9,婚約者候補が集うお茶会
側近候補が決まったからか、先にお茶会の会場にいたのは、婚約者候補として残っている三人の令嬢だった。
この中で敵視しないといけないのは、パスキエン辺境伯令嬢かな。必死に殿下を狙っているって噂だし。
王都から一番離れた辺境に住む田舎者のくせに、わざわざ出しゃばってこないでよ。
例の公爵令嬢は……まだ来ていないみたい。
辺境伯令嬢以外の二人は冴えない顔をしている。きっと婚約者が内定したと思っているからよね。
そうしてパッとしない顔をして、あたしのことを引き立ててくれればいいわ。あたしは、あんた達とは覚悟が違うんだから。
そこに、シャノワール公爵令嬢が到着した。
あぁ……腹立つ。公爵令嬢だけあって、ドレスもアクセサリーも凄く豪華なんだもん。昔、あの女に抱いていた感情に近いものを思い出して、つい眉を寄せてしまった。
でも……なんだろう。凄くピリピリしてない?
すると、じっと見ていたせいか、ギロリと睨まれてしまった。なにあれ!感じ悪ーい!
婚約者に内定してるから、もう他の女とお茶会なんてしないでってことぉ?そんなの、ウィルクス殿下から招待されているんだから知ったこっちゃないよね。
こんな女に負けてたまるかと意気込んで、主催であるウィルクス殿下の登場を待った。
暫くして、たった半年なのに、更に青年らしくなったウィルクス殿下がお茶会へやって来たの!あぁ……本当に素敵だなぁ!
「みんな、わざわざ来てくれてありがとうございます。今日は楽しんでいってくださいね」
いつも通り丁寧で優しい言葉遣いに、頬が熱くなる。そこで、真っ先に声をかけたのはシャノワール公爵令嬢だった。
「ウィルクス殿下。魔石を利用した数々の功績、わたくし感激いたしましたわ!特にあの魔石灯!あれほどの美しい光を見たことがありませんでしたもの」
「ありがとうございます。魔石灯のおかげで、暗い夜道が明るくなりました。火のように何かに燃え移る心配も、消えて暗くなる心配もしなくていい……。安全に街を照らせる、理想のものが完成しました」
「殿下があれほど魔石を使ってくださって、その価値はますます上がるはずですもの。わたくし、これからが楽しみですわぁ」
二人の会話を聞いて、令嬢達は揃って視線を落とした。最初から顔色が悪かった二人に至っては、今にも泣き出しそうな表情で唇を引き結んでいる。
……なによ、これ。なんなの?
もしかしてこのお茶会は、あたし達の気持ちを諦めさせるためのものなの……?そんな惨めな思いをさせるために、この会は開かれたの?
きっと他の令嬢達もそう思っているはず。でも、あたしは俯きそうになる顔を必死で上げ続けたわ。だって、二番目でもいいんだから!
すると――
「確かに魔石の価値は変わるでしょうね。魔塔が開発した魔石灯や魔石浄化路は素晴らしいものですが、最も大きな功績は――『人工魔石』生成の成功ですから」
「「「「!?」」」」
「……?」
公爵令嬢だけでなく、全員が目を丸くしてウィルクス殿下へ注目した。
……なんて?『人工魔石』?
あたしは何のことか分からず、一人だけ首を傾げていた。なによ、全員分かるの?
「天然魔石は、長らく我が国を支えてきました。しかし、採掘された魔石は、純度によって質が異なるところが難点でした。そうですよね、シャノワール公爵令嬢」
「そ、それは……」
「今回、魔塔が生成に成功した人工魔石であれば、ある程度純度の高い魔石を作り出せます。勿論、天然魔石でなければ手に入らない高純度の魔石も存在しますから、天然魔石の需要が落ちることはないでしょう。けれど、天然魔石の採掘に左右されず、一定の質の魔石が安定して供給出来るようになったので、これからはもっと多くの製品が生み出されるでしょうね」
そう口にして、にこりと微笑んだウィルクス殿下の顔は天使のよう。でも、そんな笑みを向けられたシャノワール公爵令嬢は、顔を青くして「……嘘よ」と小さく呟いた。
えっ?なになに?どういうこと?もしかして、この女、婚約者に内定してないの?
口を閉ざす公爵令嬢をよそに、さっきまで表情が暗かった令嬢達から「素晴らしいですわ!」「流石ですわ!」と絶賛が飛んだ。よく分からないけれど、あたしも負けじと「凄いですぅ!」と言っておく。
「ありがとうございます。ですが、人工魔石の開発は僕の手柄ではありません。それに街への普及も、全ては協力してくれた魔塔の人達のおかげです。僕だけでは、夢は夢のままだったでしょう」
謙遜するウィルクス殿下に、あたしや令嬢達は更に熱を上げた。
話を聞いていて、どうやら『人工魔石』は、人の力で生み出された魔石のことっていうのは分かったわ。え、凄くない!?魔石って作れるものなの?
パスキエン辺境伯令嬢の態度はずっと変わらないけれど、シャノワール公爵令嬢は、さっきまでの二人の令嬢みたいに顔色を悪くして唇を噛み締めている。
あ、そっか。みんな、魔石を目的とした婚約だって思っていたんだもん。魔塔で魔石が作れるようになった今、公爵令嬢と婚約する意味なんてないのね!嬉しい!
そうして談笑していると、会場の扉が開いた。立っていたのは、見たことのあるローブ姿。あたしのお披露目パーティーの時、ウィルクス殿下の側にいた魔術師が、お茶会に入ってきた。
魔術師は、カッカッと踵の音を鳴らしながらウィルクス殿下の側に寄って、耳打ちした。
「すみません。魔塔で少々……」
それなりに身長があるから男の人かと思えば、聞こえてきたのは女の声だった。あの時、殿下の横にいたのもこの女の魔術師だったってこと?
しかも、何を当然のように割り込んできてるのよ!
「何かあったの?」
「第一班の課題だった人工魔石の小型化に成功したのですが……」
「えっ!?成功したの?凄いじゃないか!一体どうやって?」
ウィルクス殿下が驚きの表情を見せたあと、少年のように目を輝かせた。前にも見た、あたし達には向けられない顔。妬ましくて、あたしは魔術師を睨み付けた。
「お伝えしていた条件Dがよい反応を示したので、大きさに合わせた魔力の出力調整を……いえ、こちらはまた報告書を提出します。小型魔石が出来たことを伝えたところ、第二班と第五班がその魔石を組み込んで研究したいと……」
「まさか、取り合いでも始めちゃった?」
「いえ、むしろ逆で、第二班と第五班が熱弁を始めた結果、共同研究をする方向で話がまとまりまして」
「……いつから彼らに協調性が芽生えたんだろうね。あれほど他人に興味がなさそうな魔術師ばかりだったのに。君のおかげかな?」
くすくすと楽しそうに笑うウィルクスに、令嬢達は「素敵……」「あんな風に笑われるのね!」とヒソヒソ囁いている。
「ただその……そのせいで、今すぐ殿下に計画書を受理してもらいたいと。あと三十分待つように伝えたのですが……」
「あぁ、あの人達に我慢なんて無理だろうね。だから僕が管理を任されているのだし、それに僕も、小型魔石を早く確認したいかな」
そう言いながらウィルクス殿下は前髪を掻き上げて立ち上がった。
「すみません。魔塔で早急に確認すべき案件が出来てしまったようです。予定より少し早いですが、今日はお開きにさせてください」
「えぇっ!?もう終わりなんですかぁ!?」
あたしの叫びに、令嬢達から非難の目が向けられた。なによ!あんた達だって、ウィルクス殿下が立ち去るのは嫌でしょ!?
「今日はありがとうございました。お土産も用意しましたので、気を付けてお帰りください」
ウィルクス殿下は紳士らしく礼をして、魔術師と共に去っていく。
何かは知らないけれど、ウィルクス殿下に頼らず解決してよ!こっちは半年も会えなかったのに!ウィルクス殿下は魔術師のことを褒めてたけど、殿下に頼らなきゃ解決出来ない無能じゃない!
しかも、あの魔術師の淡々とした感じ!ソレーヌを思い出して虫唾が走るわ!あの女はあんなに背が高くないけれど。
あたしは、ウィルクス殿下が去る要因を作った女の魔術師が忌々しくて仕方がなかった。




