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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
無双の始まり

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緊急発進

第二十二話 緊急発進

 夕暮れの未来基地には、焼けた肉と炭の匂いが残っていた。

 海から吹く風が、格納庫の外に置かれた金網の煙をゆっくり流していく。

 網の上では、まだ何枚もの肉が音を立てていた。

 美希は箸を持ったまま、焼け具合をじっと見ている。

「それ、もういいんじゃないですか?」

「まだ早い」

 慎一が肉を裏返した。

「表は焼けてますよ」

「中がまだだ」

「さっきから待ってます」

「腹壊しても知らんぞ」

 美希は少しだけ箸を引っ込めた。

 幸雄が横から一枚取ろうとする。

「だめです、それは私が見てた肉ですよ」

「肉に名前は書いてねえ」

「今、私が見てたって言いました」

「見てただけだろ」

「幸雄さん、大人げないですよ」

 はるみが笑いながら、空いた皿へ焼けた野菜を移した。

「まだ肉はありますから、次を焼けばいいじゃないですか」

「次は次だ。今焼けてるのが食いたい」

「同じ肉だろ」

 慎一が言う。 

「焼き加減が違う」

「お前も細かいな」

「機械も肉も、加減が大事なんだよ」

 慎一は一瞬だけ幸雄を見た。

「肉と機械を一緒にするな」

 幸雄が答えようとした、その時だった。

 基地の奥で、短い電子音が鳴った。


 ピッ。


 皆んなのそれまで動いていた手が止まった。

 京子の端末が赤く点滅している。

 美希はすぐに箸を置き、端末を開いた。

「接触あり」

 慎一が網から目を離した。

「米軍か?」

「違います」

 美希が空中表示を開く。

 夕暮れの海域図に、二つの青い光点が浮かんだ。

「日本海軍機です。零戦二機」

 その後ろに、赤い光点が四つ現れる。

「追われていますね」

 幸雄がトングを置いた。

「敵は?」 

「米軍機四。距離を詰めています」

 京子が端末へ目を落とした。

「こちらへ向かっていますか」

「いいえ。基地空域からは外れています」

 美希は地図を拡大する。

 青い光点と赤い光点の間隔が、少しずつ狭くなっていた。

「このままだとすぐに追いつかれちゃいます」


 誰も口を開かなかった、島の偽装は機能している、上空から見れば、ただの無人島にしか見えない。

 敵も味方も、未来基地の存在には気づいていない。

 何もせずそのまま通り過ぎるのを待つ、それが正解だった。

 だが画面の中では、日本軍の零戦二機が夕暮れの海を低く飛んでいる。

 一機はどうにか速度を保っていた。しかしもう一機は飛び方が安定していないようだ。

 光点がフラフラと揺れている。

「これは、損傷してるな」

 幸雄が言った。

 美希が表示を切り替える。

「速度も落ちています」

「もう一機は?」

「たぶん損傷機に合わせて速度を落としています」

 慎一は画面を見たまま言った。

「置いていかないつもりか」

 赤い光点は、さらに近づいていた。

「ありゃ、追いつかれるな」

 慎一は立ち上がった。

「出るぞ」


 京子は慎一を見る。

 基地空域の外だ。

 未来基地が攻撃を受けているわけでもない。

 それに全ての日本機を救えるわけでは無いのだ。

 だが、慎一にはそれを見過ごせすことは出来なかった。

 京子は短く頷いた。

「救援を優先してください」

「分かった」

「敵機への攻撃は、必要な場合だけですからね」

「分かってるさ」


 幸雄も立ち上がった。

「零戦を発着点へ送る。先に行け」 

 慎一は網の上を見た。

 焼けかけの肉が、まだ何枚も残っている。

「それ、残しとけよ」

「帰ってくるまで残ってたらな」

「全部食うなよ」

「早く行け」

 慎一は走り出した。

「慎一さん、無理をしないでください」

 はるみの声に、慎一は振り返らず片手だけ上げた。

 京子の声が基地内通信に響く。

「全員、配置についてください」

 空気が一気に変わった。

 美希は管制席へ走る。

 はるみも端末を抱えて後を追った。

 幸雄は格納庫へ駆け込む。

 さっきまで笑い声のあった場所には、火の入った炭と、焼きかけの肉が残された。 

 格納庫の中央に、零戦が静かに置かれている。

 幸雄がコンソールを叩く。

「転送座標、発着点に固定」

 機体各部の状態が表示される。

 燃料。

 ゼネレーター。

 空間磁気コイル。

 ブースター。

 すべて正常。

「よし」

 格納庫の床に青白い光が走った。

 零戦の輪郭が淡く揺れる。

「転送開始」

 次の瞬間、零戦は格納庫から消えた。

 基地外縁の発着点。

 ブッシュの切れ目に、零戦が音もなく現れる。

 そこへ慎一が駆け込んだ。 

 夕暮れの風が、周囲の枝葉を揺らしている。

 遠くの海は、少しずつ暗さを増していた。

 慎一は主翼へ上がり、操縦席へ身を滑り込ませる。

 風防を閉じ、ベルトを締める。

 計器が立ち上がった。

 京子の声が通信機から聞こえる。

『対象まで5分。味方機は高度を落としています』

「敵との距離は?」

『さらに縮まっています』

「味方の速度は?」

『損傷機が落ちています。もう一機も、それに合わせています』

「分かった」

 慎一はスイッチを入れた。

 栄改エンジンに直結された未来仕様のゼネレーターが回る。 プロペラがゆっくりと動き始める。

 続いて栄改エンジンが低い唸りを上げた。

 振動が機体全体へ伝わる。

 慎一は空間磁気コイルのスイッチを入れた。

 零戦の車輪が、ゆっくりと地面を離れる。

 機体はブッシュの上、二メートルほどの高さで静止した。

 慎一はスロットルレバーを押し込む。

 プロペラ後流にあおられ、下の枝葉が大きく波打った。

 零戦が前へ滑り出す、ブッシュの上を浮いたまま、速度を上げていく。

 慎一は車輪を格納した。 


 栄改エンジンの音が大きくなる。主翼が空気をつかんでいく、 操縦桿をわずかに引くと機首が上がる。ブッシュが下へ沈み、夕暮れの島が遠ざかった。ゼロは赤みの残る空へ上昇していく。 


 美希の声が入る。

『敵機まで六分です』

 続いて、はるみの声。

『味方機一機、さらに高度低下。もう一機が速度を落として並んでいます』

「逃げ切れなくなるぞ」

『それでも離れません』

 慎一は前方を見た。

 夕暮れの海。

 その上を、二つの小さな影が逃げている。

 後ろには四機。

 まだ遠い。

 損傷した一機を守るため、もう一機まで速度を落としている。 このままでは間に合わないだろう。

 慎一はスロットル脇のブースタースイッチへ指を伸ばした。


『慎一さん、ブースターを使いますか?』

 美希が尋ねる。

「使わなきゃ間に合わねえよ!」

『了解。進路上に障害なし』

 慎一は前方を見たまま答えた。

「ちょっと待ってろ」

 ブースターのスイッチを入れた瞬間、ゼロの速度がグンッと伸びた。

 操縦席の後ろで、低い振動が生まれる。

 零戦は夕暮れの空を一気に駆け出した。

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