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不時着した零戦を改造して歴史を変える?不死の体を得た俺は第二次世界大戦を無双する。  作者: よみ はじめ


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零戦を尖らせる

第15話 零戦を尖らせる


未来基地の格納庫では、零戦の周りに工具と配線が散らばっていた。


幸雄は主翼の付け根に潜り込み、太い指で操縦系統のログを何度も確認している。


慎一は少し離れた場所で、紙コップのコーヒーを飲みながらそれを見ていた。


「なあ、幸雄」


「なんだ」


「この零戦、もっと反応を早くできないか」


工具の音が止まった。


幸雄がゆっくり顔を出す。


「……今、なんて言った」


「操縦桿を入れてから機体が来るまで、ほんの少し遅い」


幸雄は本気で嫌そうな顔をした。


「お前な、それが零戦の味なんだよ」


「味?」


「そうだ。零戦は軽い。だが軽いだけじゃない。操縦ケーブルにわざと遊びを持たせて、動きを柔らかくしてある。だから急に暴れない。だから滑らかに旋回できる」


幸雄は立ち上がり、主翼を軽く叩いた。


「こいつはそういう飛行機だ。操縦桿を入れたらすぐガツンと来る機体じゃねえ」


「分かる」


「分かってねえ。そこを詰めたらピーキーになる。普通の搭乗員なら制御できん。ちょっと入れただけで機体が跳ねるぞ」


「俺が乗る」


幸雄は黙った。


そして、少しだけ笑った。


「……そう来るか」


「できるのか」


「できる」


幸雄は端末を叩いた。


「ケーブルの遊びを詰める。ラダーとエルロンの応答を早くする。補助制御も少し変える。だがな、これは普通の零戦じゃなくなるぞ」


「零戦のままでいい」


「無茶言うな」


「零戦のまま、俺に合わせろ」


幸雄は太い声で笑った。


「面白ぇ」


美希が横から呆れた顔をした。


「また危ない改造してる」


「危なくねえ。乗る奴が普通なら危ねえだけだ」


「それを危ないって言うのよ」


京子は少し離れたモニターの前で、戦史データを見ていた。


画面には珊瑚海の海域が表示されている。


赤い線と青い線。


そして、未来予測の細い揺らぎ。


「珊瑚海……」


京子が小さく呟いた。


慎一は振り向く。


「次はそこか」


「可能性が高いです」


京子は答えた。


「本来の歴史でも、空母同士の大きな戦いになります。ですが、今はそこに別の要素が入り始めています」


「コルセアか」


「はい」


モニターに、一枚の機影が映る。


逆ガル翼。


大きなプロペラ。


太い胴体。


慎一は画面を見て、少しだけ目を細めた。


「変な翼だな」


幸雄が嬉しそうに言う。


「いい機体だぞ。でかいエンジンにでかいプロペラ。馬力で空気をねじ伏せるような奴だ」


「扱いにくそうだ」


「扱いにくいだろうな」


幸雄はにやりとした。


「だから面白い」


京子は画面を切り替えた。


米軍の通信傍受記録。


航空機配備の変化。


前倒しされた試験部隊。


「米軍は、Phantom Zeroを狙っています」


「俺をか」


「ええ」


「忙しい連中だな」


「冗談ではありません」


京子の声は静かだった。


「今度の相手は、あなたを追うだけではないはずです。あなたが行く場所を作ってくる」


慎一はコーヒーを飲み干した。


「助けに来る奴を落とすなら、助けたくなる状況を作る」


「そうです」


「嫌な手だな」


「ですが、有効です」


幸雄が端末を持って近づいてきた。


「だから反応を早くしたいってわけか」


慎一は首を横に振った。


「いや、それは別だ」


「別?」


「前から気になってた。操縦桿を入れてから機体が来るまで、一瞬だけ待たされる感じがある」


「それが普通だ」


「俺には遅い」


幸雄は一瞬黙り、それから笑った。


「言うじゃねえか」


「車でもそうだ。ハンドルを切ってから車が来るまで遅いと、思った所へ置けない」


「車と零戦を一緒にするな」


「同じだろ」


「同じじゃねえよ」


「力がどこに乗ってるかを見るのは同じだ」


幸雄は目を細めた。


「……お前、本当に変な奴だな」


「よく言われる」


「だろうな」


改修は、その日のうちに始まった。


幸雄は操縦ケーブルの張りを変え、ラダーとエルロンの応答設定を詰めた。


遊びを完全に消すわけではない。


消せば機体が暴れる。


だが、慎一が欲しがる一瞬を削る。


操縦桿を倒す。


エルロンが動く。


ラダーを踏む。


尾が反応する。


その間のわずかな遅れを、幸雄は慎重に削っていった。


「これ以上やると危ない」


幸雄が言った。


「十分だ」


慎一は操縦席に座り、操縦桿を軽く動かした。


エルロンが応える。


以前より近い。


指先と翼の間にあった薄い膜が、一枚剥がれたようだった。


ラダーを踏む。


尾が来る。


慎一は思わず笑った。


「いいな」


幸雄が下から言う。


「笑うな。普通なら笑う所じゃねえ」


「気持ち悪いくらい素直だ」


「褒めてるのか」


「褒めてる」


「ならいい」


京子はその様子を見ながら、胸の奥に小さな不安を覚えていた。


慎一の零戦は、また慎一に近付いた。


機体が進化したのではない。


人に合わせて、機械が尖っていく。


それは、普通の兵器開発とは違っていた。


歴史の中に存在しない機体が、存在しない操縦者へ合わせて変わっていく。


京子にはそれが少し怖かった。


「慎一」


「なんだ」


「次の空戦では、無理をしないでください」


「無理はしない」


「あなたの無理は、普通の人間の無理と違います」


慎一は少し考えた。


「そうか?」


「そうです」


幸雄が横から言う。


「間違いねえな」


慎一は肩をすくめた。


「分かった。できるだけ気を付ける」


京子は、それがほとんど意味のない返事だと分かっていた。


それでも何も言わなかった。


その頃、米軍の前線基地では、コルセアのエンジンが唸りを上げていた。


巨大なプロペラが空気を掴む。


機体が震える。


滑走路脇には、選抜された搭乗員たちが並んでいた。


その先頭に立つ男は、他の者より少しだけ背が高かった。


名はリチャード・ハーパー。


コルセア試験隊の隊長である。


ハーパーは、機体を見上げながら笑っていた。


隣に立つ整備士が言う。


「こいつはまだ扱いが荒いですよ、大尉」


「荒い方がいい」


「着陸で跳ねます」


「空で跳ねなきゃいい」


整備士は呆れた顔をした。


サッチが近づいてきた。


「ハーパー大尉」


「サッチ少佐」


ハーパーは軽く敬礼する。


「聞いているな」


「Phantom Zeroを落とせ、でしょう」


「追うな」


サッチは短く言った。


「奴は追えば消える」


ハーパーは笑った。


「なら、待てばいい」


「そうだ」


「餌は?」


「味方機に見せる」


「危険ですね」


「危険に見えなければ、奴は来ない」


ハーパーは少しだけ目を細めた。


「本当に来ますかね、その幽霊は」


「来る」


サッチは即答した。


「奴はそういう動きをしている」


「なるほど」


ハーパーはコルセアを見た。


「なら、会えるわけだ」


「油断するな」


「してませんよ」


ハーパーは笑った。


「ただ、少し楽しみなだけです」


サッチはその笑みを見て、わずかに眉を寄せた。


こういう男は危険だ。


恐怖しない。


そして、恐怖しない者ほど、時に命令より空を選ぶ。


「繰り返す」


サッチは言った。


「Phantom Zeroを見ても、単独で追うな」


「了解」


ハーパーは答えた。


その声は素直だった。


だがサッチは信用しなかった。


数時間後。


コルセア隊は滑走路へ並んだ。


逆ガル翼が朝日を受けて鈍く光る。


巨大なプロペラが回転を増す。


エンジン音は低く、重かった。


ハーパーは風防の中で手袋を締め直した。


無線からサッチの声が入る。


『任務を確認する。敵零戦隊との交戦ではない。Phantom Zeroを誘い出し、行動を記録し、可能なら撃墜せよ』


「了解」


『追うな』


ハーパーは少し笑った。


「了解」


コルセアが滑走を始める。


重い機体が地面を蹴る。


速度が乗る。


尾輪が浮く。


主翼が空気を掴む。


そして、機体は滑走路を離れた。


一機。


また一機。


歴史より早く、コルセアが戦場へ向かう。


その空の先には、珊瑚海があった。


そして、まだ誰も知らない。


その海で、二人の男が初めて互いの目を見ることになる。

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