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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

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モニターの向こう

第二十六話 モニターの向こう


未来基地の夜は静かだった。


さっきまで鉄板の上で音を立てていた肉も、もうほとんど残っていない。


火は小さくなり、赤くなった炭が時々ぱちりと音を立てている。


慎一は缶ビールを片手に、満足そうに息を吐いた。


「うまいな」


その一言を聞いた時、京子はすぐに返事ができなかった。


慎一はただ、ビールを飲んだだけだった。


戦闘から戻り、肉を食べ、ビールを飲んでいる。


それだけだ。


だが京子には、その当たり前が少し眩しかった。


「どうした」


慎一が言った。


京子は小さく首を振る。


「いえ……少し、昔のことを思い出しただけです」


「昔?」


「私たちにとっては、未来の話です」


幸雄が缶を持ったまま顔を上げた。


はるみも、美希も黙った。


その沈黙だけで、慎一にも分かった。


軽い話ではない。


京子は、炭の赤い光を見つめた。


「西暦二〇五三年八月三日」


その日付を口にした瞬間、京子の声は少しだけ硬くなった。


「世界は、核ミサイルを発射しました」


慎一は何も言わなかった。


夜風が草を揺らす。


遠くで波の音がした。


京子は続けた。


「私たちは、第3次世界大戦の数少ない生き残りです。東京の地下深くに作られた実験都市、アルメディアに、たまたま試験的に住んでいた。だから、地上に降り注いだ核爆弾の影響を直接は受けませんでした」


「たまたま、か」


慎一が低く言った。


「はい。たまたまです」


京子は缶ビールを見た。


美希が持ち出した、復元品のビール。


その表面には、まだ小さな水滴がついている。


「戦争が始まる前、アルメディアにも普通の日常がありました。地下都市とはいっても、街はありました。店もありました。学校も、食堂も、小さな公園も」


京子の目が、遠い場所を見る。


「仕事帰りに安いビールを買う人がいて、コンビニの前でくだらない話をしている人がいて、明日の予定を考えている人がいて……誰も、その日が最後の日になるなんて思っていませんでした」


慎一は缶を下ろした。


幸雄も、何も言わなかった。


京子の声は、泣いてはいなかった。


だが、泣くよりも静かだった。


「警報は鳴りました。でも、最初は誰も信じていませんでした。誤報だと思った人もいました。アルメディアなら大丈夫だと言った人もいました。私も、そう思っていました」


京子は少しだけ息を吸った。


「中央広場には大きなモニターがありました。地上観測カメラ、衛星通信、世界各地の都市情報、避難状況……そういうものが全部、そこに映っていました」


慎一は黙って聞いていた。


「私は、そのモニターを見ていました」


その言葉に、美希が小さく目を伏せた。


はるみは膝の上で手を握った。


京子は続ける。


「地上観測カメラの映像が、一瞬で白く塗り潰されました。東京の街が映っていたはずなのに、画面の中だけが真っ白になって、そのあと映像が途切れました」


火が小さく鳴った。


「それから、世界地図の都市表示が一つずつ消えていきました。通信不能。観測不能。応答なし。そんな文字が、次々に並んでいった」


慎一は缶ビールを握ったまま動かなかった。


「地上がどうなっているのか、私たちはモニター越しにしか見られませんでした。アルメディアの中は揺れました。照明が落ちかけて、警報が鳴って、誰かが叫んでいました。でも、私たちは生きていました」


京子は、そこまで言ってから少しだけ声を落とした。


「生きていたから、見てしまったんです」


誰も何も言わなかった。


「地上にいた人たちは、一瞬で灰になってしまいました。人類の五分の一だけが残りました。残ったと言っても、生きているだけです。国も、経済も、法律も、街も、何もかも壊れました」


はるみが俯いた。


美希は端末を閉じた。


幸雄は缶ビールを握ったまま、じっと火を見ていた。


京子は慎一を見た。


「あの日も、私はモニターを見ていました」


慎一の目が、わずかに動いた。


京子は続けた。


「そして今も、私はモニターを見ています」


その言葉は、静かだった。


だが、その場にいた全員の胸に落ちた。


京子は未来基地の方へ目を向ける。


そこには、今も慎一の機体情報や戦域データを映し出すモニターがある。


「あなたが飛ぶたび、私はモニターを見ています。位置情報。速度。機体状態。敵影。帰還予定時刻」


京子の声が、ほんの少し揺れた。


「また、モニターの向こうで誰かを失うのではないか。そう思うことがあります」


慎一は何も言わなかった。


京子は自分の手元を見た。


「だから、あなたが帰ってくると安心します。未来が変わったからではありません。あなたが生きて戻ったからです」


夜風が吹いた。


火の残りが、赤く揺れた。


「私たちは未来を守りに来たわけではありません。あの未来を変えるために来ました」


その声は、さっきよりもはっきりしていた。


「歴史が変わること自体を怖がっているわけではありません。変わらなければ困るんです」


慎一が京子を見る。


京子はまっすぐに言った。


「ただ、変えた先が本当に救いなのかは、誰にも分かりません。日本が大勝利すればいい、という単純な話でもありません。私たちが止めたいのは、核兵器が人類の歴史に刻み込まれる流れです」


「原爆か」


慎一が言った。


京子は頷いた。


「はい。まず、それを止めること。それが最初の目的です」


火が小さく鳴った。


慎一は缶ビールを見た。


「日本に原爆を落とさせない」


「はい」


「そのために、俺を連れてきた」


京子は一瞬、言葉を止めた。


そして、静かに言った。


「はい」


その一言には、いくつもの感情が混ざっていた。


責任。


負い目。


願い。


そして、恐れ。


「私たちは、あなたを巻き込みました」


京子の声は震えていない。


だが、重かった。


「あなたには、元の時代がありました。仕事があり、家があり、日常がありました。それを奪って、ここへ連れてきたのは私たちです」


慎一は答えなかった。


京子は続ける。


「何度も失敗しました」


美希が小さく息を吐いた。


京子は、彼女と目を合わせて頷いた。


「一度目は、何もできませんでした。二度目は、途中で失いました。三度目は、本当にあと少しだった。でも、広島と長崎を止めることはできませんでした」


慎一は黙っている。


「だから今回は、絶対に失敗できない。そう思っています」


京子は慎一を見た。


「だからこそ、あなたは死んではいけない、あなたの死は未来の可能性も死ぬという事です。」


その言葉は、強かった。


「私たちは未来を変えたい。けれど、、でもあなたが無理をしていいという事ではありません。何があっても生きて帰ってください。」


慎一は、しばらく何も言わなかった。


やがて、低く言った。


「俺は、そんな大した人間じゃないぞ」


京子は首を振った。


「大した人間かどうかではありません」


「じゃあ何だ」


「あなたは、私たちが失ったものを、当たり前のように持っている人です」


慎一は少しだけ眉を寄せた。


京子は微笑んだ。


「肉を食べて、ビールを飲んで、面倒くさそうにしながらも誰かを助ける。そういう普通の人が普通に生きていられる世界を、私たちは失いました」


慎一は何も言わなかった。


京子は火を見た。


「だから、変えたいんです」


その言葉は、命令でも説明でもなかった。


願いだった。


「二〇五三年八月三日を、なかったことにしたい。世界が自分で自分を焼き尽くす未来を、終わらせたい」


慎一は缶ビールを持ち上げた。


中身はまだ少し残っている。


「難しい話だな」


「はい」


「俺には、全部は分からん」


「分かっています」


「でも」


慎一は火を見た。


「目の前で落とされそうな奴がいたら、助けるくらいはできる」


京子は慎一を見た。


慎一は続けた。


「P-40に追われてた零戦二機もそうだ。難しい歴史は知らん。でも、あのままなら落ちる。それは分かった」


「はい」


「だから助けた」


「はい」


「たぶん、俺にできるのはそういうことだ」


京子の胸の奥が、少しだけ熱くなった。


未来コンピューターは、なぜ仲川一登を選んだのか。


京子たちは知らない。


だが今、少しだけ分かる気がした。


この人は、世界を救おうとして動くわけではない。


目の前にある理不尽を、その場で少しずつ直していく。


壊れた機械を見るように。


傾いた荷物を積み直すように。


今にも落ちそうな誰かを、ただ助けるように。


その積み重ねが、未来を変えるのかもしれない。


幸雄がようやく口を開いた。


「しかし、重い話になったな」


慎一は缶を軽く振った。


「ビールが足りんからだ」


京子は思わず目を瞬かせた。


幸雄が笑った。


「それは違うだろ」


「違わん」


「いや、違う」


はるみも小さく笑った。


美希も少しだけ表情を緩めた。


京子は、そのやり取りを見ていた。


そして思った。


こういう時間を、取り戻したいのだと。


戦争のない世界。


核の光で終わらない世界。


誰かがくだらないことを言い、誰かが呆れ、誰かが笑う。


そういう世界を。


慎一が京子に缶を差し出した。


「飲むか?」


京子は少し驚いた。


「私ですか」


「さっきから見てるだけだろ」


京子は缶を見た。


それから、ゆっくり受け取った。


「……少しだけ、いただきます」


「一本だけだぞ」


京子は小さく笑った。


「それは私の台詞です」


慎一も笑った。


京子は缶に口をつけた。


苦味が舌に広がる。


復元品のビール。


本物かどうかは分からない。


だが、その苦味だけは妙に確かだった。


京子は夜空を見上げた。


一九四二年の空。


まだ未来を知らない空。


この空の先に、いくつもの戦争があり、いくつもの過ちがあり、そして二〇五三年八月三日がある。


だが、今はまだ決まっていない。


少なくとも、彼らはそう信じてここにいる。


慎一が肉を一切れ取った。


「で、肉はまだあるか?」


はるみが笑った。


「あります」


幸雄が呆れたように言った。


「結局そこに戻るんだな」


「腹が減ると考えも鈍る」


「もう結構食っただろ」


「考えることが多いからな」


京子は缶ビールを両手で持ったまま、静かに笑った。


未来はまだ分からない。


変えた先が救いなのかも分からない。


それでも、今この場所には火があり、肉があり、ビールがあり、誰かの笑い声があった。


あの日も、京子はモニターを見ていた。


今も、京子はモニターを見ている。


けれど、今は違う。


モニターの向こうで消えていく命を、ただ見ているだけではない。


この場所には、帰ってくる者がいる。


そして、帰ってきた者が肉を食べている。


京子は思った。


これを失わないために、私たちはここに来たのだと。

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