第8話:双子の妹弟~せんと清三郎~
「兄上! 御土蔵と武具蔵の改検が終わりましたよ!」 明るい声とともに駆け寄ってきたのは、清秀の弟・清三郎であった。清三郎は妹せんと双子で生まれた。
中世において双子は嫌われる傾向にあり、また清三郎は非常に小さく生まれたため、幼少期は命が危ぶまれていた。そのため誕生時から清三郎の存在を知っていたのは身内の者に限られていた。
双子の姉である「せん」に抱きついて寝ている清三郎を見て、家族の誰もが不安を抱いていた。しかし、せんの体温に抱かれながら奇跡的に生き延びた。今の清三郎は、小柄で筋骨も細かったが、頭脳明晰で誰からも愛される優しい性格に育ち、奈良での修業を経て領内の泰山寺の僧籍を得ていた。
「荒木殿からも『蔵はお好きにせよ』とお許しが出ました。参りましょう」
清秀と清三郎は、茨木城の御土蔵に入った。蔵の中には白木の棚が整然と並び、大小の桐箱が恭しく収められている。清三郎がその一つを丁寧に取り出し、蓋を開けた。
「兄上、これのあたりは茶器ですね。茶碗があるはずですが、この箱の中身は唐物の茶入です。室町から続く茶の湯で用いられる最高級の品ですよ」
清秀「ほう……ただの焼き物に見えるが、そんなに凄いものなのか?」 「茶を飲むなら、なんなれば屋外であれば他家を切って器にすればすむことだろう。何がいいんだ。」
清三郎「ははふ、兄上がそう言われると思いました」
清三郎は苦笑しながらも、その目は真剣そのものであった。 「この茶入は、この蔵の中で間違いなく一番の逸品でしょうね。これから織田様や他国の武将と交わる際、必ず茶の湯の嗜みが求められます。今のうちに、中川家の重宝としてお持ちください」
清秀は照れくさそうに頭をかきむしった。 「お前がそう言うなら間違いなかろう。おれには分からんから、清三郎、お前が持っておけ。せんにも見せてやるといい」
この時、清三郎の目利きによって見出された背が高く肩が張っている茶入——それこそが、後に天下の名陣頭としてその名を刻む「唐物勢高肩衝茶入」であり、清三郎によって箱から出されたことで中川家の運命とともに歩み始めることとなった。




