6,今年一の幸運な令嬢はあたし
あの女――ソレーヌの捜索は一年続けられた。リヴィエル家には目立った特色がないらしくて、そんな方法でも注目を集める格好の機会だったからなんだって。
――あたしの家より、全然豪華で立派なのにね。
ソレーヌは最大限に利用されて、丁度一年が経つとその身分はあっさりとリヴィエル家から抜かれたの。仮にあの女が生きていたとしても、平民に落ちぶれたのよ。いい気味だわ。
そして、侯爵家は新たに養女を迎え入れた――それがあたし、アンネ!今年一、幸運な令嬢は間違いなくあたしだと思うわ!
あたしは元々、侯爵家の分家であるモリン子爵家出身で、リヴィエル家が所有している領地の一部を管理している家の令嬢だったの。見渡す限り田畑が広がっている田舎で、特産は農作物だけ。あんなところ、大っ嫌いだった。
言い寄ってくる近隣に住む貴族達も、じゃがいもみたいな令息ばっかり。年に一度、国中の貴族が招待される王家主催の舞踏会に行くたび、王都に住みたいって何度も何度も願ったわ。
それが叶ったのよ!アンネ・リヴィエルになったことで、王都にある侯爵家のタウンハウスで暮らせるようになった。夢の王都暮らし、更には侯爵令嬢の座を手に入れたの!
ソレーヌと同じ年で、可愛い顔立ちと豊かな体つきだと自負しているわ。あの女は確かに小柄で綺麗だったけど、無愛想だし、家族からも令息令嬢からも嫌われていたじゃない?あたしならもっと上手くやれるのにって、ずーっと思っていた。
時々、侯爵一家が視察で子爵家に来ることがあった。そのたびに、ソレーヌはよく一人で田畑しかない景色を見に行っていたっけ。どうせ居心地が悪かったんでしょうね。
だから言ってやったことがあるの。「侯爵令嬢なんて羨ましい。どうして家族に気に入られようとしないの?」って。そうしたら、「家族でも考え方が合わないことはあるのよ」だって。
侯爵家のような恵まれた家の令嬢として生んでもらっておいて!?本当に許せない!
でも、両親や弟は、そんなソレーヌのことをよく褒めていたわ。
しかも、あの女のせいであたしに矛先が向いて、「お前ももう少し勉強せねばな」って言われたのよ?鬱陶しくて、「煩い!侯爵家の女と比べないでよ!」って言い返した気がする。
だってそうでしょ!?侯爵家が雇う家庭教師なんて、とても立派で素敵な先生なんでしょ?そんな優秀な先生に教わっている女と比べられたら堪らないわよ。いい迷惑だわ!
自分の家族に気に入られないからって、知識をひけらかしてモリン家の人間に気に入られようとしたんだろうけど。浅ましいったら。
まぁ、消えた女も元の家も、今更どうでもいいわ。だってあたしは侯爵令嬢になれたんだもん。
あたしが養女に選ばれて、屋敷に迎え入れられてすぐ、お義父様がお披露目パーティーを開くと言ってくれたの。
お義父様が、あたしを利用して注目を集めようとしているって分かっていても、かまわなかった。むしろ、もっと広めてほしいくらいだわ。
そして今日――ついにパーティー当日を迎えた。
あの女の家族は「ソレーヌを失って、娘への愛を認識したのです」と言って、心の穴を埋めるためにとあたしを引き取ることにしたと語っていた。
だから、あたしはあたしの役割を果たしたわ。
「ソレーヌ様とはあまり話したことがなかったんです。領地へ来ても、すぐに一人で何処かへ行ってしまって……特に親しくはありませんでした。でも、お義父様やお義母様、お義兄様の気持ちを思うと、少しでも力になりたくて。養女になる話を受けることにしたんです!」
あの女が変わっていたこと、家族や分家の人間ともあまり交流をしていなかったことをそれとなく伝えて、逆にあたしは侯爵家を思い遣る令嬢として振舞ったわ。
そうしたら、みんな笑顔で相槌を打ってくれたし、「優しいご令嬢なんだね」って沢山褒めてくれた。嬉しくて楽しくて、いろんな方達に挨拶しては、その話をして回ったわ。
持ち前の社交性を活かして愛嬌を振り撒いていたら、多くの令息が親切にしてくれて。まるでお姫様になった気分だった。
上級貴族って最高!あの女がいなくなってくれて、本当によかった。みんながあたしを見てる!最初からこうなるべきだったのよ。あたしこそが選ばれる側なんだから!
あたしはこれまでの人生で一番幸せを感じていた。
毎年舞踏会を心待ちにしていたけれど、あの女と顔を合わせることだけが憂鬱だった。だって、あたしとの差をまざまざと見せ付けられたんだもん。
家族からは嫌われていても、ソレーヌは侯爵令嬢。家の恥にならないようにって、いつも綺麗なドレスを着せてもらっていた。あたしが着た方が絶対似合うのにって、悔しくて悔しくて仕方がなかったんだから!
あたしは自分の体つきを活かして、胸元が少し開いたドレスで令息達の目を釘付けにしていったわ。
令嬢達はこちらを冷ややかな目で見ていたけれど、あたしが主役だから大きな声では非難出来なかったみたい。それに、もし注意されたって止めるつもりないしね。
悔しい?ねぇ、悔しい?ふふふっ、気持ちは凄く分かるわ!あたしもそうだったもん。でも、あんた達だって、子爵令嬢だった時のあたしを馬鹿にしていたでしょ?
実際には、ここにいる全員ではないのでしょうけれど。でも、舞踏会では“田舎くさい”とか“流行遅れ”って何度言われたことか。だから、ざまぁみろって感じ。
そこへ新たな来訪者の名が告げられ、ワッと声が上がった。主役はあたしなのに、誰?と思って振り返って――息を呑んだわ。
だって、目に飛び込んできたのは本物の王子様だったんだもん!その瞬間、あたしの心臓は鷲掴みにされてしまったの。
「侯爵、遅くなりました」
やって来たのは第三王子!お義父様が招待状を送ったとは言っていたけれど、ローブを着た魔術師を伴って、わざわざパーティーに来てくれたの!
「おぉ!ウィルクス殿下!お越しくださり光栄です!ささ、どうぞこちらへ。アンネ、来なさい」
「はぁい、お義父様」
甘ったるい声で返事をして、急いで側へ向かう。これまで話した令息達とはまるで比べ物にならない容姿に、あたしはうっとり見蕩れてしまった。
十六歳の王子様は、あどけなさを残しつつ凛々しさもある。美少年で背もスラリと高くて、シャープな輪郭に優しげな緑の瞳。王族特有のブロンドの髪は後ろで一つに結われ、揺れている。
挨拶なさいと促され、あたしはにこにことカーテシーを披露したわ。
「お初にお目にかかりますぅ、アンネ・リヴィエルと申します!お会い出来て光栄ですぅ!」
「初めまして。ウィルクス・フォン・モントブールです」
淡々とした返答。それだけなのに、あたしの胸はパッと弾けた。
声まで素敵!しかも王族なのに、とっても丁寧で紳士的……!
えっ、あたし、この人の婚約者になれるかもしれないの?凄い!王子妃ってこと!?もしそれが無理だったとしても、お義父様が言っていたみたいに、側妃でも愛妾でもいい。絶対に落としてみせるんだから!
あたしは興奮したまま、自分が一番可愛く、そして女らしく見える角度を意識して、令息達に声をかけた時とと同じように振舞った。
「ウィルクス様、是非お話ししましょ!」




