表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わった歴史編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/110

敵が飛び立つ場所

第105話 敵が飛び立つ場所


「次は、こちらから行く」

 俺の言葉が司令室に落ちた。

 誰もすぐには答えなかった。

 正面の大型画面には、エスピリトゥサント島と、その周囲に伸びる航路が表示されている。

 十五機の零戦が消えた海域も、そのすぐ北に赤く点滅していた。

「慎一、本気なの?」

 京子が静かに尋ねた。

「ああ」

「敵基地を直接攻撃するつもり?」

「そのつもりだ」

 京子は画面へ目を向けた。

「簡単には言わないで。あそこはガダルカナルとは違う。敵の大きな拠点よ」

「分かっている」

「分かっていないわ」

 京子の声が少し強くなった。

「これまでのあなたは、こちらへ来る敵を迎え撃っていた。でも敵地へ行けば、何機いるかも、どこから上がってくるかも分からない。対空砲もある。探知されれば、帰るまでずっと追われるのよ」

「それでも行く」

「慎一」

「十五機が全滅したんだぞ」ふ

 司令室が静まった。

 美希が俯き、はるみは操作卓の前で手を止めた。

「敵は、あの十五機を落としただけじゃない」

 俺は画面を指した。

「奴らは次の飛行機を飛ばし、また次の部隊を潰す。俺がガダルカナルで待っている間にもだ」

「だから敵基地を叩くの?」

「ああ」

 幸雄が腕を組んだまま、地図を見ていた。

「だが、飛行場を壊しても、しばらくすれば直されるぞ」

「滑走路だけならな」

 幸雄が俺を見る。

「他にも狙うつもりか」

「敵機は、どこから来る?」

「アメリカ本土だろう」

「本土から直接ここまで飛んで来るわけじゃない」

「当たり前だ」

 幸雄は画面へ近づき、航路を拡大した。

「工場で造られた機体は、船で運ばれる。完成した状態のものもあれば、翼を外して積まれるものもある。大きな輸送船や航空機輸送艦で南太平洋まで運び、基地で組み立て、整備して前線へ送る」

 画面上に、アメリカ西海岸からハワイ、フィジー方面を経由して南太平洋へ伸びる線が現れた。

「飛べる機体は、途中の基地を渡りながら自力で来る場合もある。だが、どちらにしても中継地が必要だ」

「それがエスピリトゥサント島か」

「ああ」

 幸雄は島を拡大した。

 複数の滑走路らしき細長い帯が表示され、周囲には倉庫、燃料施設、港湾設備を示す印が並んだ。

「飛行機が集まり、部品が集まり、燃料が集まる。整備兵も、操縦士もここへ送られる。ここで使える状態にしてから、ガダルカナルや周辺の基地へ送り出す」

「つまり、ここが前線への入口ね」

 京子が呟いた。

「入口というより、心臓に近いな」

 幸雄は答えた。

「ここが動いている限り、敵は何度でも飛行機を送り込める」

 はるみが別の画面を開いた。

「アルメディアの記録では、エスピリトゥサント島には航空燃料の貯蔵施設、機体整備設備、大型倉庫、港湾荷役設備があります」

「Phantom Hunterもそこにいるのか?」

「今回の戦闘記録から判断すると、可能性は高いです」

 十五機を撃墜した二機の軌跡が表示された。

 交戦後、二機は南東へ離脱している。

 その進行方向の先には、エスピリトゥサント島があった。

「やはりな」

 俺は画面を見つめた。

「奴らは、あそこから来た」

「ただし、確定ではありません」

 はるみが言った。

「直接確認した記録はありません。別の小規模基地から飛来した可能性も残ります」

「それでも、補給はあそこを通る」

「はい」

 美希が顔を上げた。

「飛行機を落とすより、その飛行機が来る場所を壊した方がいいってことですか?」

「そういうことだ」

 俺は答えた。

「一機落とせば一機減る。だが向こうは、また次を送ってくる」

 幸雄が年間生産量の資料を表示した。

 数字が並び、月ごとの増加が線で示される。

「アメリカは、今年だけで何万機もの航空機を造る」

「何万機……」

 美希が目を見開いた。

「慎一が一日に十機落としても、向こうの工場はそれ以上を送り出す」

「だから工場を壊すの?」

「工場は遠すぎる」

 俺は首を振った。

「今の俺たちには届かない」

「じゃあどうするんですか?」

「工場から戦場までの間を切る」

 俺は島の表示へ指を置いた。

「ここに集められなければ、前線へ飛んで来られない」

 幸雄が頷いた。

「燃料を燃やせば、飛行機は動かん。部品庫を潰せば、故障した機体は直せん。組み立て設備を壊せば、船で運んだ機体もすぐには使えん」

「港も使えなくすれば、次の補給も止まります」

 はるみが港湾区域を拡大した。

「輸送船を一隻沈めるより、荷揚げできない状態にした方が影響は長く残ります」

「そこまでやれば、敵も黙ってはいないわ」

 京子が言った。

「大規模な報復が来る」

「今でも来ている」

「もっと大きなものよ」

「なら、その前に叩く」

「一人で?」

「ああ」

「駄目よ」

 京子は即座に言った。

「慎一一人に、飛行場も、燃料施設も、港も全部攻撃させるなんて無理よ」

「無理かどうかは、調べてから決める」

「調べる前に分かるわ。あなたの零戦は強い。でも同時に何か所も攻撃できるわけじゃない」

「全部一度に壊す必要はない」

 俺は地図を見ながら答えた。

「一番困る場所を壊せばいい」

「どこだ?」

 幸雄が聞いた。

「それを今から調べる」

 幸雄の口元が少し緩んだ。

「なるほど。無茶を言っているようで、少しは考えていたか」

「少しとは何だ」

「いつも勢いで飛び出す男にしては、という意味だ」

「誰がいつもだ」

「お前だ」

 美希が小さく笑った。

 張りつめていた司令室の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。

 だが京子の表情は変わらない。

「偵察はどうするの?」

「俺が行く」

「また一人で?」

「大編隊で行けば、見つかるからな」

「あなた一人でも見つかるわ」

「見つからないように飛ぶよ」

「どうやって?」

 俺は画面に表示された海上の航路を見た。

「低く飛ぶ」

 幸雄がすぐに反応した。

「海面滑空を使うつもりか」

「ああ」

「島の近くには艦艇もいる。海面すれすれなら、見つかった時に逃げ場が少ないぞ」

「だが、遠くからは見つかりにくい」

「レーダーは?」

「海面反射に紛れれば、捉えにくくなる可能性はある」

 幸雄は少し考えた。

「未来の空間磁気コイルを使えば、通常の飛行よりさらに低く安定して進める。だが、敵地の近くで速度を落とせば、発見された時に危険だ」

「島へ近づいたら上がる」

「簡単に言うな」

「簡単だとは言っていない」

 俺は島の北側を指した。

「最初から攻撃するつもりで近づけば、敵も身構える。偵察だけなら、見つかる前に帰ればいい」

「帰れればね」

 京子が言った。

「帰る」

「その保証は?」

「ない」

 京子の眉が動いた。

「よくそんなことを平気で言えるわね」

「保証がないのは、いつも同じだろ」

「だから心配しているの」

 その言葉に、俺は返事ができなかった。

 美希とはるみが黙って視線を逸らす。

 幸雄は咳払いをして、画面へ向き直った。

「偵察をするにしても、今すぐは無理だ」

「何が必要だ?」

「航続距離の確認、予備燃料、海面滑空を続けた場合の負荷、島周辺の警戒範囲。それに、Phantom Hunterが本当にあそこにいるなら、性能ももう少し調べたい」

 幸雄は操作盤へ手を伸ばし、飛行経路の計算を始めた。

 はるみも別の端末で補給経路を調べる。

 京子はまだ納得していない顔をしていたが、二人が動き始めたのを見て、小さく息を吐いた。

「分かった、偵察計画を立てるところまでは認めるわ」

「攻撃は?」

「偵察結果を見てからよ」

「それでは遅い、敵は待ってくれないぞ」

「遅くはないわ、それなりの準備は必要でしょ」

 京子はそう言ってから、エスピリトゥサント島の表示を見た。

「でも、慎一の考えは間違っていないと思う」

「司令」

 はるみが振り返る。

「敵機を一機ずつ落とすだけでは、戦力差は埋まりません」

 京子はゆっくりと頷いた。

「飛行機を造る国と、飛行機が届く場所を守る国。その差は、時間が経つほど広がる」

「なら、敵が飛び立つ前に止める」

 京子は俺を見る。

「ただし、無謀な攻撃は許可しない。必ず帰れる作戦を立てる」

「戦争に必ずはない」

「それでも考えるの。帰ることまで含めて作戦よ」

 俺は京子を見た。

「分かったよ」

 俺が黙ると、幸雄が画面に新しい経路を表示した。

「話は決まったな。まずは敵基地の目と耳を調べる」

 島の周囲に、円形の警戒範囲がいくつも重なった。

「どこまで近づけば見つかるのか。どこからなら滑走路が見えるのか。燃料施設と港がどこにあるのか。全部分からなければ攻撃はできん」

「なら、全部見てくる」

「簡単に言うな」

「さっきも聞いた」

「何度でも言う」

 俺は大型画面を見上げた。

 エスピリトゥサント島。

 そこから飛び立った敵が、十五機の零戦を消した。

 だが、あの島にあるのは敵機だけではない。

 燃料があり、部品があり、整備する者がいる。

 飛行機を戦場へ送り続ける仕組みそのものが、そこにある。

「敵を落とすだけでは終わらない」

 俺は島の表示を見つめたまま言った。

「次は、敵が飛び立つ場所を叩く」

 誰も反対しなかった。

 司令室の中央で、エスピリトゥサント島だけが赤く光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ