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不時着した零戦を改造して歴史を変える?〜不死の体を手にした俺は第二次世界大戦を無双する〜  作者: よみ はじめ
変わった歴史編

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嗚呼、零戦隊

第102話 嗚呼、零戦隊


 エスピリトゥサント島を離れた十五機の零戦は、三つの小隊に分かれたまま北西へ向かっていた。


 偵察は成功している。


 滑走路の数、駐機していた航空機、燃料施設、拡張を続ける基地の規模。塚原が必要としていた情報は、十分に持ち帰ることができる。


 隊長は背後を振り返った。


 エスピリトゥサント島は、すでに遠ざかり始めている。敵機が緊急発進したとしても、もう大丈夫なはずだ。


「後方警戒を続けろ。燃料を使うな」


 無線で命じると、左右の小隊長機から短い返答が戻った。

 十五機は速度を抑え、編隊を崩さずに飛び続ける。


 ここからガダルカナルまでは距離がある。

 速度を上げると帰還に燃料を、多く必要とする。なるべく温存しておきたかった。


 しかし数分後、最後尾を飛んでいた零戦の操縦士が、風防越しに後方を見ると、青空の下に、小さな黒い点が浮かんでいる。


 鳥ではない。


 点は一つではなく、間隔を空けて並びながら、こちらとの距離を詰めていた。


「敵機!」


 鋭い声が無線に飛び込む。


「後方上空、十機!」


 隊長はすぐに振り返った。


 追ってきている敵編隊は、零戦隊よりも高い位置にいる。八機は見慣れない大きな機体だったが、形から新型の艦上戦闘機だと判断できた。


 その前方を飛ぶ二機は、さらに異様だった。


 濃いガンメタルの機体。


 幅の広い主翼。


 機首では、六枚のプロペラが光の輪となって回転している。


「二機だけ違うぞ」


「新型機か?」


 無線に操縦士たちの声が重なった。


「慌てるな」


 隊長は敵との距離を測りながら命じた。


「第一小隊はそのまま前進。第二、第三小隊は左右へ開け。敵が接近すれば、挟み込んで叩く」


 偵察任務を優先するなら、そのまま逃げるべきだった。


 しかし、敵はすでに後方上空を取っている。速度も明らかに速い、このまま直進すれば順番に撃たれる。


 一度敵の攻撃を受け止め、体勢を崩したところで離脱する、それが最も確実だった。


 零戦隊は三方向へ分かれ始めた。


     ◇


「気づかれた」


 リチャードが、散開する零戦隊を見ながら言った。


「十五機が三隊に分かれる。こちらを包むつもりだ」


 ハーパーは機首を少し下げ、速度を上げた。


「いい判断だ」


「どうする?」


「コルセアは高度を保て。俺たちは先頭の五機へ行く」


「二機でか?」


「奴らの目的は帰ることだ。先頭を崩せば、残りも戻ってくる」


 ハーパーとリチャードのPhantom Hunterが、八機のコルセアから離れた。圧倒的な速度、上空から追い越しざまに反転する。


 二機は並んだまま降下に入り、前方を飛ぶ零戦五機へ向かう。


 零戦側もすぐに気づいた。


「早い!正面から二機来る!」


「第一小隊、迎え撃て!」


 先頭の五機が機首を上げた。


 零戦が得意とする低速域の旋回戦へ持ち込み、後方から敵の八機が来る前に、二機を仕留めるつもりだった。


 二機のPhantom Hunterは、真正面から接近してくる。


 零戦隊は横へ広がり、射線を重ねた。


 距離が縮まる。


 隊長は照準器に先頭の敵機を捉えた。


「撃て!」


 五機の零戦が同時に機銃を放った。


 無数の曳光弾が、二機のPhantom Hunterへ伸びる。


 ハーパーはその直前、機体を右へ倒した。


 リチャードは左へ。


 二機は互いに離れるように急旋回し、零戦隊の射線を左右へ引き裂いた。


 零戦五機もすぐに二手へ分かれた。


 三機がハーパーを追い、二機がリチャードへ向かう。


 ハーパーは旋回を続けながら速度を落とさなかった。


 追ってくる三機の零戦は、機体を傾けて内側へ入ろうとする。

 通常の戦闘機なら、このまま旋回を続ければ零戦に後ろを取られる。


 ハーパーは操縦桿を引いた。


 Phantom Hunterが急角度で上昇する。


「上へ逃げた!」


 零戦三機も機首を上げた。


 だが、上昇するほど速度差が広がっていく。


 六枚のプロペラが空気を掴み、強化されたマーリン発動機が重い機体を一気に持ち上げていた。


「速い……!」


 零戦の操縦士が思わず声を漏らす。


 ハーパーは十分な高度を取ると、上昇をやめた。


 そのまま背面へ回り、追ってきた零戦へ機首を向ける。


 零戦側もすぐに散開した。


 ハーパーの機銃が火を噴く。


 十二・七ミリ機銃弾が、中央の零戦の左翼を貫いた。外板が剥がれ、燃料が白い霧となって吹き出す。


 それでも零戦は落ちなかった。


 操縦士は機体を大きく滑らせて射線を外し、ハーパーの下を潜り抜ける。


「上手くかわしたな」


 ハーパーは追わなかった。


 残る二機が左右から迫っている。


 片方の零戦が鋭く旋回し、Phantom Hunterの後方へ回り込もうとした。


 ハーパーは速度を保ったまま旋回するが、旋回半径では零戦が勝る。


 零戦の機首が少しずつこちらへ向いてくる。


「ハーパー、右だ!」


 リチャードの声と同時に、零戦の胴体へ機銃弾が突き刺さった。


 リチャードが横から高速で通過し、12.7ミリ機銃を掃射していた!


 零戦は発動機から黒煙を噴き、海へ向かって降下していく。


 ハーパーは反転すると、今度はリチャードを追っていた零戦の後方へ入った。


 二機のPhantom Hunterが、互いの背後を守るように交差する。


 零戦側は一機を追うたび、もう一機に横から撃たれた。


「二機が組んでいるぞ!」


「一機だけを追うな!」


 零戦隊長が叫ぶ。

 五機はすぐに追撃をやめ、再び互いを援護できる位置へ集まろうとした。


 だが、その上空から八機のコルセアが降下してきた。


     ◇


「敵八機、上から来る!」


 左右へ開いていた第二、第三小隊が、同時に機首を上げた。

 コルセアは四機ずつに分かれ、高度を利用して零戦隊へ襲いかかる。


 零戦側は正面から受けず、左右へ旋回した。

 四機のコルセアが第一撃を放つ。

 機銃弾は空を切り、零戦隊の間を通り抜けた。


「今だ!」


 三機の零戦が、攻撃を終えて上昇へ移ろうとしたコルセアの後方へ回り込んだ。

 一機の零戦が短く機銃を撃つ。

 弾丸がコルセアの右翼付け根を叩き、破片が飛び散った。

 コルセアは白煙を引きながら高度を落とした。


「一機やったぞ!」


 別の零戦が、さらにその後ろから来たコルセアを照準に捉える。


 しかし、引き金を引く直前、上空から機銃弾が降り注いだ。

 もう一組のコルセアだった。

 零戦の操縦席後方が撃ち抜かれ、機体が大きく傾く。


 空戦は一瞬で入り乱れた。


 零戦は旋回性能を生かし、接近してくるコルセアの内側へ回り込む。コルセアは無理に旋回を続けず、速度を使って上昇し、別の機体がその零戦へ攻撃を仕掛ける。


 一対一なら、零戦の方が素早く後ろを取れる。

 だが、敵は一対一で戦おうとしなかった。

 一機が零戦を引きつけ、もう一機が横から撃つ。

 攻撃を受けた零戦が旋回すると、その先に別のコルセアが待っている。


「敵は二機一組だ!」


「単機で追うな! 互いの後ろを見ろ!」


 零戦隊も二機ずつ組み直そうとする。

 熟練した操縦士たちは、敵の戦い方を見ただけで、その意図を理解し始めていた。

 二機の零戦が並んで旋回し、追ってきたコルセアを挟み込む。

 片方が正面から牽制し、もう片方が低い位置から敵の腹へ回る。


 コルセアの操縦士が気づいた時には、零戦の機銃が火を噴いていた。

 弾丸が胴体を貫き、コルセアが炎を上げる。


「二機目!」


 零戦隊は押し返し始めた。

 八機のコルセアだけなら、このまま戦い続けても十分に勝機があった。

 だが、戦場にはもう二機いる。


     ◇


 ハーパーは乱戦の外側を高速で回りながら、零戦隊全体を見ていた。

 零戦はすでにこちらの戦術へ対応し始めている。


「侮るな!」


 ハーパーが無線で怒鳴る!


 機体の性能だけでなく、操縦士の判断も速かった。


「リチャード。右側の二機を切り離す」


「分かった」


 二機のPhantom Hunterが、戦場の外側から一気に加速した。


 零戦二機がコルセアを追って上昇している。

 ハーパーはそのうちの一機へ向かい、長い射撃はせず、正面を横切るように短く機銃を撃った。


 零戦はすぐに回避した。

 ハーパーを追おうとして旋回する。

 その瞬間、もう一機との間隔が開いた。


「一機、離れた」


 リチャードが下方から上昇し、孤立した零戦の腹へ機銃弾を撃ち込んだ。


 零戦の胴体から炎が上がる。


 残った一機がリチャードへ向かうが、ハーパーがその後方へ入っていた。


 短い連射。


 右翼が根元から裂け、零戦は回転しながら海へ落ちていった。


 二機のPhantom Hunterは、そのまま速度を落とさず戦場を通過する。


「次は左側だ」


 ハーパーの声に、感情はなかった。

 二機は零戦の旋回に付き合わない。

 速度と上昇力を使い、孤立した機体だけを選んで攻撃する。


 零戦隊が二機を追おうとすれば、コルセアが背後から迫る。コルセアへ向かえば、Phantom Hunterが高速で割り込んでくる。


 十五機あった零戦は、少しずつ数を減らしていった。


「残り九機!」


 隊長は周囲を確認した。

 敵のコルセアも二機を失い、一機が煙を引いて離脱している。

 こちらだけが一方的にやられているわけではない。

 それでも、戦況は確実に悪くなっていた。

 何よりも、あのガンメタルの二機を捕まえられない。


 旋回に入れば零戦が勝る。

 だが、敵は旋回戦へ入る前に上昇し、別方向から戻ってくる。

 そのたびに、必ず一機が狙われた。


「全機、戦闘を中止する!」


 隊長は決断した。


「三機ずつに分かれ、低空へ降りろ! ガダルカナルへ向かう!」


 残った零戦が一斉に機首を下げた。


 海面近くまで降りれば、敵は上から攻撃できる方向を制限される。三機ずつ互いを守りながら飛べば、簡単には近づけない。

 零戦隊は高度を落とし、海へ向かった。


 ハーパーは逃げる零戦を見下ろした。


「帰還に切り替えた」


「追うか?」


「ああ、逃すわけにはいかない!」


 六機のコルセアと二機のPhantom Hunterが、零戦隊の後を追う。

 両軍の前方には、青い海だけが広がっていた。

 ガダルカナルまでは、まだ遠い。


     ◇


 海面近くへ降りた零戦九機は、三機ずつ横に並んで飛んでいた。

 敵が後方から近づけば、三機が同時に反転して迎え撃つ。

 一機を狙えば、残る二機の射線へ入る形になる。

 最初に接近した二機のコルセアは、この防御を崩せなかった。

 零戦三機が同時に機首を向けたため、射撃を行わず上昇して離れる。


「この形なら持ちこたえられる!」


 操縦士の一人が声を上げた。

 隊長も前方を見ながら答える。


「編隊を崩すな。敵の挑発に乗るな」


 燃料にはあまり余裕がない。

 なるべく空戦は避けたかった、空戦を続けるほど、ガダルカナルへ届かなくなる。


 零戦隊は速度を保ち、ひたすら北西へ向かった。

 その後方で、二機のPhantom Hunterが左右へ分かれた。

 ハーパーは零戦隊の右へ。

 リチャードは左へ。

 二機は海面近くまで高度を下げると、零戦隊とほぼ同じ高さから接近を始めた。


「左右から二機来る!」


 零戦隊は二方向へ意識を向けた。

 右側の三機がハーパーへ機首を向ける。

 左側では、別の三機がリチャードを警戒する。

 中央の三機は後方から来るコルセアに備えなければならない。

 九機の防御が、三方向へ引き伸ばされた。


「まだ撃つな」


 ハーパーは速度を上げながら言った。


「もう少し引きつける」


 零戦の射程へ入る直前、ハーパーとリチャードは同時に機首を上げた。

 零戦側も二機を追って視線を上へ向ける。

 その瞬間、後方上空で待っていた六機のコルセアが降下した。


「上だ!」


 零戦隊が気づいた時には、機銃弾が海面を叩きながら編隊の中を走っていた。


 一機の零戦が発動機を撃ち抜かれ、黒煙を上げる。

 もう一機は操縦席を直撃され、そのまま海へ突っ込んだ。

 残る七機が一斉に散開する。

 密集したままでは撃たれる。

 しかし、散開すれば二機一組の援護が失われる。


 上昇したハーパーとリチャードが、再び機首を下げた。


「今だ」


 二機のPhantom Hunterが、ばらけた零戦へ向かって降下する。


 零戦隊長は右へ急旋回し、ハーパーの正面から外れた。

 そのまま機体を反転させ、逆に敵の後方へ回り込む。


「取った!」


 零戦の照準器に、Phantom Hunterの胴体が入る。


 隊長は引き金を引いた。

 二十ミリ機銃弾が、Phantom Hunterの左翼を叩く。

 外板が吹き飛び、ハーパーの機体が大きく揺れた。


「ハーパー!」


「問題ない」


 ハーパーは機体を立て直した。


 左翼には大きな穴が開き、操縦桿にも重さが伝わっている。

 それでも速度は落ちなかった。


 ハーパーは上昇せず、そのまま海面近くを直進する。


 零戦隊長は追った。

 しかし零戦の速度で追いつけるはずもない、ハーパーは誘っていたのだ。


 再び照準器へ捉えようとした時、隊長は前方から接近する機影に気づいた。


 リチャードだった。

 ハーパーを追わせ、その正面へ回り込んでいた。

 隊長は咄嗟に機体を倒した。

 リチャードの機銃が火を噴く。

 回避は間に合わなかった。


 零戦の主翼と胴体に弾丸が連続して突き刺さり、燃料が噴き出す。

 隊長機は大きく左へ傾いた。

 それでも操縦士は操縦桿を握り、機体を水平へ戻そうとした。


「隊長!」


 無線から部下の声が聞こえる。


「編隊を戻せ……」


 隊長は最後まで前方を見ていた。


「情報を……ガダルカナルへ……」


 直後、燃料に火がついた。

 零戦は炎に包まれ、海面へ落ちていった。


     ◇


 隊長機を失った後も、残る零戦は戦い続けた。

 一機がコルセアを引きつけ、別の一機が後方へ回る。

 傷ついた機体で敵へ突っ込み、仲間を逃がそうとする者もいた。

 さらに一機のコルセアが撃墜された。


 ハーパーのPhantom Hunterにも、左翼から黒い煙が流れ始めている。

 それでも数の差は縮まらなかった。

 零戦が一機を仕留める間に、別の方向から二機が攻撃してくる。


 上へ逃げればPhantom Hunterが待ち、低空を進めばコルセアが左右から迫った。


 やがて残った零戦は三機になった。

 三機は海面すれすれを飛びながら、互いの間隔を詰めた。


「誰か一機でも帰るぞ」


「ああ」


「見たものを、伝えなければならん」


 三機はそれぞれ異なる方向へ散開した。

 敵の追撃を分散させ、一機だけでも逃がすためだった。


 ハーパーは右へ向かった一機を追う。

 リチャードは中央。

 残る一機には、三機のコルセアが向かった。


 右へ逃げた零戦は、海面近くで何度も進路を変えた。

 ハーパーは無理に射撃せず、距離を保ったまま追う。

 零戦の燃料は残り少ない。


 ハーパーはそれを分かっていた。


「撃たないのか?」


 リチャードの声が入る。


「回避させて燃料を使わせる」


「相変わらずだな」


 零戦は何度も左右へ動いたが、Phantom Hunterを引き離すことはできなかった。

 やがて動きが鈍くなる。


 ハーパーは背後へ入り、短く引き金を引いた。

 零戦の発動機から煙が上がる。

 機体はしばらく海面近くを飛び続けた後、ゆっくりと高度を失い、波の中へ消えた。


 中央へ向かった零戦も、リチャードの攻撃を受けて落ちた。

 最後の一機は三機のコルセアを相手に旋回を続け、一機へ機銃弾を浴びせたが、その直後に背後から撃ち抜かれた。


 炎を上げた零戦が海面へ激突する。


 空に残ったのは、傷ついた二機のPhantom Hunterと、五機のコルセアだけだった。


 ハーパーは海上を見渡した。

 十五機の零戦は、一機も残っていない。


「全機撃墜」


 リチャードが低い声で言った。


「ああ」


「こちらも三機を失った。お前の機体もひどいぞ」


 ハーパーは左翼を確認した。

 穴の開いた外板が振動し、煙も続いている。


「油断した、だが問題は無いさ」


「基地へ戻れるか?」


「ああ」


 ハーパーは機首をエスピリトゥサントへ向けた。

 七機の迎撃隊が、ゆっくりと反転する。

 零戦隊が確認した基地の情報は、ついに日本軍へ届かなかった。


 そしてガダルカナルでは、十五機が帰還するはずの空を、誰もが見上げ続けていた。

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