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5,失格の烙印を押された令嬢の失踪


 そんな日々を繰り返し、三年が経ちました。


 私は家の中で空気と化していました。いつしか使用人達までもが私を疎み、軽んじるほどに。屋敷で私を評価してくれるのは、長年面倒を見てくれているコレリー先生と、家を取り仕切っている家令の二人だけ。


 そんな環境でも、私は勉強や研究を続けていました。生産力の向上や新たな製品の製作、学んだ魔術がそれらに活かせないか挑戦しながら。




 しかし、リヴィエル家が荒れる事態が起こり、コレリー先生までもクビにされることが決まってしまったのです。


 それは、ウィルクス殿下が十五歳になり、婚約者よりも先に側近候補を決めると発表があった時のこと。王家からそれぞれの屋敷に側近の候補者リストが届けられ、それを見た両親は愕然としました。


 候補の一覧に、ガロジェ・リヴィエル――お兄様の名前がなかったのです。


「どうしてだ!ソレーヌとは違って、お前は何度も殿下と交流していたのだろう!?お褒めいただいていると言っていたではないか!」

「間違いありません!『君はさぞ優秀なんだろうね』とお言葉をいただいていました!どうして俺が候補にすら入っていないんだっ!?」


 お父様とお兄様は、感情のままティーカップや花瓶を床に叩き付けました。そのまま二人は大喧嘩を始め、お母様は煩いといって早々に離席。


 私も自室に戻ろうとしたところで、お兄様に「お前のせいだ!」と掴みかかられました。


「俺が候補に入れなかったのは、お前に『令嬢失格』なんて悪評があるせいに違いない!お前がいるから、リヴィエル家の者には側近を任せられないって思われたんだ!」

「そうだ!それしかない!殿下と親しくなれんどころか、家に迷惑ばかりかけおって!」


 二人から向けられた言葉で我慢の限界に達した私は、ついカッとなって反論してしまいました。

 

「どうしてそんなふうに言われないといけないのですか?私の悪評を消そうともせず、それを利用してお兄様を持ち上げていたのは、お父様達ではありませんか!」


 婚約者というただ一人の枠を狙うよりも、側近の枠の方が人数は多い。きちんと勉学に励み、教養を磨いていれば、可能性は十分ありました。


 婚約者の座を手に入れられないだろう私の代わりに、お兄様が側近候補になれるのならと、その不名誉な名前も、踏み台にされることも、受け入れていたのです。


 それなのに……っ。


 言い返した私に、間髪入れずお父様の手が飛びました。

 

「煩い!何の役にも立たん奴が偉そうに!お前に付けているコレリー先生は、元々ガロジェを中心に教えてもらうはずだったのだ!それなのにお前が気に入られてしまったせいで、それが叶わなかったんだぞ!」


 そんなの、私の知ったことではありません。私を選んだのはコレリー先生で、お兄様は何らかの理由でお眼鏡に適わなかっただけでしょう。


 そもそも、お兄様が勉強から逃げていたせいでしょう?


「それでもお前の家庭教師をさせていれば、王室教師だった頃の伝手で、王城の文官や使用人の知り合いにガロジェを評価してくれないかと思い、今まで雇ってやっていたのだ!こうなっては、お前に教師など要らん!今日限りでクビにしてやる!」

「そんな……!」

「お前は、もっとも金を積んでくれるところに嫁がせる!……そうとなれば、分家筋から養女を迎え入れよう。確か、子爵家に容姿のいい娘がいたな。まだ婚約者候補は決まっていないんだ。王子妃が無理なら、側妃や愛妾でもいい。王族に、王子に気に入られるように仕上げれば、まだ……」


 お父様は、そんなことをブツブツと呟きながら部屋を出ていきます。


 正妃の体調不良や、長年懐妊しないといった特別な理由でもない限り、側妃や愛妾が認められていないこの国で、なんて不敬なことを……。


 私は握った拳を震わせて、唇を引き結びます。


「養女が手に入ったら、お前は大金と引き換えに売られるんだろうな!そうすれば、これまで頑張ってきた勉強も何もかも無駄になるんだ!ざまぁみろ!」


 続けてガロジェまで私を侮辱し、部屋を後にします。扉が乱暴に閉じられると、静寂が戻りました。


 コチコチと時計が時間を刻む音だけが響く中、私は赤く腫れた頬に手を添え、ぽつりと呟きました。


「……もう、潮時でしょうか」


 自分達で気付いてほしかった。どれだけ酷い仕打ちをされても家族だから、目を覚ましてほしかった。この家のために、国のために、領民のために……今何をすべきなのかを。



 ――そんな願いは、叶いそうもありません。



 私は床を見つめていた目を、ゆっくりと閉じました。






 次の日、屋敷にソレーヌの姿はなかった。


 せめてもの金蔓を失うわけにはいかないと、使用人だけでなく家族も総出で捜索するが見付からなかった。


 部屋が荒らされた形跡はなく、持ち出された荷物も置き手紙もない。身代金の要求もなく、家出とも誘拐ともつかぬ奇妙な失踪は、瞬く間に社交界の話題となった。


 リヴィエル家の者達が同情を誘うために「あんな愚かな娘でも、これまで育ててやったのです。どこへ行ってしまったんだ……」と悲しげに語ったからだ。


 これまでソレーヌを悪し様に罵っていたグリースは「自分が言い過ぎたからだろうか」と悲痛そうに語り、他の令嬢も便乗して自分のせいかもと嘆いた。


 その粗末な寸劇を、ウィルクスはじっと観察していた。




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