8,魔塔の功績と婚約者の影
あたしがリヴィエル家に迎え入れられてから、王都は目まぐるしく変化していった。
まず始めに、魔石を使った魔石灯って呼ばれる街灯が王都中に取り付けられたの。
昔、治安対策で街灯設備が検討されたことがあったらしい。そこで、蝋燭を入れたランタンを街に吊るしたんだって。
でも、蝋燭はちょっとしたことで消えちゃうし、蝋が切れたら入れ替えの手間もあるでしょ?だから、すぐに撤去されちゃったみたい。
それから何年も問題を改善出来ずにいたのに、それを解決出来る魔石灯が誕生したの!王都の貴族達はこぞって馬車に乗って、夜の街に繰り出した。リヴィエル家も全員で見に行ったわ!
夜道は暗くて危険だって言われていたのに……まるで街の中に星が浮かんでいるみたいに幻想的だったの!蝋燭のような橙色の柔らかな光が街中に煌めいていて、昼間とはまた違った綺麗な街並みに見とれちゃったもん。
おかげで、これまでは太陽の都合で制限されていた行動時間が、大幅に伸びることになったの。
それを開発したのが――魔塔。
つまり、ウィルクス殿下の手柄ってこと!凄くない!?あんなにも美しいものを作るなんて!
魔塔で開発された魔石灯は、お義父様は勿論、他の貴族達もこぞって求めた。屋敷の中を明々と照らしてくれるそれは、多くの蝋燭に火を灯す必要や危険もないし、何よりそれ一つで広い空間を十分に照らしてくれるんだもん。
その光に魅了された者達は、まるで蝋燭や松明に虫が集まるように魔石灯を欲して群がった。でも、ウィルクス殿下によって、その販売は制限されてしまったの。
国の安全のためにと作られたものだから、街への普及を優先したいんだって。あの美しい明かりがすぐ手に入らないのはちょっと不服だけれど、侯爵家だからそのうち優遇されるでしょ。
次に、衛生状態の改善や水質向上、川や海の環境保全のため……だったっけ。元々あった水道設備の整備が行われたんだって。魔石浄化路っていう水を自動で綺麗にする配管が作られたらしい。
……あたしには難しすぎて、何を言ってるのか分からないんだけどね。「ウィルクス殿下と親しくなるために、魔塔の功績は知っておくべきだ」ってお義父様が家庭教師を付けてくれたんだけれど……全部ちんぷんかんぷん。
だって、元々勉強なんて嫌いだもん。子爵家にいた時、よく家庭教師から逃げていたし、親に怒られるたびに鬱陶しいって思っていたからなぁ。
えぇっと……水質汚染のせいで伝染病が流行った際、多くの命が失われた。以降、水質の改善については国を挙げて多くの対策が行われてきた……って、渡された教材には書いてある。
水質汚染って……子爵家があった田舎で暮らしていた時にはそんな話聞いたことなかったけれど。それとも、あたしが知らなかっただけ?
そんな中で、今回の整備はこれまでと比べられないほどの規模なんだって。
魔石灯にしても水道設備にしても、かなり大掛かりなものが多いはずなのに、王都内への普及はあっという間だったらしいの。
なにせ、変わり者ばかりの魔塔の人達が全員で協力するっていう、異例の事態が起こったらしい。そんな人達をウィルクス殿下がまとめ上げたんだよね?本当に素敵……!
他にも、生活に役立つ商品や、身を守ってくれるアクセサリー。魔塔で新たに開発されたもの全てが魅力的だった。
でもね……それを知ったお義父様は顔を歪めていたの。その全てに、当たり前のように魔石が使われていたから、他の貴族達もこう思っているに違いないって言われたわ。
――ウィルクス殿下の婚約者には、シャノワール公爵令嬢が選ばれたのだろう、って。
シャノワール家は婚約者の有力候補で、国内最大の魔石採掘場を持っているんだって。こんなにも魔石を惜しみなく使うなんて、あの家との婚約が決まったと明かしているようなものだって言って、お義父様は打ちひしがれていた。
やだ……やだやだやだ!ウィルクス殿下の婚約者が決まっちゃったの?せっかく侯爵令嬢になれたのに!魔石が採れる山を持ってるなんて、ズルくない!?
あたしは呆然としながら部屋に戻って、気付いたら暴れ回っていた。クッションを振り回して、物に当たり散らして。気に入っていたドレスも、可愛いアクセサリーも、何もかもが色褪せて見えた。
――だって、一番大きくて綺麗な宝石は、手に入らないんでしょ?
「どうして!?ウィルクス殿下ぁ……!」
その一週間後、ウィルクス殿下の言葉通り、半年ぶりのお茶会が開かれたわ。
その間に、あたしは立ち直っていた。最初から王子妃の座じゃなくてもいいって思っていたじゃないと言い聞かせて。
――そうよ。二番目でも三番目でも、なんでもいいわ。
何としても、あの人に気に入られるの。それで、魔術師に向けていたようなあの笑みを、あたしに向けてもらうんだから!
「シャノワール家が相手であれば勝ち目はない。それに、あれだけ大々的に魔石を使われてはな……。だが、殿下に気に入られさえすれば、王子妃でなくとも側妃や愛妾になれる可能性はある。やれるな?」
「あたし、絶対にウィルクス殿下と仲良くなってみせます!」
誰よりも愛らしく見えるよう着飾ったあたしは、お義父様に力強く返事をして、王城へ向かった。




