表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ
守護神誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/74

基地の外で肉を焼く

第二十一話 基地の外で肉を焼く


未来基地の夕暮れは、思ったより静かだった。


昼間、格納庫には整備音と警告音と、戦闘記録を確認する声が絶えず響いていた。


だが日が落ちると、島は急に別の顔を見せる。


海から吹く風。


遠くで砕ける波の音。


格納庫の外壁に当たる潮の匂い。


その一角で、肉が焼けていた。


「……本当にやるのか?」


安藤幸雄が、折り畳み式のテーブルと金網を見ながら言った。


「やるに決まってるだろ」


慎一は炭の火を見ながら、トングで肉を一枚ひっくり返した。


「戦った後は飯だ」


「理屈は分かるが、基地でバーベキューってのはどうなんだよ」


「外だろ」


「そういう意味じゃねえ」


幸雄が呆れた顔をする。


その横で、美希が皿を持ったまま、金網の上の肉をじっと見ていた。


「まだですか?」


「まだだ」


慎一は即答した。


「もう焼けてるように見えますけど」


「表面だけだ。肉は焦ったら負けだ」


「肉に勝ち負けがあるんですか」


「ある」


慎一は真顔で言った。


「人生と肉は、待てる奴が勝つ」


幸雄が吹き出した。


「なんか始まったぞ」


はるみがくすっと笑う。


京子は少し離れた場所で端末を持っていた。


だが画面を見るより、慎一の手元を見ている時間の方が長い。


「慎一、手慣れていますね」


「そりゃあ、六十六年も生きてりゃ、肉くらい焼ける」


その場の空気が止まった。


美希が皿を持ったまま固まる。


はるみが瞬きをする。


幸雄が眉を寄せた。


「……今、何歳って言った?」


「六十六」


慎一は何事もないように肉を返した。


「三上慎一の体は若いけどな。中身は仲川一登だ」


「いや、それは知ってる」


幸雄は手を振った。


「知ってるけど、六十六って……お前、じいさんじゃねえか」


「失礼な。まだジジイ予備軍だ」


「十分ジジイだろ」


美希がゆっくり口を開いた。


「待ってください。つまり慎一さんの中身は、未来の軍人でも、特殊訓練を受けた人間でもなく……」


「何でも屋だな」


「何でも屋?」


「木を切ったり、エアコン付けたり、鉄屑運んだり、草刈りしたり、まあ色々だ」


美希の顔が、見る見るうちに困惑へ変わっていく。


「それで、なぜ零戦に乗っているんですか」


「俺が聞きたい」


幸雄が腹を抱えて笑い出した。


「おいおい、ちょっと待て。俺たちは未来を救う中心人物が来たと思ってたんだぞ」


「だから俺も困ってる」


慎一は焼けた肉を皿に乗せた。


「ほれ、食え」


はるみが肉を受け取りながら、少し楽しそうに聞いた。


「慎一さんって、昔から機械とか好きだったんですか?」


「まあな」


慎一は少しだけ遠くを見るような顔をした。


「子供の頃から、とにかく機械が好きだった」


火の上で脂が落ち、小さく炎が跳ねた。


「ブリキの車を買ってもらうだろ。普通は走らせて遊ぶんだろうけど、俺は中が見たくてな」


「まさか」


美希が嫌な予感を込めた声を出す。


「ばらした」


幸雄が笑った。


「やっぱりな」


「二回か三回ばらして組み立てると、ハメ合いのところが折れて戻らなくなるんだよ」


「壊してるじゃないですか」


「中を見てただけだ」


「結果として壊しています」


美希が冷静に言う。


はるみが肩を震わせて笑っていた。


「それで?」


京子が聞いた。


「そのうち買ってもらえなくなった」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、幸雄が盛大に吹き出した。


「そりゃそうだろ!」


「一年も掛からんかったな」


「親御さんの判断が早い!」


はるみが笑いながら皿を落としかけ、美希が慌てて支える。


京子も、ほんの少しだけ口元を緩めていた。


慎一は不満そうに肉を返した。


「壊したかったわけじゃない」


「中が見たかったんですよね」


はるみが笑いながら言う。


「そうだ」


「それを壊したと言うんです」


美希が即座に返した。


「厳しいな」


「当然です」


幸雄はまだ笑っていた。


「お前、子供の頃から変わってねえんじゃねえか?」


「そうか?」


「そうだろ。普通の子供はおもちゃを遊ぶ。お前は分解する」


慎一は少し考えた。


「まあ、確かに中がどうなってるのか気になる方だったな」


京子は静かに言った。


「だから、未知の機体にも適応できたのかもしれませんね」


その言葉に、場の空気がほんの少しだけ変わった。


慎一はトングを止めた。


美希も皿を持つ手を緩める。


幸雄は笑いを引っ込め、京子を見る。


「どういう意味だ」


「慎一は、機械を恐れていません。いえ、正確には、機械の分からなさを恐れていない」


京子は端末を伏せた。


「普通なら、未知の未来技術に囲まれた零戦に乗せられた時点で、思考が止まります」


「俺も止まったぞ」


慎一が言った。


「止まった人は、あんな飛び方をしません」


美希がぼそりと言う。


慎一は苦笑した。


「いや、あれは三上慎一の体が覚えてたんだろ」


「それもあります」


京子は頷いた。


「でも、機体の癖を受け入れる速さは、仲川一登の経験だと思います」


幸雄が腕を組んだ。


「経験ねえ」


「ブリキのおもちゃをばらし、組み立て、壊した。そういう経験です」


「なんか格好良く言ってるけど、ただの破壊少年じゃねえか」


「失礼な」


慎一は焼けた肉を幸雄の皿に放り込んだ。


「食え」


「おう」


幸雄は肉を受け取り、すぐに口へ放り込んだ。


「あつっ」


「待てと言っただろ」


「肉は待てる奴が勝つんじゃなかったのかよ」


「お前が待てなかったんだ」


はるみがまた笑った。


未来基地の外に、笑い声が広がる。


戦闘。


撃墜。


歴史改変。


第三次世界大戦。


そういう言葉が、この時だけは少し遠くへ離れていた。


慎一はその笑い声を聞きながら、ふと胸の奥が軽くなるのを感じた。


昨日までは、誰もが張りつめていた。


京子は未来の責任を背負い、美希は戦闘データを見つめ、幸雄は機体を心配し、はるみは慎一の心を見ていた。


そして慎一自身も、自分が何をしているのか分からなかった。


けれど今、基地の片隅で肉を焼いている。


それだけで、少しだけ人間に戻った気がした。


「慎一さん」


はるみが言った。


「高校の頃も、やっぱり機械が好きだったんですか?」


「好きだったな。工業高校の機械科だった」


幸雄の目が光った。


「ほう」


「機械工学同好会ってのをやっててな」


「同好会?」


「最初は俺一人だった。そのうち人が増えて、部に昇格した」


「部長か?」


「なぜかそうなった」


「なぜかじゃねえだろ」


美希が呆れたように言う。


慎一は肉を返しながら続けた。


「そこでレーシングカートを作った」


幸雄の動きが止まった。


「レーシングカート?」


「エンジン積んだ小さい車だ。フロントは猫車のタイヤだったけどな」


「猫車?」


「一輪車のことだ。リヤタイヤは部室に転がってたやつ。エンジンはヤマハメイト。タイロッドは旋盤で削り出した」


幸雄の顔が真剣になった。


「お前、それで本当に走ったのか」


「走ったぞ。遠くから見たら、今のレーシングカートとそう変わらなかった」


「遠くから見たら、か」


「フレームはちゃんとXフレームで作ったからな」


幸雄はしばらく黙っていた。


そして、低く笑った。


「お前、思ったより本物だな」


「何の本物だよ」


「機械バカだ」


「褒めてるのか?」


「半分な」


美希が小さくため息をついた。


「あなた、本当に未来を救う人なんですか」


「知らん」


慎一は即答した。


「気が付いたらこうなってた」


「適当すぎます」


「人生なんて、だいたいそんなもんだ」


京子が少しだけ笑った。


「慎一らしいですね」


「俺はまだ自分が慎一なのか、一登なのかも怪しいけどな」


その言葉に、ほんの少し沈黙が落ちた。


慎一は自分で言ってから、少しだけしまったと思った。


だが、はるみが柔らかく言った。


「どちらでも、今ここで肉を焼いてるのは慎一さんです」


慎一ははるみを見た。


その言葉は妙にまっすぐだった。


「そうか」


「はい」


「なら、焦がさないようにしないとな」


幸雄が笑った。


「そこに戻るのかよ」


空気がまた柔らかくなる。


慎一は肉を返した。


火はちょうど良い。


脂が落ち、炭が静かに赤く光っている。


その赤を見ていると、ほんの少しだけ、さっきまでの空が遠くなった。


敵機が落ちていく炎。


レールガンの閃光。


海へ消えた機影。


忘れたわけではない。


忘れてはいけない。


でも、今は肉を焼いている。


そのことが、不思議と救いのように思えた。


「慎一」


京子が静かに言った。


「食事が終わったら、少しだけ確認したいことがあります」


「歴史の話か」


「はい」


慎一は火を見つめたまま答えた。


「分かった」


京子は端末を手に取った。


「ですが、今は食べましょう」


慎一は少し驚いて京子を見た。


京子は真面目な顔で続けた。


「人間、腹が減るとろくなことを考えないので」


慎一は思わず笑った。


「それ、俺の台詞だろ」


「使いやすかったので」


「勝手に使うな」


「権利は主張しますか?」


「肉一枚で許す」


「安いですね」


京子はそう言って、ほんの少しだけ笑った。


慎一は焼けた肉を京子の皿に乗せた。


夕暮れの未来基地に、炭の匂いと笑い声が混じっていた。


太平洋のどこかでは、米軍が幽霊の零戦に怯えている。


日本軍は、所属不明の零戦に助けられた搭乗員の報告をまとめている。


だがその零戦の中身は今、基地の片隅で肉を焼いていた。


六十六歳の何でも屋。


ブリキの車をばらしすぎて、親に買ってもらえなくなった少年。


工業高校で、猫車のタイヤを使ったレーシングカートを作っていた男。


そんな男が、未来を変える零戦に乗っている。


誰が聞いても、冗談にしか思えない。


だが、それが現実だった。


慎一は最後の肉を金網に乗せた。


じゅう、と小さな音がした。


その音を聞きながら、慎一は小さく呟いた。


「まあ、何とかなるだろ」


その言葉は夕暮れの風と焼肉の煙に乗り、格納庫の壁に静かに消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ