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第4話:和田惟政

 漆黒の鞘に収めたやや幅広の長巻直しは、通常の脇差と変わらぬように見えるが、そりが浅く、その分、直線的な剣筋になる。和田は、二の太刀の際、長側の腰元の脇差を見て、通常の脇差のそりを想定して間合いを作ってしまい、直線的な剣筋に後れを取ったということになる。

 山城の都の生活が長い惟政にとって、長巻直しの脇差は、洛外のいなか侍が大刀や脇差の代わりに使用するものとの認識であり、実戦で長巻直しの脇差を使う者に出会ったのが、今回の中川清秀が初めてであったのが不運でった。死に向かう惟政がこのことを理解できたのかは知る由もない。

 白井河原の合戦、、、歴史の文物が多い茨木城下であっても、合戦の確たる記録は決して多くない。その茨木城下で起こった合戦で、その後の日本の歴史を変えた唯一の合戦でもあるといわれる。 中川清秀側への影響だけではない。足利将軍を信長に引き合わせて上洛を実現した立役者の一人にして、信長配下として摂津守護に任じられた和田惟政が討ち死した。足利将軍の未来に与えた影響はあまりに大きい。

 和田惟政、ほぼ即死であったと思われるが、死の直前に目を見開き右手に握る剣を振るおうとした——。 中川清秀の脇差黒兵衛が、和田の腹の中でググっと押さえつけられるような感覚がある。 和田惟政の体幹に力が入ったのだ。右手に握る刀を振り上げようとしている。 しかし、既に力が入らず右手は上がらない。 それでも、空いた左手を伸ばして中川清秀を掴もうとする。 さすがは和田惟政——幕閣の中心人物の一人である、最期の最期まで諦めない。 武士としてのDNAがそうさせたのだろう。

 中川清秀は、刺した相手の命が尽きるときの「何かの力」の怖さを知っている。 漫画やドラマでありがちな、相手を受け止めて武威を称えるようなことはしない。 現実に残酷であるが、命のやり取りの現場では当然である。 脇差黒兵衛を抜いて、身を翻し、和田惟政の体を避けた。 和田惟政の最期の力が尽き、意識はとんだ。 こうべをたらし脱力するように馬上から崩れ落ちた。

一瞬、戦場全体が静粛に包まれた、時間にしたら計測できないほどの一瞬である。 このとき、山脇源太夫が言う。 「若、行きなさい」 その言葉で、再び戦場が動き始めた。 首取り刀を抜いた山脇源太夫の声で、再び戦場の時が動き出した。


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