。


「本当に、とんでもない技術だな」


横で幸雄がぼそりと言った。


「今更かよ」


慎一は思わず笑った。


その笑いが出たことで、ようやく自分が帰ってきたのだと分かった。


美希が目前まで来て、端末を抱えたまま止まる。


「三十機ですって。米軍の通信、完全に混乱してます。Phantomが出た、Phantomが本当にいたって、もう大騒ぎです」


「そうか」


慎一は軽く肩を回した。


「まあ、脅かせたなら十分だな」


「十分どころじゃありませんよ」


はるみが目を赤くしたまま言った。


「輸送船団の人たち、何度も言ってました。守護神だって。あの零戦が守ってくれたって」


慎一は少し困ったように笑った。


「神様じゃない。俺はただの何でも屋だ」


幸雄が鼻で笑う。


「何でも屋が一機で五十機を相手にするかよ」


慎一は返す言葉に少し迷い、それから草むらの向こうを見た。


空には、まだ薄く煙の筋が残っている。


ついさっきまで、自分はあの中にいた。


弾が飛び交い、機銃が唸り、敵機が炎を引いて落ちていく空。


だが今は、目の前に京子たちがいる。


そのことが、妙に不思議だった。


京子は、まだ少し離れた場所に立っていた。


怒鳴らない。


駆け寄ってくることもしない。


ただ、慎一を見ていた。


慎一は美希とはるみの横を抜け、京子の前まで歩いた。


京子はしばらく何も言わなかった。


そして、小さく息を吸った。


「本当に、帰ってこないかと思いました」


その声は静かだった。


けれど、慎一の胸に深く刺さった。


戦場で浴びたどんな機銃弾よりも、その一言の方が重かった。


慎一は、京子の顔を見た。


いつもの冷静な顔。


けれど、その目だけが少し濡れていた。


「悪かった」


慎一は短く言った。


京子は首を横に振る。


「謝らないでください。帰ってきてくれたなら、それでいいです」


はるみが後ろで鼻をすすった。


美希も、端末を胸に抱えたまま黙っている。


幸雄だけが、照れくさそうに空を見上げていた。


慎一はもう一度、零戦が消えた場所を見た。


米軍はあれをPhantomと呼ぶ。


日本の兵たちは守護神と呼ぶ。


だが、ここにいる者たちは違う。


あの機体を待っていたのではない。


帰ってくる慎一を待っていたのだ。


「腹減ったな」


慎一がぽつりと言った。


一瞬、全員が黙った。


次の瞬間、美希が吹き出した。


「もう、こんな時にそれですか」


はるみも笑いながら目元を拭う。


「でも、安心しました。いつもの慎一さんです」


幸雄が慎一の肩を叩いた。


「今日は用意してあるぞ。飯も、酒もな」


「ビールは?」


「ある。キンキンに冷えたやつだ」


慎一は大きく頷いた。


「最高だな」


京子も、ようやく少し笑った。


「帰還祝いです。今日は少しだけ豪華にしてあります」


「少しだけか」


「慎一さんの少しは、信用できませんから」


「それはひどいな」


そんな会話をしながら、慎一は仲間たちと並んで歩き出した。


草むらには、もう零戦の姿はない。


ただ風が吹き、ブッシュが静かに揺れている。


ここは、最初に零戦が不時着した場所。


慎一がこの時代で、もう一度飛び始めた場所。


そして今は、帰ってくる場所になっていた。


空では、夕闇がゆっくりと降りてくる。


慎一は振り返らなかった。


戦場ではなく、伝説でもなく、仲間たちのいる場所へ。


彼は帰ってきた。

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