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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わった歴史編

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守るとは?

第104話 守るとは?


 黒い端末に、新しい文字が浮かんだ。

 記憶接続装置、待機解除。

 適合者の着座を確認後、接続を開始する。

「記憶接続……?」

 京子が表示を読み上げる。

 俺は奥にある椅子を見た。

 細い金属の輪が幾重にも重なり、まるで椅子そのものを囲い込むように天井から床まで伸びている。

「これに座れってことか?」

「そう書いてあるな」

 幸雄は携帯端末を向けたまま、椅子の周囲を調べていた。

「だが、何の記憶に接続するのかが分からん」

「一登さんの記憶じゃないんですかぁ?」

 美希が俺の袖を掴んだまま言った。

「俺の記憶なら、俺の頭の中にあるだろ」

「でも、忘れていることもあるかもしれませんよぉ」

「六十六年も生きていれば、忘れたことくらいいくらでもあるぞ」

「そういう普通の話じゃないでしょう」

 京子は椅子から目を離さなかった。

「この装置は、あなたがここへ来る前から用意されていた。しかも、仲川一登を名指しで待っていたのよ」

「俺に聞かれても分からん」

「分かっているわ。だからこそ調べる必要がある」

 幸雄が椅子の横へ回り込み、床との接続部分を覗き込んだ。

「電力系統が見当たらん。さっきまで完全に停止していたはずなのに、今は内部で何かが動いている」

「危険なの?」

「安全とは言えん」

「なら、すぐには座らせられないわね」

「俺も今すぐ座る気はないぞ」

 そう答えた直後、基地の静けさを切り裂くように警報が鳴った。


 鋭い電子音が、部屋の中へ一気に響き渡る。

 美希が肩を震わせ、俺の袖をさらに強く掴んだ。

「な、何ですかぁ!?」

 京子はすぐに携帯端末を開いた。

「緊急戦況通知。司令室からよ」

 幸雄が立ち上がる。

「何か起きたな」

「全員、司令室へ戻るわ」

「この部屋は?」

「後よ。今は戦況の確認が先」

 京子は黒い端末へ目を向けた。

 表示は変わっていない。

 適合者の着座を待機。

「勝手に動かないだろうな?」

「分からんが、こいつは何十年も待っていたんだ。もう少しくらい待てるだろ」

 幸雄が先に部屋を出る。

 俺たちも後に続いた。

 開いたままの扉を抜け、長い通路を司令室へ急ぐ。

 警報は鳴り続けていた。

 基地へ来てから何度か聞いた音だったが、今回は胸の奥に嫌なものが残った。

 司令室へ入ると、正面の大型画面に南太平洋の地図が表示されていた。

 はるみが操作卓の前に立ち、こちらを振り返る。

「アルメディアから緊急ログが届きました」

「何があったの?」

「日本軍の偵察隊です。エスピリトゥサント島へ向かった零戦十五機が、帰還していません」

 俺は画面を見た。

「十五機?」

「はい。敵基地の偵察任務に出ていた部隊です」

「交戦したのか?」

「戦闘記録があります」

 はるみの指が操作盤へ触れた。

 地図が消え、青い海と空が映し出される。

 上空から撮影されたような映像だった。

 十五機の零戦が三つの小隊に分かれ、海上を飛んでいる。

 その後方上空から、敵機が接近していた。

 八機のコルセア。

 その前方に、二機のガンメタルのムスタング。

「Phantom Hunterだ」

 幸雄が低い声で言った。

 六枚のプロペラが回り、二機は零戦隊との距離を急速に詰めている。

 先頭を飛ぶ一機を見て、俺は目を細めた。

「奴か!」

「分かるの?」

「撃たれたからな、、、」


 その2機は左右へ分かれ、零戦隊の正面へ回り込んだ。

 五機の零戦が射撃する。

 二機はその射線を左右へ引き裂き、上昇へ移った。

 映像は音を持たない。

 それでも、何が起きているのかは分かった。

「零戦の旋回に付き合っていない」

 幸雄が言う。

「ああ。速度と上昇力だけを使っている」

 二機のムスタングが交差する。

 一機を追った零戦へ、もう一機が横から撃ち込む。

 さらに上空からコルセアが降下し、零戦隊を分断した。

 美希は画面を見つめたまま、口元を押さえていた。

 一機の零戦が黒煙を引いて落ちる。

 続いて、もう一機。

 零戦隊も反撃していた。

 コルセアの右翼が撃ち抜かれ、白煙を引きながら離れていく。

 別の一機が炎を上げた。

「戦えているじゃない」

 京子が小さく言った。

「操縦士は腕がいい」

 俺は答えた。

「だが、敵は一対一で戦う気がない」

 零戦隊は敵の戦術へ対応し、二機ずつ組み直そうとしていた。

 しかし、ムスタングは戦場の外側から高速で入り、孤立した機体だけを狙っていく。

 一機が引き離される。

 そこへ別の一機が入る。

 零戦が旋回を始めた時には、ムスタングはすでに上昇していた。性能が違い過ぎる!

「捕まえられない……」

 美希が呟く。

 十五機いた零戦は、少しずつ数を減らしていった。

 やがて残った九機が海面近くへ降り、三機ずつに分かれて帰還を始める。

 三機が互いを守り、後方から来る敵へ同時に機首を向けた。

 最初のコルセアは攻撃を諦めて上昇する。

「この形なら帰れるんじゃない?」

 京子が画面へ身を乗り出した。

 俺は答えなかった。

 

 それから二機は零戦隊と同じ高度まで下がり、両側から接近する。

 零戦隊の意識が左右へ向いた瞬間、後方上空からコルセアが降下した。

 機銃弾が海面を叩き、二機の零戦が落ちた。

 残る機体が散開する。

「やられた」

 幸雄が拳を握る。

 編隊が崩れたところへ、二機のムスタングが降下した。

 零戦隊長機がハーパーの後方へ入り、二十ミリ機銃を撃つ。

 ムスタングの左翼に穴が開き、機体が大きく揺れた。

「当てた!」

 美希が声を上げる。

 だが、落ちなかった。

 そのまま海面近くを直進し、零戦隊長機を引き離していく。

「追うな」

 思わず声が出た。

 隊長機は追った。

 前方からもう一機が接近する。

 機銃が火を噴き、零戦の主翼と胴体が撃ち抜かれた。

 隊長機は炎に包まれ、海へ落ちていった。

 誰も声を出さなかった。

 残った零戦は戦い続けた。

 一機が敵を引きつけ、別の一機が背後へ回る。

 傷ついた機体で敵へ向かい、仲間を逃がそうとする者もいた。

 それでも、一機、また一機と海へ消えていく。

 最後に残った三機が、それぞれ異なる方向へ散開した。

「一機だけでも帰すつもりね」

 京子の声が震えた。

 右へ向かった零戦を執拗に追うムスタング。

 中央にもう一機!

 残る一機には、三機のコルセアが向かった。

 ムスタングはすぐには撃たなかった。

 零戦が回避を続けるたび、燃料は減っていったのだろう。

 やがて動きが鈍くなったところで、短い射撃を浴びせた。

 発動機から煙を上げた零戦が、ゆっくりと高度を失っていく。

 中央へ向かった機体も落ちた。

 最後の一機はコルセアを一機撃ち抜いたが、直後に背後から撃たれた。

 炎を上げた零戦が海面へ突っ込む。


 映像が停止した。

 画面の中央に、短い文字が表示される。

 帰還機、なし。

 司令室には、警報の停止した後の静けさだけが残った。

「全滅……」

 美希が呟いた。

 京子は画面を見たまま動かなかった。

 はるみも操作卓から手を離し、俯いている。

 俺は最後の一機が消えた海を見つめた。

「敵基地の情報は?」

「日本軍へは届いていません」

 はるみが答えた。

「十五機が見たものは、何も伝わらなかったのか」

「はい」

 画面が切り替わり、南太平洋全域の地図が表示された。

 ガダルカナルを中心に、日本軍と米軍の勢力圏が色分けされている。

 その周囲には、戦闘と損害を示す表示がいくつも点滅していた。

「これは?」

 京子が尋ねる。

「アルメディアによる現時点の戦況分析です」

 はるみが表示を拡大する。

「ガダルカナル周辺では、日本軍の損害は史実より大きく減っています。飛行場も維持され、輸送船団の被害も抑えられています」

「なら、戦況は良くなっているんだろ?」

「この海域では」

 はるみはそう答え、地図を縮小した。

 ニューギニア。

 ラバウル。

 ソロモン諸島北部。

 さらに西へ、東南アジアとインド洋。

 赤い損害表示は、各地に広がっていた。

「他では変わっていないのか」

「一部では史実より改善しています。しかし、日本軍全体の損耗は止まっていません」

 画面の横に数字が並ぶ。

 失われた航空機。

 沈んだ輸送船。

 不足する燃料。

 減り続ける熟練搭乗員。

 撃墜した敵機の数も表示されていた。

 だが、その横には、米軍が新たに投入した航空機の推定数が並んでいる。

 それは圧倒的な工業力を示していた。


 減らしても、減らしても、敵の数は増えていた。

「これだけ落としているのに……」

 美希が言葉を失う。

「アメリカは作り続けている」

 幸雄が画面を見ながら答えた。

「飛行機も、船も、兵器もな」

 京子が俺を見る。

「慎一」

 俺は返事をしなかった。

 ガダルカナルは守った。

 敵の飛行場を叩き、輸送船団を救い、空から来る敵を何度も退けてきた。

 それで流れが変わると思っていた。

 少なくとも、この戦場から日本の負けを止められると考えていた。

 だが、画面に映っているのは、一つの島ではなかった。

 戦場は広い。

 俺が飛んでいない空で、別の零戦が落ちている。

 俺が守っていない海で、輸送船が沈んでいる。

 そして今日、十五人の操縦士が帰らなかった。

「俺は……」

 声を出すと、全員がこちらを見た。

「ガダルカナルを守れば、流れを変えられると思っていた」

 誰も何も言わない。

 俺は地図へ目を戻した。

「だが、違った」

 各地に浮かぶ赤い表示は、今も増え続けている。

「ここを守っても、他で同じことが起きている」

 京子がゆっくりと口を開いた。

「慎一が一人で、すべての戦場へ行くことはできないわ」

「ああ」

「それに、慎一がいなければガダルカナルはもっと早く失われていた」

「分かっている」

 俺は画面の中にあるエスピリトゥサント島を見た。

 十五機の零戦が偵察へ向かい、誰一人戻らなかった場所。

 その基地から、新しい戦闘機が飛び立っている。

 敵は守っているだけではない。

 次の攻撃を準備し、さらに前へ進もうとしている。

「守るだけじゃ駄目だ」

 俺の言葉に、幸雄が顔を上げた。

「慎一?」

「敵が来るたびに追い返しても、その間に敵は次の基地を作り、次の飛行機を送り込んでくる」

「なら、どうするの?」

 京子が聞いた。

 俺はエスピリトゥサント島の表示へ指を置いた。

「飛んでくる前に叩く」

 司令室が静まる。

「戦場で待つのは終わりだ」

 十五機が消えた海域を見ながら、俺は言った。

「次は、こちらから行く」

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