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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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夢の中の朝

第二十八話 夢の中の朝


夢を見ていた。


そこは、知らない家だった。


いや、知らないはずなのに、懐かしい家だった。


板張りの廊下。


少し古い柱。


台所から漂ってくる味噌汁の匂い。


外では鶏が鳴いている。


朝だった。


「慎一、起きなさい」


女の声がした。


柔らかくて、少しだけ張りのある声。


俺はその声を知っていた。


いや、俺ではない。


三上慎一が知っている声だった。


布団の中で、小さな慎一が身じろぎする。


まだ十にもならない頃だろう。


「母さん……もう少し」


「もう少し、ではありません。顔を洗ってきなさい」


襖が開いた。


そこに立っていたのは、三上雪乃だった。


長い髪を後ろでひとつに結んでいる。


化粧などしていない。


それなのに、朝の薄い光の中で、肌だけが白く見えた。


雪乃は少し困ったように笑っていた。


「味噌汁が冷めますよ」


慎一は布団から顔だけを出した。


「腹減った」


「なら、なおさら起きなさい」


雪乃はそう言って、布団の端を少しだけ持ち上げた。


慎一は慌てて体を丸める。


「寒い!」


「寒いなら早く着替えることです」


その声は厳しくない。


叱っているようで、どこか楽しそうだった。


慎一はしぶしぶ起き上がった。


夢の中の俺は、それを見ている。


いや、見ているのではない。


慎一の中にいる。


慎一の目で見ている。


慎一の耳で聞いている。


なのに、心だけは仲川一登のままだった。


台所では、朝飯の支度ができていた。


小さな膳。


飯。


味噌汁。


漬物。


焼いた魚が少し。


雪乃は慎一の前に箸を置いた。


「いただきますは」


「いただきます」


慎一は箸を持つと、すぐに味噌汁へ手を伸ばした。


「あつっ」


雪乃が笑う。


「だから言ったでしょう。ふうふうしてから飲みなさい」


慎一は口を尖らせた。


「母さんの味噌汁、いつも熱い」


「冷たい味噌汁よりいいでしょう」


「まあ、うまいけど」


雪乃は少しだけ嬉しそうに目を細めた。


その顔を見た瞬間、胸の奥が変なふうに痛んだ。


これは俺の感情ではない。


慎一の感情だ。


母に褒められたい。


母を安心させたい。


母に笑っていてほしい。


そんな幼い思いが、体の奥に残っている。


仏間の方に、ひとつの写真が見えた。


若い男が写っている。


三上雄一。


慎一の父だ。


もうこの世にはいない男。


雪乃は食事の前に、その写真へ小さく手を合わせていた。


「おはようございます、あなた」


その声は、慎一に向けた声とは少し違っていた。


静かで、優しくて、少しだけ寂しい。


慎一は飯を食べながら、その横顔を見ていた。


「母さん」


「何ですか」


「俺、大きくなったら父さんみたいになる」


雪乃の手が止まった。


ほんの一瞬だった。


けれど、夢の中の俺には分かった。


その言葉は、雪乃の胸の深いところに触れた。


雪乃はゆっくりと慎一を見る。


そして、少しだけ笑った。


「そうですか」


「うん。父さんみたいに強くなる」


慎一は真剣だった。


子供の真剣さだ。


雪乃は箸を置いた。


「慎一」


「なに」


「父さんみたいにならなくてもいいのですよ」


「え?」


「慎一は、慎一になりなさい」


慎一は意味が分からないという顔をした。


「でも、父さんは強かったんだろ」


「ええ。強い人でした」


雪乃は写真を見た。


「でも、優しい人でもありました」


慎一は黙る。


雪乃は続けた。


「強い人になりたいなら、優しい人になりなさい」


「優しいと強いのか?」


「本当に強い人は、誰かを泣かせるために強くなるのではありません」


雪乃は、慎一の茶碗に少しだけ飯を足した。


「誰かを守るために強くなるのです」


慎一はその言葉を、分かったような、分からないような顔で聞いていた。


それでも、きっと覚えていた。


だから今、俺はこの夢を見ている。


三上慎一の記憶の奥で。


雪乃はまた笑った。


「まずは、ご飯をちゃんと食べることです」


「そればっかりだ」


「食べない子は強くなれません」


「じゃあ、もっと食べる」


慎一は飯をかき込んだ。


雪乃は慌てて言う。


「そんなに急いではいけません」


「強くなるんだ」


「強くなる前に喉を詰まらせますよ」


雪乃の声に、少しだけ笑いが混じった。


家の中に朝の光が入っていた。


味噌汁の匂い。


飯の湯気。


古い柱。


父の写真。


そして、雪乃の声。


何でもない朝だった。


戦争もない。


零戦もない。


未来もない。


核の光もない。


ただ、母と子が朝飯を食べているだけだった。


だが、その何でもなさが、なぜか胸に刺さった。


夢の中で、慎一は笑っていた。


雪乃も笑っていた。


その笑顔を見ながら、俺は思った。


この家には、帰る場所があったのだと。


三上慎一には、帰る場所があった。


だが、慎一はもういない。


そして今、その体で目を覚ますのは、俺だ。


夢が揺れた。


雪乃の声が遠くなる。


「慎一」


その声に、胸の奥が締め付けられた。


「慎一」


もう一度呼ばれる。


俺は目を開けた。


そこは三上家ではなかった。


古い柱もない。


味噌汁の匂いもない。


南の島の未来基地。


簡易住居の天井。


薄い金属の壁。


遠くで発電機の低い音がしている。


俺はしばらく、天井を見ていた。


夢だった。


いや、ただの夢ではない。


三上慎一の記憶だった。


俺はゆっくり体を起こした。


胸の奥に、まだ味噌汁の匂いが残っている気がした。


「……雪乃さん」


声に出してから、自分で驚いた。


俺はその人に会ったことがない。


直接話したこともない。


だが、知っている。


髪を後ろでひとつに結ぶ手つきも。


慎一を起こす声も。


味噌汁を熱いまま出す癖も。


雄一の写真に向ける、少し寂しそうな横顔も。


知っている。


けれど、それは俺の記憶ではない。


三上慎一の記憶だ。


俺は死んだ男の記憶を、夢に見ている。


そして、その母親の声に胸を痛めている。


何とも言えない気分だった。


俺は両手で顔を覆った。


「まいったな……」


その人は、今も待っているのだろうか。


三上慎一の帰りを。


あの朝と同じように、味噌汁を作りながら。


慎一の箸を残したまま。


俺はそのことを考えて、しばらく動けなかった。

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